綺麗な所
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こぼれた水は、元には戻らない。
私の中はまるで津波の跡みたいにぐちゃぐちゃだ。ぐちゃぐちゃの地面に、綺麗な机と椅子を置いて、綺麗なテーブルクロスを敷いて、精一杯綺麗な所しか見ないようにしてる。綺麗な所しか見たくない。足元を見てしまえば……自分に嫌気が差す。自分をやめたくなる。やっと人並みになった名前が、どんどん……ぐしゃぐしゃのゴミになっていく……。
あの女と同じ。……あの女と…………同じ。
駅への道を途中から、田んぼ道の方へ道を変えた。
記念碑の前でしばらく1人で座っていると、辺りはどんどん暗くなっていった。
「……蛍……今日はいないなぁ……。」
「相田さん?」
蛍を探していたら、部活帰りの慎ちゃんに会った。
「……慎ちゃん?今帰り?」
「うん。相田さんは……どうしてこっちの道にいるの?」
少し高台になっている記念碑から降りて、慎ちゃんの前に行く。
「だって、こっちのが隠れて帰るにはもってこいだから。」
「まだ隠れて帰ってるんだ。お姉さんから逃げても、家に帰ればいるでしょ?」
普通、そう思うよね……。
「お姉ちゃんとは、一緒に住んでないんだ。勝手に結婚したから、お姉ちゃんは実家には来ないし。」
一緒に住んでる訳じゃない。だから、逃げたって何の意味もないってわかってる。さっさと家に帰ればいいのにね……。
「そうなんだ。」
「私の家は……もう元には戻らない。私が何をして、何を思ったとしても……何も変わらない。世界は……何も変わらない……。」
慎ちゃんに……何を言ってるんだろう……。こんな訳のわからない事言って、困らせるだけ。
「世界は変わらない……?相田さんがそう思ってるだけだと思う。」
「え…………?」
「目に見えないだけで、何か変わってる事もあると思う。」
驚いた。正直、慎ちゃんからハッキリと意見がもらえるとは思ってなかった。
「僕、合宿に行く。」
「うん。」
「合宿で、みんなでランタン作ろう。中庭デコレーションして、ライトアップして、1日だけの美術部の展覧会、開こう。美術部には、今までにない試みだから、ちゃんとやれるかわからない。……相田さん、手伝ってもらえるかな?」
慎ちゃん……。私を元気づけようとしてくれてる?
「モチのロン!!がってん承知の助!!あははは、楽しみ~!」
私は大袈裟にポーズを取った。
「良かった……。」
慎ちゃんはホッとした様子だった。
私は、少し気まずくなって、展覧会の事を具体的に話す事にした。
「えーと、あの、美術部の子全然知らないんだけど、しいちゃんに聞いて連絡取ってもらっていいかな?夏休み始まっちゃったから、色々手配するの大変だよね?私達二人じゃ無理だよね。」
「一応、みんな連絡先知ってるけど…幽霊だから来るかどうか……」
「一応、連絡取ってもらえるかな?もしくは連絡先教えて。私が交渉してみる!」
まずは、戦力確保しなきゃ!
「う、うん……。」
「あとは、どんなデコレーションにするかみんなで話し合いたいし、予算の事はしいちゃんに相談して、早めに買い出しに行って、来られる人が来られる時間に作業できるようにして……」
私が張り切っていると、慎ちゃんは少し引いていた。
「相田さん……。」
少し真面目な顔で、慎ちゃんは私を呼んだ。私は、何も訊かれないように、精一杯笑顔で誤魔化す。
「ん?何?何か見落としあった?あったら言ってね。」
慎ちゃんは察してくれたのか、諦めて、歩きながら、展覧会の話を進めた。
「……ランタンって言ったけど、火は使えないからLED照明生徒会に借りれるか聞いてみよう。」
「あ、生徒会のLED照明は演劇部のやつ。いつも生徒会に貸してるんだよ~」
「そうなんだ。じゃ、演劇部に交渉してよ。」
私は足を止めた。
「え?いいの?演劇部に言っても……?」
「え?何かまずい?もしかして、美術部の活動って演劇部に秘密にしてた?」
「違うよ。こんな楽しそうなイベント……演劇部に喰われるよ?慎ちゃん、内輪で一晩だけの展覧会やろうとしてるでしょ?演劇部に喰われたら、みんな巻き込まれてとんでもないイベントになるよ?」
脅かすつもりはなかったけど、実際、先輩達の行動力は半端ない。
「そ、そうなの?」
「あ、でも、ちゃんと話せばわかってくれる人達だかね?ライト、借りようか。」
「そう。」
慎ちゃんはどうやら自分の言い出した事の大きさに気がついて、不安になってきたのかな?そうゆう時は、笑って誤魔化そう。
「あははは。慎ちゃんが私を元気づけるために企画したイベントだって話したら、きっと先輩達……余計に張り切るかな?」
誤魔化して…………笑おう。
「あははは!ありがとう。ありがとうね慎ちゃん……。暗くて……見えなくて……良かった。」
誤魔化すつもりが、泣いていた。すると、慎ちゃんは後ろを向いた。
「目が暗闇に慣れてるから見えてる。」
「ごめん。これは……これは嬉し泣きだからね?慎ちゃんが泣かしたんだからね?」
「……うん。わかってる。……ごめん。」
慎ちゃんは全然悪くないのに謝った。
私は、暗闇の中、カエルの鳴き声を聞きながら、声を押し殺して泣いた。慎ちゃんは悪くない。悪いのは、私だ。全部、私のせい……。




