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知らなかった事知った事

56


終業式の後、教室に戻ろうと歩いていると、クラスの女子が話しかけてきた。ひらりと仲のいい、確か……佐藤莉奈?だっけか?

「ひらり、今日休み?法事か何か?」

「法事?別に、何も聞いてない。」

どうせまたサボりだろうな。

「ほら、去年の今頃法事で休まなかったっけ?」

去年はクラスが別で知らない。そう思っていると、もう1人のクラスの女子が、話に入って来た。


「今頃じゃないよ?ゴールデンウィークの前くらいじゃなかった?」

「よく覚えてるね。」

本当に法事で休んだのか?

「だって私同中だもん。去年法事があったら今年はないでしょ?」

「え?初七日とか1回忌とか 、あとなんだっけ?法事って色々あるんだよ?おばあちゃん亡くなった時にちょくちょくあるな~って思った記憶あるもん。」

「でも、相田さんよくサボるし。今日もサボりじゃない?」

結局サボりって話か……


「あれだけサボるなって言ったのに……この調子じゃ、去年の法事も本当かどうか怪しいな。遠い親戚勝手に何人も殺されてるかもな。」

そう言った瞬間、時間が止まった様にみんなは黙った。

「…………。」

え?何かまずい事言ったか?

「え……壱、知らないの?去年亡くなったの、相田さんのお母さんだよ?」

「……は?今、なんて言った?」

「壱知らなかったの?」

知る訳ねーだろ……。


そこへ晴が今さら登校してきた。

「おはよー。どうしたの?」

晴は佐藤とクラスの女子に遅い朝の挨拶をした。

「おはよーってもう終了式終わったよ?晴、何しに学校来たの?」

「部活しに。ファンが待ってるから。」

「ファン?あーはいはい。」

晴は知ってたんだろうか……?

「晴、ひらりの母親、去年亡くなってたって知ってたか?」

晴は当然という顔をしていた。

「知ってたけど?壱知らなかった?」

「知らなかったよ!何で誰も教えてくれなかったんだよ。」

「わざわざ教えるような事じゃないでしょ。」

それは……確かに。


「そうだけど……。それで4月の新歓公演は見てない訳か……。」

自分の席について、俺は頭を抱えた。何で全然気がつかなかったんだ?いや、普通ひらりから言うだろ?じゃあ、出張でいないってのは父親?俺が頭を抱えたままでいると、

「珍しい……。あの壱が頭抱えて落ち込んでる。」

「あれは、知らなくてひらりちゃんによっぽどの事言ったんだろうね。」

そう言われているのが聞こえたが、相手をする気になれなかった。


俺は……知らない事ばかりだ。晴の気持ちも、ひらりの気持ちも……。いや、知ろうとしなかった。厄介事に巻き込まれたくないと思って、避けてきた。




教室でそんな話があったとは知らず、私は終業式は美術室でサボっていた。クレードルに置かれている絵で壁を作って、その中に隠れていた。


慎ちゃんが何も知らずに入って来る。慎ちゃんは、描き途中の油絵が移動した事に気がつくだろうか?しばらく様子をみると、慎ちゃんは、気にせず準備に取りかかる。クレードルに置いていた渇きかけの絵を下ろすと、私はバレてしまった。バレた私は、とりあえず…………変顔をした。

「ぶーっ!」

絵を落としそうになって、慎ちゃんは慌てた。


「相田さん、サボらないんじゃなかったの?」

「終了式とかは別~いてもいなくても同じだし。慎ちゃんこそサボりじゃん。」

さすがに、終業式がまだ終わる時間じゃなかった。

「終了式はいいんだよ。いてもいなくても同じだし。」

「そぉ?慎ちゃん大きいから、すぐいないってバレて、はい!片岡君がいません!とかチクられてるよきっと。」

私は挙手してみせた。


「大きさと存在感は別だよ。そっちこそ、須藤に、またサボって~ってバレてるよ。」

「まあ、バレてるだろうね。春壱、あいつ小姑みたいだからね~でも、そこがまた面白い。」

「面白い?」


私は棚から自分のスケッチブックを探した。

「小学生以来だよ~変な名前って面と向かって言われたの。」

「確かに須藤ははっきりものを言うからね。」

そう、春壱は春一番だ。

「大きくなるとさ、ひらりちゃんって可愛い名前だね~なんてみんな言うけど、本当は内心変な名前って思ってるのに、全然言わないんだなぁ~これが。これが俗に言う建前ってやつかって思った。」

「まあ、普通はそう言う。」

「春壱は、変だけどちゃんと考えられてるって言ってくれたんだ。春壱の言葉は本心だったから、ペラッペラのチンケな名前が、初めて人並みに昇格した気がしたの。だから春壱には感謝してる。まぁ、だから口うるさいのは我慢してやんないとね~」

スケッチブックを出して、何枚もめくっていると、慎ちゃんは意外な事を言った。

「…………相田さんは、白石が好きなんじゃなかったの?」


「え?は?いつ私ハル君が好きって言った?」

「いや、スケッチブックに……白石ばっかり描いてるから。」

慎ちゃんは私のスケッチブックの方を見た。

「ばっかり?いや、描いたの2枚だけだけど。」

「そうなんだ。てっきり、剣道の絵は全部白石かと…」

「ハル君だけじゃないよ?これはドム部長さん。これはザク先輩。」

私は見開きで、絵を見せて説明する。

「剣道部はいつからガ○ダムで構成されたの?」

「ガ○ダム?って言うより、最初は鳥に見えたから描いたんだけどね。一番最初に羽が生えてるように見えたのは春壱。」

「じゃあ、相田さんは須藤が好きなの?」


春壱を?私が?

「え?」

「気づいてないの?」

「存じ上げませんが?」

「自覚したらどうでしょう?」

「自覚……したら……だって……私が?春壱を?」

私は顔が暑くなって、手で顔を押さえた。

「じゃあ、完全に片思いだ……。」

恥ずかしくて、冷静になりたくて、言った。


「驚いた。須藤に他に彼女がいたとは。」

「彼女じゃなくて、好きな人がいるんだよ。しかも、夏休み明けに転校してくる。」

「小河羽多?」

何で?何でわかるの?

「慎ちゃん何気に詳しいよね。」

「同中だからね。同中で小河羽多を知らない人はいないよ。」

「好きな人の好きな人……好きになれるかな……?」

慎ちゃんの質問にそう答えたけど、あまり自信はない。

「さぁ?もし、相田さんが好きになれたら、僕も好きになれる気がするよ。」

「私は実験台ですかね?」

「どうだろうね。」


そこへ春壱がやってきた。


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