言葉がみつからない。
55
真っ暗な田んぼ道では、カエルが合唱をしているように鳴いているのが聞こえた。
「個人活動に飽きたらさ、みんなでアートとか作るのどう?」
「アートって?」
「絵を描くだけが美術部じゃないでしょ?オブジェとか、ランタンの大きいやつとか?」
歩きながら、慎ちゃんに提案してみた。今はとにかく灯りが欲しい。
「ランタンの大きいやつ?」
「今暗すぎて提灯でも欲しいなって思って思い付いたんだけど…あとは、中庭デコレーションして、ライトアップするとかは?」
「考えとく。」
「考えといて。」
「…………。」
すると、慎ちゃんはすぐに黙った。もしかして、今?考えてるのかな?……真面目か?
二人が黙って歩いていると、がさがさっと音がする。
「ひぃっ!なんでこんなに暗いの~?軽い肝試しになってるよ~!」
「そう?毎日通ってるから全然そう思わなかった。」
どうりで全然平気な訳だ……。
「あ、今光った!」
足元で小さな光が光った気がした。
「ホタル?」
「ホタル~?久しぶりに見たかも。」
感動して、ホタルのいた辺りを少し腰を下ろして探した。
「最近はここら辺でも減ってるらしい。環境破壊がこんな田舎にも来てると思うと世も末だ。」
「あははは!その発言、言ってる事がおじいちゃんだよ?ホタル懐かしいなぁ………。昔よくお姉ちゃんと家抜け出して見に行ったっけ。」
ホタルは足元の草から、ひらひらと田んぼの稲穂の方へ飛んで行ってしまった。
「相田さん……相田さんは……」
「何?慎ちゃんは特別ひらりんって呼んでいいよ?」
「それは………遠慮しとくよ。」
慎ちゃんは引いた。というより、引かせた。
「じゃあ、遠慮して。遠慮して詳しく聞かないでくれる?私、今は何も答えたくないの。」
「そう……。」
「じゃないと聞いちゃうよ~?」
人差し指を慎ちゃんの方へ向けた。
「な、何を?」
「いいの?聞いちゃうよ?しいちゃんの事が好きなの?って。」
慎ちゃんは動揺した様子で、たどだとしく答えた。
「…………それは……聞かないで、欲しいな……。」
「でしょ?誰だって聞かれたくない事ってあるでしょ。」
「そうだね……。」
そう言ってまた、慎ちゃんは黙り始めた。
「でも、慎ちゃんはさっき助けてくれたから、ひとつだけ何でも質問に答えちゃう。いいよ。何でも聞いて。ひとつくらいは答えるよ。」
慎ちゃんに向けた人差し指は、上を向いていた。
「別にいいよ。」
「いいの?しいちゃんの好みのタイプとか、しいちゃんの好きな食べ物とか……」
今度は指折り数えた。
「別にいい。自分で本人に直接聞く。」
「あ~そ。」
そう言うと、私は先に進んだ。すると、
「あ、じゃあ、ひとつだけ。」
何?
「好きになった相手に好きな人がいたら、どうする?」
「うーん。」
すぐには答えられなかった。私が出した答えはポンコツだった。でも、それ以外思いつかなかった。
「好きになる?」
「は?」
「ごめん。私まだ人を好きになった事がないから、よくわからないんだけど……好きな人が好きな人って、自分も好きになるんじゃないかなって。」
私の、単なる想像でしかない。
「何それ。もしそうなら、相田先生の結婚相手の、杉本先生も好きになれるんじゃないの?」
慎ちゃんに、痛い所を突かれた。
「…………そう……だね。私……お姉ちゃんの事……好きじゃなくなっちゃったのかな?」
あんなに一緒にいたのに……大好きだったのに……私は歩けず、ただ、暗闇の中で立ち尽くしていた。
相田先生の車の中は、また赤信号を待っていた。相田先生は、赤信号の度にため息をついては、イラついていた。
「はぁ~。」
もう一度、相田先生がため息をつくと、晴が突然笑い出した。
「あははははは!!まるで、男二人で話してるみたいだね。」
「男二人?どこが?」
相田先生は女だろう?
「だって、それじゃ、まるで女心がわからないオッサンの会話だよ。妹置いて出て行ったから恨まれてるかも?突然帰って来て、これがお義兄さんだよ。あなたの学校の先生よ。もう決まった事だからどうしようもないでしょ?今更何を説明すればいいの?もう大人なんだからわかるでしょ?……って、これを理解しろって事?僕……なんかひらりちゃんの気持ちわかるよ。きらりちゃんはひらりちゃんに僕にした事と同じ事をしたんだよ。そっちの気持ちは知ったこっちゃない。大事なのはこっちの事情。もう大人なんだからわかるよね?わかれよ!って。押し付けた。自分勝手だよ……。もう、この辺で降ろして。ここからなら歩いて帰れるから。」
相田先生は、車を止めた。
「送ってくれてありがとうございました。相田先生。」
「俺も、一緒に降ります。ありがとうございました。失礼します。」
俺達二人は車を降りて、歩き始めた。
俺は……晴に何も言えなかった。言葉が、みつからなかった。




