姉妹喧嘩
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夏休みに入った数日後の部活終わりに、ひらりを相田先生の車に乗せた。
「痛って!ふざけんな!さっさと乗れ!」
散々抵抗されて、やっとひらりを後部座席に詰め込んだ。
「はぁ~る~い~ち~!」
「俺はのび◯じゃない!」
お前はのび◯の母ちゃんか!
「私を売りやがったな~!このやろ~!」
「売った訳じゃない!ちゃんと話し合え!」
感謝こそされても恨まれる筋合いはない。
「何を?何を話し合えって?え?」
ひらりは俺の胸ぐらを掴んで、顔を近づけて睨んでくる。メンチを切ってるつもりか?
「俺に喧嘩売るなよ!」
「ヤダヤダ!やだよ~!」
今度はだだっ子……。
「うるさい!」
相田先生が一喝した。
「じゃ、俺は帰るから。」
これで俺の仕事も終わり。車から出ようとすると……
「ここにいて!まだ帰るな!!」
「何で!」
二人に捕まれて止められた。仕方なく、その場に残った。が、しかし……。
「…………。」
静かな沈黙が続いた。
「…………私、何も話す事ない。」
ひらりが口を開くと、運転席の相田先生は後ろを向いて言った。
「私だって、何をどう話していいかわからないけど……連絡無視したり、無断外泊するのはおかしいでしょ?」
「どうして外泊にお姉ちゃんの許可が必要な訳?それに、誰だって話したくない人や時だってあるもん。」
相田先生は前を向いて、ため息をついた。
「本当に……いつまでも子供なんだから!」
「もう、子供じゃないよ!子供扱いしないでよ!」
「だったら大人らしく、ワガママ言うの止めなさい!」
相田先生は前を向いたまま、後ろを向かない。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。」
「ワガママ……?私……ワガママなんて言ってない……!」
「ワガママじゃない?帰りたくない、話したくない、やるべき事をやらないのは、子供のワガママだよ……。」
正論を言われて、ひらりは黙ってしまった。
「…………。」
「都合が悪くなるとすぐ黙る。あの女と同じ。」
「あの……あの女って……?」
口を出さないつもりでいたのに、俺は思わず相田先生に訊いてしまった。
「死んだ母親。」
「どうして、あの女って……」
「あの女の事なんか、話したくもない。」
訊くべきじゃなかった……俺は少し反省した。また、最悪の雰囲気で、長い長い沈黙が流れた。
「…………。」
今度は相田先生から、話始めた。
「だから、悪かったって。あの女の所に置いて行った事、勝手に結婚して家を出た事。まぁ……私は後悔してないけど。」
「だから、それは別に怒ってないよ。お姉ちゃんの決めた事に不満なんかない。」
「だったら……晴喜君の事?」
ひらりは下を向いた。下を向いたまま、小さな声で言った。
「晴君の事は……お姉ちゃんは悪くない。……と思う。お姉ちゃんは大人として、当然の対処したと思う。」
「そこまでわかってるなら……」
「頭で理解するのと、気持ちを整理するのは同じ速度じゃない!だから、今は……話したくないって言ったのに……。」
ひらりは……ずっと鞄の取っ手を強く握っていた。
「じゃあ、気持ちの整理がついたら話せるのね?」
「…………私、歩いて帰る。」
「え?待てよ。話は終わりか?」
車を降りようとするひらりに、相田先生は止めようとはしなかった。
「もういいよ……。今話しても、結局何も解決しない。何だかあの子が全然わからない。春壱君、巻き込んじゃってごめんね。姉妹喧嘩びっくりしたでしょ?」
「いえ、俺が驚いたのは……相田先生がお母さんの事をあの女って……」
相田先生とひらりにこんなに温度差があるなんて……
「あの女は……自分の馬鹿みたいな夢のために、幼いひらりを捨てて出て行ったの。数年前、突然戻って来て、勝手に死んだ。私は絶対許せない。」
「ひらりはそんなふうに思ってないと思います。お母さんがお芝居を見て、誰かの手に言葉の葉を残せるようにひらりにしたって大事そうに話してました。決して『あの女』なんて言ってなかったです。」
俺は何とかその溝を埋めようとしていた。
「ひらりが……そう……言ってたの?」
「…………はい。」
相田先生は後ろをこっちを向いて言った。
「それは……あの女の呪いだよ。」
「呪い……?」
「悪いけど春壱君、駅まで送るから、私からの伝言、届けてくれる?」
伝言……?相田先生、俺にあいつに何を言わせる気ですか……?




