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ゾンビの怪獣歩き

66


外に出ると、めちゃくちゃ暑かった。前みたいに追い越しても面倒だ。俺はひらりに電話をかけた。

「ひらり、今どこだ?」

「……川。」

俺は昨日行った川を思い出した。まさか……!

「おい、待て。早まるな。」

「何言ってるの?こんな浅瀬で死ぬ訳ないじゃん。」

…………浅瀬?


「え?お前どこにいるんだ?」

「学校の前の方の川、降りる所みつけて降りてみたら、カラッカラだね~やっぱり真夏だから川も死んでる~。」

「死んでる~とか言うな。」

なんだ……心配して損した。こっちが思ったより、呑気なもんだ。

「こんなふうに簡単に越えられればなぁ……」

「一体何を簡単に越えようと思ってんだよ?」

「三途の川?」

「はぁ?お前なぁ!」

本当に腹が立つ!!


「嘘、嘘!冗談!冗談だって。富士川。富士川だよ。いつも橋越えなきゃ駅行けないから、だるいな~って……思って……。」

ひらりは慌てて冗談だと説明する。悪い冗談は言っていい時と悪い事がある。今言われたら確実に腹が立つ。でも……落ち着け。落ち着け俺……!!話を聞いて来いって言われたんだ。そう言われて居場所を確認するために電話したんだから……

「………あのさ……いや、俺は悪くない!お前、さっきの態度、あれ何だよ!喧嘩売ってんのか?」

「…………売ってたよ。」

「はぁ?」

意図的か?!何考えてんだよ!!


「帰る口実が欲しかった。1人になりたかった。」

「だったら喧嘩売らずに帰れ!!」

キレてはいけない。わかってはいるけど……けど……湧き出る感情が止まらなかった。

「だって……だって……」

「ふざけんなよ!!そうやって、すぐお前は引きこもりやがって……この……大バカ野郎!!不幸がそんなに偉いか?え?私は可哀想ですって振り撒いて、みんなに心配かけて満足か!?だからお前の事最低だって言ってんだよ!!だから俺はお前の事、好きになれないんだよ!!」


ひらりはしばらく無言で、突然笑いだした。

「……………。……ははははは!あはははは!!やっぱり春壱は春一番だ。その告白、しかと受け止めました。もう誰の前でも泣きません。可哀想も振り撒きません。約束します。」

意外だ……思いの外冷静に返されて、逆にこっちが戸惑った。

「いや……別に……」

「え?」

「別に、俺の前では……泣いてもいいけど?泣いて愚痴ればいいだろ。それで楽になるなら、いくらでも付き合ってやる。話したければ……だけど……」


少し考えて、ひらりは言った。

「それって迷惑じゃない?」

「迷惑だよ。」

「それって同情?」

「同情だよ。」

「それって……友達?」

「友達だ。」

「ありがとう!春壱。ありが……うわぁ!!」

叫び声の後に、ゴボゴボと音がした。


「どうした!?ひらり?」

「……えっと……携帯大丈夫かな?あ、まだ繋がってる。携帯防水でよかった~!」

川でコケたか?

「お前今どこだよ?全然見つからねーんだけど。」

学校の前の方の浅瀬の川に来たが、ひらりの姿が見当たらない。

「まずい…………春壱……。」

「俺の質問スルーかよ!あ、いた!見つけた!……て、お前……。」


見つけたのは、ゾンビのように立つ…………右半分が泥まみれのひらりだった。

「藻が……」

「モガ?」

「藻が滑るーーーーーーー!!」

その声は真夏の雲一つない青空に轟いた。

どこに何を叫んでるんだよ……。

「…………。」


ひらりはテンションだだ下がりで、一言も喋ろうとしない。

「とりあえず学校戻るぞ。」

学校に向かって歩くと、ひらりの靴は歩く度にジュゴジュゴと音を立てる。

「面白い……。歩く時SEがあると怪獣みたいじゃない?これ、リアルバニラ。」

ひらりは怪獣のように歩く。

「ぶっ!あはははははは!!やっぱりお前……くだらねーな!」

ただでさえ……ゾンビみたいなのに、その格好で怪獣の歩き方……もう、完敗だ。俺の負けだ。俺は、今までこんなに笑った事があったかどうかわからないくらい、腹が痛くなるほど笑った。


美術室の外側出入口まで来ると、ひらりは美術室の窓から先輩達に声をかけられていた。

「ひらり、どうしたの?その格好。」

「川でコケたんです~!」

半泣きのひらりが先輩に言った。俺はまだ笑えた。

「ぎゃははは!バカすぎてウケる……!お前臭い!泥臭い!!」

「先輩~春壱が、春壱が電話してきて~」

「人のせいにするな!」


俺は外の水道についていたホースで、ひらりに水をかけて洗った。

「うわっ!冷たっ~!!」

「ぎゃははは!犬みたいだ!あー腹痛ぇ~」

「顔はやめろ!バカか!」

ひらりは濡れた犬のように震えていた。

「は~る~い~ち~!てめぇ~!」

それを見ていた先輩が言った。

「タオル持って来てあげる!遊びはそのくらいにしてとりあえずジャージに着替えなよ?」

窓から見ていた先輩が中に入って、搬入口の大きな扉を開けてくれた。


ひらりはまだ外で体の所々から水を流していた。

「相田さんどうしたの?」

紙とハサミを持ったまま片岡が様子を見に来た。

「下着が気持ち悪い~慎ちゃ~ん!替えのブラとパンツ持ってない?」

「相田さん、何故僕に聞く?」

「片岡、相手にするな。ただのセクハラだ。」

片岡は困って固まっていた。

「セクハラじゃありません~!たまたま慎ちゃんがそこにいたからですぅ~!」

「お前は本当に最低だな!」


俺とひらりのやり取りを見ていた片岡は、持っていた紙をパンツの形に切って渡す。

「あ、慎ちゃん!替えの下着ありがとう!ってコラー!」

「あははははは!相田さん元気そうで安心した。」

「みんなには、ご心配をおかしました。ごめんなさい。」

ひらりは美術室の皆に深々と頭を下げた。

「なんか、春壱に説教されたんだよね。可哀想振り撒いてんじゃねーよ!って。ガチ説教だよ?」

「お前、誰にチクってんだ?みんなにか?え?またみんなに可哀想ですアピールか?本当にお前ズルいな。」

「ズルいですよ~!女優は狡猾な生き物ですぅ~!基本かまってちゃんですぅ~!」


ひらりの反応に、先輩達が悪ノリしだした。

「あ!ひらり、何それ?下着?あ~!それに着替えるんだ~!」

「そうそうこれを……ってつけるかーい!」

「さすが!一年間仕込んできただけある。」

ひらりは制服を絞りながら笑っていた。

「よくここまで仕込まれたな……。」

片岡は冷静にまた紙を切り出した。


皆でギャーギャーふざけていると、椎名先生が雑巾を持って来た。

「相田さん、準備室で着替えたら?更衣室遠いでしょ?」

「しいちゃん!ありがと~!」

ひらりは美術室に入って、着替えるために椎名先生と準備室に向かった。

あー笑った。笑った。ざまーみろ。


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