知らなかった事知った事
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終業式の後、教室に戻ろうと歩いていると、クラスの女子が話しかけてきた。ひらりと仲のいい、確か……佐藤莉奈?だっけか?
「ひらり、今日休み?法事か何か?」
「法事?別に、何も聞いてない。」
どうせまたサボりだろうな。
「ほら、去年の今頃法事で休まなかったっけ?」
去年はクラスが別で知らない。そう思っていると、もう1人のクラスの女子が、話に入って来た。
「今頃じゃないよ?ゴールデンウィークの前くらいじゃなかった?」
「よく覚えてるね。」
本当に法事で休んだのか?
「だって私同中だもん。去年法事があったら今年はないでしょ?」
「え?初七日とか1回忌とか 、あとなんだっけ?法事って色々あるんだよ?おばあちゃん亡くなった時にちょくちょくあるな~って思った記憶あるもん。」
「でも、相田さんよくサボるし。今日もサボりじゃない?」
結局サボりって話か……
「あれだけサボるなって言ったのに……この調子じゃ、去年の法事も本当かどうか怪しいな。遠い親戚勝手に何人も殺されてるかもな。」
そう言った瞬間、時間が止まった様にみんなは黙った。
「…………。」
え?何かまずい事言ったか?
「え……壱、知らないの?去年亡くなったの、相田さんのお母さんだよ?」
「……は?今、なんて言った?」
「壱知らなかったの?」
知る訳ねーだろ……。
そこへ晴が今さら登校してきた。
「おはよー。どうしたの?」
晴は佐藤とクラスの女子に遅い朝の挨拶をした。
「おはよーってもう終了式終わったよ?晴、何しに学校来たの?」
「部活しに。ファンが待ってるから。」
「ファン?あーはいはい。」
晴は知ってたんだろうか……?
「晴、ひらりの母親、去年亡くなってたって知ってたか?」
晴は当然という顔をしていた。
「知ってたけど?壱知らなかった?」
「知らなかったよ!何で誰も教えてくれなかったんだよ。」
「わざわざ教えるような事じゃないでしょ。」
それは……確かに。
「そうだけど……。それで4月の新歓公演は見てない訳か……。」
自分の席について、俺は頭を抱えた。何で全然気がつかなかったんだ?いや、普通ひらりから言うだろ?じゃあ、出張でいないってのは父親?俺が頭を抱えたままでいると、
「珍しい……。あの壱が頭抱えて落ち込んでる。」
「あれは、知らなくてひらりちゃんによっぽどの事言ったんだろうね。」
そう言われているのが聞こえたが、相手をする気になれなかった。
俺は……知らない事ばかりだ。晴の気持ちも、ひらりの気持ちも……。いや、知ろうとしなかった。厄介事に巻き込まれたくないと思って、避けてきた。
教室でそんな話があったとは知らず、私は終業式は美術室でサボっていた。クレードルに置かれている絵で壁を作って、その中に隠れていた。
慎ちゃんが何も知らずに入って来る。慎ちゃんは、描き途中の油絵が移動した事に気がつくだろうか?しばらく様子をみると、慎ちゃんは、気にせず準備に取りかかる。クレードルに置いていた渇きかけの絵を下ろすと、私はバレてしまった。バレた私は、とりあえず…………変顔をした。
「ぶーっ!」
絵を落としそうになって、慎ちゃんは慌てた。
「相田さん、サボらないんじゃなかったの?」
「終了式とかは別~いてもいなくても同じだし。慎ちゃんこそサボりじゃん。」
さすがに、終業式がまだ終わる時間じゃなかった。
「終了式はいいんだよ。いてもいなくても同じだし。」
「そぉ?慎ちゃん大きいから、すぐいないってバレて、はい!片岡君がいません!とかチクられてるよきっと。」
私は挙手してみせた。
「大きさと存在感は別だよ。そっちこそ、須藤に、またサボって~ってバレてるよ。」
「まあ、バレてるだろうね。春壱、あいつ小姑みたいだからね~でも、そこがまた面白い。」
「面白い?」
私は棚から自分のスケッチブックを探した。
「小学生以来だよ~変な名前って面と向かって言われたの。」
「確かに須藤ははっきりものを言うからね。」
そう、春壱は春一番だ。
「大きくなるとさ、ひらりちゃんって可愛い名前だね~なんてみんな言うけど、本当は内心変な名前って思ってるのに、全然言わないんだなぁ~これが。これが俗に言う建前ってやつかって思った。」
「まあ、普通はそう言う。」
「春壱は、変だけどちゃんと考えられてるって言ってくれたんだ。春壱の言葉は本心だったから、ペラッペラのチンケな名前が、初めて人並みに昇格した気がしたの。だから春壱には感謝してる。まぁ、だから口うるさいのは我慢してやんないとね~」
スケッチブックを出して、何枚もめくっていると、慎ちゃんは意外な事を言った。
「…………相田さんは、白石が好きなんじゃなかったの?」
「え?は?いつ私ハル君が好きって言った?」
「いや、スケッチブックに……白石ばっかり描いてるから。」
慎ちゃんは私のスケッチブックの方を見た。
「ばっかり?いや、描いたの2枚だけだけど。」
「そうなんだ。てっきり、剣道の絵は全部白石かと…」
「ハル君だけじゃないよ?これはドム部長さん。これはザク先輩。」
私は見開きで、絵を見せて説明する。
「剣道部はいつからガ○ダムで構成されたの?」
「ガ○ダム?って言うより、最初は鳥に見えたから描いたんだけどね。一番最初に羽が生えてるように見えたのは春壱。」
「じゃあ、相田さんは須藤が好きなの?」
春壱を?私が?
「え?」
「気づいてないの?」
「存じ上げませんが?」
「自覚したらどうでしょう?」
「自覚……したら……だって……私が?春壱を?」
私は顔が暑くなって、手で顔を押さえた。
「じゃあ、完全に片思いだ……。」
恥ずかしくて、冷静になりたくて、言った。
「驚いた。須藤に他に彼女がいたとは。」
「彼女じゃなくて、好きな人がいるんだよ。しかも、夏休み明けに転校してくる。」
「小河羽多?」
何で?何でわかるの?
「慎ちゃん何気に詳しいよね。」
「同中だからね。同中で小河羽多を知らない人はいないよ。」
「好きな人の好きな人……好きになれるかな……?」
慎ちゃんの質問にそう答えたけど、あまり自信はない。
「さぁ?もし、相田さんが好きになれたら、僕も好きになれる気がするよ。」
「私は実験台ですかね?」
「どうだろうね。」
そこへ春壱がやってきた。




