秘密の恋人ごっこ
27
次の日の朝、下駄箱のどこからか女子二人の話し声が聞こえた。
「ねぇ聞いた?晴の新しい彼女できたって」
「それ本当?やだな……晴が誰かのものになるなんて……そんなの信じられない。晴はみんなの晴なのに。」
ま、マジですか……?昨日の今日でもう噂になってるの?怖~これは晴君に口止めが必要かな?
昼休みになると、私はチャイムが鳴るとすぐに一人で非常階段前に向かった。良かった……。誰にもバレてない。私は窓を開けて外の非常階段まで出た。梅雨の晴れ間が気持ちいい。
「ひらりちゃん、またこんな所にいた。」
!!一番バレたくない人にバレてた!!お昼ご飯くらいゆっくり食べたいのになぁ……。明日からまた教室で食べようかな。
「この前一緒に食べようって言ったのに、いつもこっそり教室出て行っちゃうなんて酷いな~」
「あの、晴君、今回のこの恋愛ごっこの事は、みんなには秘密にして欲しいんだけど……」
先にちゃんと言っておかないと。
「どうして?」
「晴君の事、本当に好きな人にとっては、迷惑だと思うから。」
そう、私は晴君の事好きな訳じゃない。だから、他の誰かに晴君の事諦めさせる事はしたくない。
「わかった。この事は二人の秘密だね。」
「あの、ありがとう。恋人役なんて、そんな無茶なお願い聞いてくれて。」
すると、突然、晴君は抱きついてきた。
「晴君!?」
「恋する気持ちを知りたいんだよね?じゃあ、こんなのとかは?」
晴君はもっと強く抱き締める。
「ちょ……ちょっと……」
少し体を離して、晴君はこう聞いた。
「ドキドキした?」
「う、うん……。」
今度は、その手を私の頬にそっと置いた。
「ドキドキして、胸がキュンってした?」
私はそっと一歩後ろに下がって、その手から離れる。
「ドキドキはしたけどキュン?はわかんない。」
「…………まぁいいや。あ、そうだ。ひらりちゃん眼鏡取ってよ。」
そう、言うと晴君は私の眼鏡を取って行く。
「とったらよく見えないよ~!」
「大丈夫だよ。僕が目になるから……ってその目つき怖いよやめて~!」
そりゃ、見えなきゃこんな目つきにもなるでしょ?メンチも切るでしょ?
「ご、ごめん。つい見えないクセが。うわぁっ段差見えない。」
とりあえず、非常階段から中へ入ろうとすると、段差につまづく。ちょうどその時、晴君は私の前に腕を差し出して、転びそうになった私を受け止めてくれた。
「ありがとう……。」
そして、そっと晴君の顔が近づくと…………
「おい、ここは学校だぞ?」
春壱の声が聞こえた。
「その声は春壱!」
私は声のする方へ顔を向けた。
「イチャつくなら他でやれ。」
「イチャついてないよ!うわっ!」
なんとか非常階段から抜け出そうと、晴君の腕を離して、ぼやけた段差を何度も踏んで確認しながら廊下に入った。
「危ない!」
廊下に入って安心したら、置いてあった鞄に足を取られて転びそうになった。今度は、春壱が受け止めてくれた。
「春壱……ありがとう。」
「お前、眼鏡は?」
「…………。」
私が黙ってうつ向くと、春壱は晴君の方を向いて言った。
「晴、こいつの眼鏡返せ。」
春壱は私の腕を離して、晴君から眼鏡を奪う。
「危ないからちゃんとかけてろよ。」
晴君から取り返して眼鏡を渡してくれた。
「うん……ありがとう。」
私が眼鏡をかけた後、晴君も非常階段から中へ入って来る。
「春壱、ひらりちゃんに何か用?」
春壱はすぐに答えなかった。しばらく考えて、
「昨日、忘れてたDVD。あと、見たがってた映画のDVDも。見るなら……」
「見たい!ありがと~春壱!」
そう、喜んだけど、春壱はどこにもDVDを持ってなかった。きっと、私の事様子見に来てくれたんだ。
「ひらりちゃんも映画好きなの?」
「うん、映画とか漫画とかも好きだよ~」
足に引っかけた鞄から出た荷物をしまいながらそう答えた。
「そっか。じゃあ、今度の日曜、映画見に行かない?」
「え?そ、それって……」
デート!?
「そ、デート。僕と一緒に行ってくれる?」
「うん、行く!」
それって、恋人たちのイベント的な?
「じゃ、めいいっぱい可愛くしてきてね。楽しみにしてるから。」
めいいっぱい可愛くって!?ど、どうすればいいの?
その日の放課後、今思えば……私は言ってはいけない人に相談してしまったのかもしれない。
「部長……。」
「ひらり、何かつかめた?つかめるまで練習に出なくていいから。ひらりのシーンは後まわしにしとく。」
デートの事が心配で、全然部長の言葉が入って来ない。
「あの、部長…………。」
「何?どうした?」
「デートって何着ていけばいいんですか?」
そう言った瞬間、
「えぇえ!!デート!?」
練習教室に響き渡るほどの声で部長は絶叫した。
「実季、デート?」
それを聞いた先輩達が集まってくる。
「いや、ひらりがデート!」
「ひらりがデート!?」
先輩達が聞いたが最後。ここからもう止まらなかった。
「ここはやっぱりデートの定番、清楚系ワンピース?」
「いや、逆に媚びないさっぱりボーイッシュ系?」
「やっぱりインパクトが重要!可愛さ全面的にロリータ系は?」
「いやいや、私服はドキッと大人っぽさが必要でしょOL系だよ。」
「誰か雑誌持ってない?」
「メイクは?どうする?」
「靴と鞄も重要だよね?」
「あーもう決まらない!!」
全然口出しできないけど………何とか先輩達をなだめようと試みた。
「あ、あの先輩達…………?」
「デートはいつなの?」
「日曜です。」
止まる気配はなく……
「あと三日か……。よし、みんな、日曜まで稽古は休み!ひらりデートプランに全力を注ぎます!」
「はーい!」
「え!ちょっ!稽古しないの!?えぇえええーーー!!」
練習しないでこんな事になるなんて!!




