テーブルクロスの下
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演劇部をやめなさい。あの人の言葉に縛られて、あの人の望む人生を歩もうとしないで。あの人はもう死んだんだから。
そう……あの人はもう死んだ…………。
私のせいで…………死んじゃったんだよ。
「ひらり、引いてる。」
川の流れを眺めながら、お姉ちゃんの伝言の事を考えていたら、竿に魚がかかっていた。
「え?これ?どうするの?」
「貸して。巻くよ。」
「お、お願いします!」
どうしていいかわからず、釣竿を慎ちゃんに渡した。
「あながち間違いじゃないのかな?」
「は?」
慎ちゃんが糸を巻きながら、首をかしげた。
「この前春壱が、ここら辺に住んでる奴はだいたいやった事あるって言ってたから。」
「うん、それはないよ。僕はたまたまじゃないな?あ、逃げられてる。」
慎ちゃんは針を持つと、餌をつけてまた投げ込んでいた。
「まあ、俺は片岡がやってるって知ってたから。」
「何だよ~!」
足を川につけると冷たくて気持ちがいい。川のせせらぎと、心地いい風が吹いた。
「気持ちいいな~!日陰だとそれほど暑くないし。あ、蚊が出てきた!ちょっと、学校に虫除け取って来るね~!慎ちゃん竿よろしく!大物!マグロ釣っといてね~!」
「川にマグロがいるか!」
「無茶言うね。」
私は靴を履いて、学校へ戻った。
ひらりが学校へ虫除けを取りに行くと、片岡と二人きりになった。
「片岡、なんか、巻き込んで悪かったな。」
一応、謝っておこうと思った。
「別に、嫌なら断ってるよ。それより……相田さん、演劇部やめるの?」
「さあ?」
片岡も相田先生の伝言を気にしてるんだな……。
「状況はよく知らないけど……昨日、相田先生の伝言……。」
「まあ、もう子供じゃないんだから、やるもやめるも決めるのはひらりだろ。」
「…………。」
川の流れる音が響いていた。遠くで先輩達の笑い声も聞こえる。
「もし……もし、演劇部やめたら、美術部でひらりの事頼む。約束はすぐ忘れるし、すぐサボるし、すぐ変顔するし、あちこちで着替えるし、あちこちで寝るけど……」
「けど?」
「最低な奴だけど、悪い奴じゃない。」
ひらりの置いて行った竿がかかっていた。いっそのこと、マグロが釣れればいいのに。そうすれば、また、あいつが笑っていられる。
その頃私は美術室の鞄から虫除けを出していた。虫除けスプレーをかけていると、後ろから話しかけられた。
「相田さん?」
声の方を向くと、しいちゃんが準備室から出て来ていた。
「しいちゃん!今日部活じゃないのにどうしたの?」
「片岡君から色々聞いて、時間が空いたから来てみたの。でも誰もいないからこっちで仕事してた。」
「話し合いは午前中にやって午後はみんな川に遊びに行ってるんです。あ、じゃあ、慎ちゃん呼ぶね!」
私はすぐに携帯を出そうとした。
「あ、いいよ。合宿の人数2週間前で締め切りって伝えて。部屋の使用許可と食堂の方に伝えなきゃいけないから。」
「しいちゃん、急に合宿なんてワガママ言ってゴメンね。」
「ホント、急にどうしたの?片岡君の事好きになっちゃった?」
え…?しいちゃんからそんな事言われると思わなかった。
「残念ながら全然違~う。慎ちゃんとはお互いに恋の相談する仲なんですよ?」
「へぇ~そうゆうのって、相談してる間にくっついたりするんだよ?」
ここは慎ちゃんのために否定しとかないと……。
「そうゆうもんですか?私には当てはまる気がしないんですけど。私は……全然……誰も好きになれないし……。」
「まぁ、人を好きになるには、まず、自分を好きになる事からだと思うな~」
「自分を……?」
地面が少し、ぐらついた気がした。
「自分を大事にできる人は、他人も大事にできる。相田さんはまず、自分を好きになる事から初めてみたらどうかな?」
「…………それは……無理です。」
「どうして?」
しいちゃんに聞こえるか聞こえないかの、小さな声で言った。
「私は……人殺しだから。」
「え?」
今度は、しっかり聞こえる声で言った。
「私は、絶対に自分を許せないと思う。自分が好きになれない。多分、私は……一生人を好きになる事はないですね……。」
「相田さん……?」
しいちゃんの顔を見たら、誤魔化さずにはいられなかった。
「あ、ごめんね。しいちゃんは気にしないで。私の役がつかめなくて困るだけだから。慎ちゃん呼びますね。合宿と展覧会の事、慎ちゃんから直接話聞いてください。慎ちゃんが実行委員長だから。」
「え?片岡君が実行委員長なの?珍しい……。」
私はすぐに、慎ちゃんに電話をかけた。
「しいちゃん、慎ちゃん来るまで待っててね。私向こう戻るから。」
そして、虫除けを鞄にしまって、鞄ごと持って美術室を出た。
早く……早く戻って……征服されないと……
虫除け虫除け……私は途中で立ち止まり、虫除けを取り出す。虫除けの缶をシャカシャカ振ると、しばらく虫除けを見つめた。その後、持っていた虫除けの缶を思い切り廊下に投げ捨てた。
カシャーン!と、缶の音だけが、静かな校舎に響いた。
世界を征服するなんて……バカバカしい……あの人の言葉に縛られてる?私が?縛られてはいけない?あの人の望む人生って何?あの人は何を望んだの?私はただ……欠片を拾っているだけなのに……
「はぁ……。はぁ……。」
苦しい……。テーブルクロスの下は…………どうしても見苦しい。




