ゾンビの怪獣歩き
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外に出ると、めちゃくちゃ暑かった。前みたいに追い越しても面倒だ。俺はひらりに電話をかけた。
「ひらり、今どこだ?」
「……川。」
俺は昨日行った川を思い出した。まさか……!
「おい、待て。早まるな。」
「何言ってるの?こんな浅瀬で死ぬ訳ないじゃん。」
…………浅瀬?
「え?お前どこにいるんだ?」
「学校の前の方の川、降りる所みつけて降りてみたら、カラッカラだね~やっぱり真夏だから川も死んでる~。」
「死んでる~とか言うな。」
なんだ……心配して損した。こっちが思ったより、呑気なもんだ。
「こんなふうに簡単に越えられればなぁ……」
「一体何を簡単に越えようと思ってんだよ?」
「三途の川?」
「はぁ?お前なぁ!」
本当に腹が立つ!!
「嘘、嘘!冗談!冗談だって。富士川。富士川だよ。いつも橋越えなきゃ駅行けないから、だるいな~って……思って……。」
ひらりは慌てて冗談だと説明する。悪い冗談は言っていい時と悪い事がある。今言われたら確実に腹が立つ。でも……落ち着け。落ち着け俺……!!話を聞いて来いって言われたんだ。そう言われて居場所を確認するために電話したんだから……
「………あのさ……いや、俺は悪くない!お前、さっきの態度、あれ何だよ!喧嘩売ってんのか?」
「…………売ってたよ。」
「はぁ?」
意図的か?!何考えてんだよ!!
「帰る口実が欲しかった。1人になりたかった。」
「だったら喧嘩売らずに帰れ!!」
キレてはいけない。わかってはいるけど……けど……湧き出る感情が止まらなかった。
「だって……だって……」
「ふざけんなよ!!そうやって、すぐお前は引きこもりやがって……この……大バカ野郎!!不幸がそんなに偉いか?え?私は可哀想ですって振り撒いて、みんなに心配かけて満足か!?だからお前の事最低だって言ってんだよ!!だから俺はお前の事、好きになれないんだよ!!」
ひらりはしばらく無言で、突然笑いだした。
「……………。……ははははは!あはははは!!やっぱり春壱は春一番だ。その告白、しかと受け止めました。もう誰の前でも泣きません。可哀想も振り撒きません。約束します。」
意外だ……思いの外冷静に返されて、逆にこっちが戸惑った。
「いや……別に……」
「え?」
「別に、俺の前では……泣いてもいいけど?泣いて愚痴ればいいだろ。それで楽になるなら、いくらでも付き合ってやる。話したければ……だけど……」
少し考えて、ひらりは言った。
「それって迷惑じゃない?」
「迷惑だよ。」
「それって同情?」
「同情だよ。」
「それって……友達?」
「友達だ。」
「ありがとう!春壱。ありが……うわぁ!!」
叫び声の後に、ゴボゴボと音がした。
「どうした!?ひらり?」
「……えっと……携帯大丈夫かな?あ、まだ繋がってる。携帯防水でよかった~!」
川でコケたか?
「お前今どこだよ?全然見つからねーんだけど。」
学校の前の方の浅瀬の川に来たが、ひらりの姿が見当たらない。
「まずい…………春壱……。」
「俺の質問スルーかよ!あ、いた!見つけた!……て、お前……。」
見つけたのは、ゾンビのように立つ…………右半分が泥まみれのひらりだった。
「藻が……」
「モガ?」
「藻が滑るーーーーーーー!!」
その声は真夏の雲一つない青空に轟いた。
どこに何を叫んでるんだよ……。
「…………。」
ひらりはテンションだだ下がりで、一言も喋ろうとしない。
「とりあえず学校戻るぞ。」
学校に向かって歩くと、ひらりの靴は歩く度にジュゴジュゴと音を立てる。
「面白い……。歩く時SEがあると怪獣みたいじゃない?これ、リアルバニラ。」
ひらりは怪獣のように歩く。
「ぶっ!あはははははは!!やっぱりお前……くだらねーな!」
ただでさえ……ゾンビみたいなのに、その格好で怪獣の歩き方……もう、完敗だ。俺の負けだ。俺は、今までこんなに笑った事があったかどうかわからないくらい、腹が痛くなるほど笑った。
美術室の外側出入口まで来ると、ひらりは美術室の窓から先輩達に声をかけられていた。
「ひらり、どうしたの?その格好。」
「川でコケたんです~!」
半泣きのひらりが先輩に言った。俺はまだ笑えた。
「ぎゃははは!バカすぎてウケる……!お前臭い!泥臭い!!」
「先輩~春壱が、春壱が電話してきて~」
「人のせいにするな!」
俺は外の水道についていたホースで、ひらりに水をかけて洗った。
「うわっ!冷たっ~!!」
「ぎゃははは!犬みたいだ!あー腹痛ぇ~」
「顔はやめろ!バカか!」
ひらりは濡れた犬のように震えていた。
「は~る~い~ち~!てめぇ~!」
それを見ていた先輩が言った。
「タオル持って来てあげる!遊びはそのくらいにしてとりあえずジャージに着替えなよ?」
窓から見ていた先輩が中に入って、搬入口の大きな扉を開けてくれた。
ひらりはまだ外で体の所々から水を流していた。
「相田さんどうしたの?」
紙とハサミを持ったまま片岡が様子を見に来た。
「下着が気持ち悪い~慎ちゃ~ん!替えのブラとパンツ持ってない?」
「相田さん、何故僕に聞く?」
「片岡、相手にするな。ただのセクハラだ。」
片岡は困って固まっていた。
「セクハラじゃありません~!たまたま慎ちゃんがそこにいたからですぅ~!」
「お前は本当に最低だな!」
俺とひらりのやり取りを見ていた片岡は、持っていた紙をパンツの形に切って渡す。
「あ、慎ちゃん!替えの下着ありがとう!ってコラー!」
「あははははは!相田さん元気そうで安心した。」
「みんなには、ご心配をおかしました。ごめんなさい。」
ひらりは美術室の皆に深々と頭を下げた。
「なんか、春壱に説教されたんだよね。可哀想振り撒いてんじゃねーよ!って。ガチ説教だよ?」
「お前、誰にチクってんだ?みんなにか?え?またみんなに可哀想ですアピールか?本当にお前ズルいな。」
「ズルいですよ~!女優は狡猾な生き物ですぅ~!基本かまってちゃんですぅ~!」
ひらりの反応に、先輩達が悪ノリしだした。
「あ!ひらり、何それ?下着?あ~!それに着替えるんだ~!」
「そうそうこれを……ってつけるかーい!」
「さすが!一年間仕込んできただけある。」
ひらりは制服を絞りながら笑っていた。
「よくここまで仕込まれたな……。」
片岡は冷静にまた紙を切り出した。
皆でギャーギャーふざけていると、椎名先生が雑巾を持って来た。
「相田さん、準備室で着替えたら?更衣室遠いでしょ?」
「しいちゃん!ありがと~!」
ひらりは美術室に入って、着替えるために椎名先生と準備室に向かった。
あー笑った。笑った。ざまーみろ。




