見学
25
それは配役が決まった数日後、部長の提案で、春壱を演劇部に招く事になった。
「春壱!今日部活ないよね?劇部の練習見に来てよ。そろそろ立ち稽古だから、先輩達が興味あるなら今日から見学が面白いよって。」
「立ち稽古?」
「台本外して、実際に立って練習始めるの。ね、今日暇?」
「暇だけど……まぁ、気が向いたら。」
気が向いてくれるといいけど…………
と、心配しつつ、放課後、になったら、春壱はどこかへ行ってしまった……。しまった!!逃げられた!!
私は仕方なく1人で部活へ行って、外での基礎練習が終わって、先輩達と練習教室に戻ろうと下駄箱へ行くと、バッタリ春壱に会う。
「春壱!」
「うわっ!見つかった!!」
春壱はあっという間に先輩達に囲まれた。
「春壱君!今帰り?!ちょうど良かった!今日練習見て行くよね?」
「まぁ、少しだけでも見て行ってよ!」
まるでクモの巣にかかった虫のように、網にかかった魚のように、罠にかかったキツネのように……。春壱は抵抗しながらも、あれよあれよと練習教室にさらわれて行った。
「さ、入って入って!誰か椅子~!さ、座って座って。ゆっくりして行ってね!」
いつの間にか春壱は椅子に座らされる。
「許せ。春壱……。こうなったら先輩達は誰にも止められないんだよ。」
「少しは止めろ。せめて止める素振りぐらいしろ。」
諦めていた私に、春壱は助けを求めていた。
「ま、まぁ、ゆっくりしてってよ。」
椅子に座らされた春壱を置いて、私は立ち稽古の準備をした。
私は春壱に自分の台本を渡して、軽くストレッチをした。
「じゃ、今日はシーン3よーい、スタート!」
部長が手を叩いてスタートを知らせると、演技が始まる。
春壱がアドバイスしてくれたように、恋に恋するキャラを作りあげた。それを表現するだけ。
「ストップ!」
部長は突然手を叩いて演技を止める。
「ちょっといいかな?ひらり、役に向き合う気がないなら役をおりなさい。」
「……え?でも、ちゃんと台本読んで……」
部長は少しガッカリしていた。
「読んではいる。でも、自分の都合よくねじ曲げて解釈したら、演出が変わって来る。ひらりの作りあげた役は私が求めてる役とは違う。私はちゃんと恋してる役にしたいの。今日は帰っていいから、よく考えて来て。」
帰れって言われた…………
「実季、今のひらりにはちょっと無理じゃない?今のキャラの方がやりやすいと思うよ?」
「無理だからやらない?それじゃ何も変わらないよ。私はひらりにもっともっと変わって欲しいんだよ。厳しい事言うようだけど、役から逃げるようなら、役を降ろす。この役以外、今回は舞台に上げない。」
何も……変わらない……役から逃げるようなら、降ろされる……。この役以外は舞台に立てない……。
「あ!ひらり!!」
私はショックで…………思わず、練習教室を出て来ていた。




