表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/163

ビニール傘のシンデレラ


今年の桜は今日で全滅だ。週末を待たずに終わる。そう思わせるくらいの、強い春の嵐だった。電車の窓には、雨粒と桜の花びらが張り付いていた。

唯一の移動手段の路線は単線で、雨や風に弱い。こんな天気の日は特に時間がかかる。そんな事はわかっている。わかってはいても、苛立ちは押さえられない。


終電に近いこの時間には珍しく、今日は向かい側に乗客がいた。同じ学校の制服の、女子高生だ。その女子は疲れきっていて、船を漕ぐようにウトウト寝ていた。

発車のベルが鳴る。すると、その女子は駅に気がつくと、慌てて鞄を持ち、電車から降りようとしていた。その姿を見ていると、ふと、手すりに傘がかかっている事に気がついた。


このまま傘を忘れて行く気じゃないだろうな?


その女子は傘を忘れて行ってしまう。


「あ!待て、傘!」


俺は思わず傘を手に、追いかけようとした。その瞬間、電車のドアは俺の目の前で閉まった。ドアの小窓を叩いて呼んでみるも、その女子は俺に気づかない。それどころか、傘に気づく気配もなく、ホームから出口へ向かって足早に歩いて行った。


諦めて持ち帰るか……。


手に残った傘に、名前がないか取っ手を調べると、マジックで何か描かれている。よく見ると、ふざけた顔して笑う、妙にイラつく変なウサギの絵が描かれていた。


何だこれ。変なウサギ……。


「間に合わなかったね~名前あった?」

一緒に乗っていた幼なじみの晴喜だ。晴は妙に目を輝かせ、訊いて来た。

「名前はない。その代わり、変なウサギの絵がついてた。」

俺は晴に取っ手の部分のウサギを見せる。

「手がかりはこのウサギかぁ……。これ、どっかで見た事ある。」

「どこで?」

「うーん。ちっとも思い出せないな~」

探偵気取りの晴は、ちっとも思いだそうとしていない様子で、取っ手の絵を眺めていた。

「でも、うちの学校の制服だったよね?そのうちまた会えるかな?可愛い子だった?」

可愛い子?

「さあ?」

どんな奴だったっけ?

「さあ?って、顔覚えてないの?それじゃ、どうやって持ち主探すんだよ。」

少しふてくされて、晴は元いた席に座った。


「別に…駅に届けておけば取りに来るだろ。」

たかが落とし物だ。学校の最寄り駅に届ければ問題ない。

「同じ高校なのに、そりゃないだろ~?」

また始まった。こいつは女が絡むとやたらとお節介を焼きたがる。

「お前、女にだけお節介だな。」

「壱が冷たいんだろ?こんな運命的な出会い、なかなかないよ?シンデレラを探すみたいで何だかわくわくするな~」


何がシンデレラだ。シンデレラが落として行くのはガラスの靴だ。これはポリエチレン製のただのビニール傘。下手すればゴミだ。ただのゴミ。こいつの頭の中はお花畑か?


「さすが、モテる男は発想が違うな。俺がもしビニール傘無くして知らない男に届けられたら、ナンパにしか思えないと思うけど? 」

花畑には、皮肉を言ってみる。俺にはその発想は出てこない。それは、確実に女を落とせる人種の発想だ。

「そうかな~?持ち主の子、可愛いといいな~!いや、絶対可愛いな~!」


アホな顔したウサギの傘は、アホにはお似合いだ。

「じゃ。」

アホはアホに任せよう。

「届けたきゃ、お前が見つけて届けてやれよ。お前の言うシンデレラとやらに。」

俺は傘の取っ手のウサギを見せて、晴の胸の前につき出した。

「わかったよ!すっげー可愛い子でもお前にやらないからな?」

晴は少し乱暴に傘を受け取った。誰がいるか。

「いらねーよ。第一、すっげー可愛い子だったらお前が知らない訳ないだろ。」

「それもそうだね~!でも、俺は届ける!」

バカなのかポジティブなのか、そのやる気はどこから来るんだ?


「それでこそ雑食だな。」

「え?僕の事ばかにしてる?」

「してるよ。お前の女グセの悪さ、迷惑してんだからな。」

そうだ、一緒にいると、いつもこいつのとばっちりを受ける。女同士の喧嘩やら、彼女を取られた先輩やら、もうこれ以上はごめんだ。

「そうかな~?そうだったらごめんね~。」相変わらず、全然悪いと思っていない空返事だ。空返事の空謝り。

「お前責任持って明日全クラス聞いてまわれよ。」

「おう!待ってろよ!俺のシンデレラ!」


まあ、10年以上の付き合いだ。それはいつもの事だと思って、もう半分諦めている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ