ウサギの正体
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「壱ぃ~!朝からあちこちまわって聞いてるけど、持ち主見つからないよ~…………本当にうちの学校かな?」
次の日、晴のシンデレラ探しは意外にも難航していた。さすがの晴も、全校の女子生徒を把握していなかった。
「今日休みの奴もいるだろ。」
「あ、そうか!昨日雨だったからその可能性もあるか!よし、明日も探すぞ~!」
そうやって晴は、傘の持ち主を探しつつ、好みの女子に声をかけまくっている事も知っている。
「よくやるな~。あ……資料集忘れた。晴、持ってるか?」
一限目の授業は日本史だった。今年の先生の授業は教科書通りだ。資料集を眺めている方がよっぽど有意義だと思う。
「資料集?持ってないよ。今日必要だっけ?」
俺は必要。
隣の席の女子が、小耳に挟んだのか、資料集を差し出してきた。
「資料集ならあるよ?使う?」
「使わないなら……。」
俺は隣の女子から資料集を借りた。後ろの名前を見ると…相田 ひらり。変な名前……。いわゆるDQNネームってやつだ。こいつ、相田って名前だっけ?
「まぁ、私のじゃないけど。」
女子は自分の日本史のセットを持って見せた。
「私全部家に忘れてきちゃって、相田さんにお願いしてロッカーから借りたの。」
「相田さん……?相田さんって隣のクラスだっけ?」
晴はその女子に資料集の持ち主の事を詳しく訊いた。俺はふと、名前の横には変なウサギが描かれている事に気がついた。これ…………どこかで見たような?
「違うよ?」
「同じだ。」
俺と女子は同じタイミングで別の事を言ってしまう。
「そう。同じクラスだよ。」
そう。あの傘のウサギと同じだ。あの、妙に癪に触るウサギ。まさか、同じクラスだったとは……。ある意味運命的。これは晴が大喜びだろうな。
「壱、傘の持ち主って、相田さんだよね?眼鏡を取ったら意外と美人の相田さんだよね?」
「取った所見た事あるのか?」
「ない!」
漫画の見すぎだ。実際には眼鏡は関係ない。
「あの地味さだぞ?眼鏡を取ったら意外とブスって事もありえるだろ。」
今時そんな設定流行らないだろ。
「お前さ、男のロマンはないの?」
「そこに求めるロマンはない。」
晴は窓を背に、その長い脚をこちらに向けた。
「ひらりちゃんか~可愛い名前だな~。」
「可愛いか?」
晴にとっては名前が可愛いかなんて重要じゃない。結局は顔だ。
「俺のシンデレラが同じクラスにいたなんて、なんて運命的なんだろ~」
このウサギを見ても運命感じるか?運命感じるより嫌な予感しか感じない。
「え、お前まさか相田と付き合おうとか思ってる?」
「あわよくば?地味な子には地味な子の良さがあるよね。」
呆れた。
「止めとけ。頭おかしい奴だったらどうすんだよ。お前いつか刺されて死ぬぞ。」
「骨は拾ってくれ。」
「遠慮する。」
そんな話をしていると、やっと先生が教室へやって来る。
「白石、脚が長いのはわかったから、ちゃんと椅子に座りなさい。」
だらけた晴を注意して、授業を始めた。
「授業始めるぞ~号令~!」
俺はいつものように、資料集を開いた。すると、1枚の紙がひらりと隣の椅子の下に落ちた。俺はその紙を拾うと、資料集の一番前のページに乗せてその紙を読んでみた。
宇宙ウサギ怪獣バニラ……?なんだこれ。どうやら、あの変なウサギの詳細が描かれているようだ。変なウサギだと思ってたのは怪獣なのか……。こいつのオリジナルキャラクター?好きな物バニラビーンズと生クリーム、好きな物を食べるとウンコがソフトクリームになる…………。こいつ……くだらねぇ。最低だ。俺はもう一度背表紙の名前を見た。相田ひらり…………。ひらりって……ヒラリー夫人か?名前が変なだけあって、変な奴……。
よく見ると、背表紙の方にも何か挟まっている事に気がついた。プロフィールシート?誰のプロフィールだ?俺はプロフィールシートにざっと目を通し、元通りに背表紙にしまった。月のお姫様……?国が滅亡し、一族の生き残り。何の事だかさっぱりだ。漫研?文芸部?どれにしても…………俺が関わる必要はない。晴の運命の相手とやらだ。
この時は、これ以上こいつと関わる事はないと思っていた。




