裏門を越えて
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描きたい!その気持ちを抑えられないまま、美術室に飛び込んだ。
「こんにちは~!」
「…………。」
美術室には、鶴ちゃんしかいなかった。
「鶴ちゃん、しいちゃんは?」
「鶴ついてないから。」
「鶴ちゃんも、まだここで描いてる?私もここで描いていいかな?」
そう言ってすぐにスケッチブックを机に置いて描きはじめる。
「相田さん、鶴ちゃんは止めてもらっていいかな?」
「部活時間短縮だから早く帰れって言われないかな?」
「言われるだろうね。」
時計を気にしながら、急いで描く。
「しいちゃん頼む~しいちゃんの力で何とかしてくれ~」
しばらく描いていると、放送が入る。
「校舎内に残っている生徒は帰る支度をし、直ちに帰宅しなさい。図書室で残っている生徒も7時には出るように。」
「もうちょっと……今いいとこなんだけどなぁ……鶴ちゃんまだいけるかな?しいちゃん来るまで引っ張れるかな~?」
準備室を見に行っても、しいちゃんの姿はどこにも無かった。
「椎名先生はもう帰ったよ。」
「はぁ?先に言えよ!あ、ごめん。何だよ先に言ってよ……!」
「相田さんはまだ描きたいのかなって思ったから……」
鶴ちゃん……優しいけど、それは迷惑になるよ……。
「描きたいけど……しいちゃんいないなら、美術部の印象悪くなることは避けないと。しいちゃんに迷惑かけたくないし。」
私はスケッチブックを棚に戻す。
「鶴ちゃんも帰ろう。ほら、支度して。」
「鶴じゃないって。」
「お疲れ~!」
私は鶴ちゃんを置いて帰る。
校門を出ようとしたら、お姉ちゃんの車が見えた。これは、確実に待ち伏せだ。
私はまた下駄箱に戻った。すると、ちょうど鶴ちゃんに会う。
「忘れ物?」
「うちの学校裏口ってあったよね?」
「あるけど……門は閉まってると思うけど。」
門を越えれば……帰れるかも!
「どうしよう……。」
「何?ストーカー?」
「違うよ。そんな物騒な物じゃないんだけど……門にお姉ちゃんの車見かけたから……」
鶴ちゃんは首をかしげた。
「お姉さんと一緒に帰るんじゃないの?」
「私は一緒に帰りたくないの。」
「じゃあ、裏口しかない。」
「よし、行くか!」
覚悟を決めて、靴を持って裏口へ向かう。
私はまた下駄箱に戻った。また私が戻って来た事に驚く鶴ちゃんが可愛い。
「え?」
「渡り廊下閉まってた。鶴ちゃんお疲れ~!」
「お疲れ。」
その頃春壱は、校門で待っていたお姉ちゃんに捕まっていた。
「春壱君!ひらりは?」
「え……?先に帰りましたけど。」
何でまた相田先生がここに?
「ずっと待ってたからそんなはずないんだけど……裏口かなぁ?」
「はぁ……じゃあ……俺はこれで。」
俺は巻き込まれる前に帰ろうとすると、また引き止められた。
「ちょっと待って。」
「何ですか?」
「この前、春壱君の家に泊まったんだよね?」
またその話か……。
「いや、あの、それは……やましいことは何も。友達も一緒で……あ、あと、妹と一緒に寝たんです。」
「ふーん。」
「うわっ!全然信じてない!」
相田先生の目は疑う事を止めていない。
「ひらりももう高校生なのよ?健全な男子高校生と一緒にいて何もなかったなんて信じられると思う?春壱君の事見損なったよ!」
そりゃそうだ。でも……
「家に泊めた事は謝ります。軽率な行動でした。」
しっかり頭を下げた。
「でも、あの日ひらりは、どうしてもお姉さんには会いたくないって。親にも電話かける様子が全然無くて、駅で一晩過ごすって言うから……連れて帰りました。すみません……。」
「そう……。そうだったんだ……それは、ひらりがお世話になりました。ねぇ、春壱君は知ってるんだよね?私がひらりに避けられてる理由。」
「え~と……それは……」
答えに迷っていると、後ろから晴の声がした。
「僕のせいだよね?」
いつの間にか晴が後ろに立っていた。
「晴、いつの間に?」
「お久しぶりです。相田先生。」
意外にも、晴は冷静に挨拶をした。
「晴喜……君……?」
相田先生は少し驚いてた。
「ひらりちゃんと一緒に春壱の家に泊まった友達は僕ですよ。」
「ハル君って晴喜君の事だったんだ。春壱君もハルだから、てっきり……」
その頃裏口では、ひらりが門を越えられず困っていたらしい。辺りはもうすっかり真っ暗になっていた。
「この門を越えなきゃ帰れないか……。」
立ちはだかる裏門の前で、どうしたものかと立っていると、
「何?この門を越えたいの?」
暗闇から声が聞こえた。
「あっちから大きいゴミ箱持って来て台にして越えるんだよ?」
「本当に?助かった!ありがとう!」
ゴミ箱を門の前へ持って行って、少しぐらつくけど、乗れそう。バランスを取って乗っていると、
「相田さん、何してるの?」
「うわっ!」
急に鶴ちゃんに話しかけられて驚いた。そして、ぐらついてゴミ箱から落ちた。
「いったぁ~!」
私は尻餅をついた。
「相田さん、大丈夫?」
「ちょっと鶴ちゃん驚かさないでよ!!」
「驚かしたつもりはないよ。」
鶴ちゃんの冷静な返しに、少し冷静になった。
「うん、ごめん。私最近イライラしてて。生理前かな?」
「大変だね。」
鶴ちゃんは淡々とこうゆう冗談を受け流してくれるから好きだ。
「うん……。よし、もう一度トライしてみる。よっこらせ!あ!いけそう!よし、あとは降りるだけ!よいしょ!」
私はやっと門を越えられた。手を払い、制服の汚れを払う。
「鶴ちゃん、門の越え方教えてくれてありがとうね。」
「は?」
「だってさっき、ゴミ箱台にすれば越えられるって教えてくれたでしょ?」
鶴ちゃんは少し考えて言った。
「僕がここに着いた時には相田さんはもうゴミ箱に乗ってたよ?」
「え……じゃあ誰が……?」
「僕だよ。僕。やだな~ひらりちゃん、気がつかなかった?」
暗闇から現れたのは…………
「げ!杉本!」
「一緒に帰ろうか。」
「嫌です。」
「さ、車に乗って。」
「結構です。」
その薄ら笑いが腹立つ……。
「そんな事言わないで、お義兄さんの顔をたてると思って。」
「義兄だと思ってませんから。生徒が教師の車で帰りませんから。」
こいつは絶対お姉ちゃんの回し者だ。
「帰りが遅くなった生徒はみんな乗って帰ってるよ~?ね、行こう。きらりちゃんに怒られちゃうよ。」
杉本に手を掴まれる。
「嫌だ!やだ離して!」
私が全力で拒否していると、鶴ちゃんが止めてくれた。
「あの、杉本先生、相田さん嫌がってますよ。離してあげてください。相田さん今日は僕と帰る約束だったんです。」
「へ…………?」
鶴ちゃん、ナイスアシスト!!
「あ、そ、そう。そうゆう事だから、じゃ、先生さようなら!!鶴ちゃん行こ!」
私は鶴ちゃんの腕を掴んで走って逃げた。




