相談事はお姉ちゃんに?
28
剣道場前の廊下で、春壱の練習終わりを待つ間、ドアの小窓から練習風景を覗いてみた。初めてちゃんと練習を見た。それはまるで、雨雲の中を飛ぶ鳥達に見えた。袴の擦れる音は羽の羽ばたきみたい。竹刀が当たる音は雷のよう。鳴き声はけたたましくて、鳥達の振り絞る力がこっちまで伝わって来る。そのうち、全員並んで礼をする。あ、そろそろ練習終わりだ。
「は~る~い~ち~!」
「だから、俺はド◯えもんじゃない!」
片付けの間、掃除を手伝うと言って道場の中に入れてもらった。私はモップを持ちながら、春壱の片付けを待つ。
「剣道の練習、初めて見た。あんなに強く打たれて痛くないの?怖くないの?」
「痛いけど?怖いけど?」
「え……やってる人達みんな、マゾなの?」
「マゾじゃない。全世界の剣道選手に謝れ。」
そう言うと、春壱は更衣室へ入って行った。
春壱が着替えている間、私は道場の掃除を手伝う。更衣室から出てきた春壱は、道場の片隅で座り込んで道着を畳んでいた。私はモップを持って春壱の所へ急いだ。
「で、さっきのが目的じゃないだろ?」
「そうなの!春壱、どうしよう!日曜日!!」
「ああ、デート?いいんじゃね?勝手に行けば?」
「違うよ!劇部の先輩達に相談したら………」
春壱は手が止まってこっちを見て、呆れて言った。
「何?怒られた?そりゃそうだろ。デートなんてしてる場合じゃないだろ。」
「日曜日まで稽古しないって!」
「は?」
思わず、春壱の手が止まった。
「日曜の私のデートに向けて私改造計画に尽力するんだって………」
「あーそーなのー。」
全然興味のない返事で、また道着を畳むのに戻る。
「先輩達多分私で遊びたいんだと思う。」
「確かに。お前完全にカモだな。」
春壱はそう言うと鞄に胴着をしまう。
「まぁ、今回が初めてじゃないんだけどね。イベントがあるとよく脱線するの。去年のハロウィンもクリスマスも稽古しないで準備してたし。何でもイベント化するの好きみたい。」
「それなら日曜まで何しても無駄だろ。好きにやらせとけば?」
私はモップの柄を揺らしながら、悩む。
「そうだけど、私が変わればいいんだよね?変わったら先輩達は稽古に戻るんだよね……。どうしたらいいかな?」
「そうゆうのはさ、クラスの女子とか、母親とかに相談すればいいんじゃない?」
母親…………?ってお母さんって事だよね
「お母さんは……ちょっと無理かな?お姉ちゃんなら……」
「じゃ、姉貴に相談してみればいいじゃん。」
お姉ちゃんにも相談しずらいかな……。
「それは……ちょっと無理かな……。」
「何?仲良くないの?」
「お姉ちゃんにはもう家庭があるし……迷惑かけちゃいけないのかな?って思って……」
そう、お姉ちゃんは家を出て、誰にも言わず結婚した。
「ふーん。結婚したんだ。」
「うん……え?」
何だか今の、お姉ちゃんの事知ってる様な感じ。
「別にいいんじゃね?三日間ぐらい練習しなくても……」
「役者はアスリートと同じなんだよ?1日体動かさなきゃ取り戻すのに3日かかるんだよ?」
3日も私のせいで…………
「何かしら運動はやるんだろ?そこまで気にする事ないだろ。部長が決めた事だし。部員がやりたくてやってるならかまわないだろ。」
「そうなんだけど……」
春壱はため息をつくと私の前に手を出す。
「携帯。携帯出せ。」
「携帯?」
春壱は私の携帯で勝手にアドレスから番号を探し始めた。
「相田、相田きらり。相田きらり。」
「何でお姉ちゃんの名前知ってるの?」
やっぱり…………春壱はお姉ちゃんの事知ってるんだ。
「お前の姉ちゃんうちの中学に教育実習に来てた。」
「そうなんだ………卒業した中学は廃校になったから、そっちら辺の中学にしたって言ってたかも。そうなんだ………春壱達の中学だったんだ……。」
持っていた携帯を、春壱は私に返してきた。
「あ~!本当にかけた!もうつながってる!!」
「もしもし?ひらり?」
久しぶりの……お姉ちゃんの声だ…………!
「…………お姉ちゃん?久しぶり……。」
「キャー!ひらり~!元気!?学校はどう?楽しい?今日遊びに来る?来るよね?」
相変わらず、強引だなぁ…………
「お、お姉ちゃん落ち着いて」
「今から学校に迎えに行くから!支度しといて!じゃ!」
そう言うと、電話が切れる。
「え!ちょっ!お姉ちゃん?もう切れてる……ちょっと!春壱!」
気がついた時には、春壱は先に帰っていた。また……逃げられた!




