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月の世界

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三人は全速力で走り、息を切らしながら公演会場のロビーに入った。防具つけてここまで走ったのは久しぶりだ。公演場所まで決して遠くないのに、完全に息があがっていた。


あいつが中に入る直前、部長が一言声をかけた。

「ひらり!世界を征服して来なさいよ?」

「はい!」

世界を征服?

「そこの君、早く入って!始まるよ?」

「あ、はい。」


俺が客席にはいると、照明は既に暗くなっていた。俺は一番出口に近い席に座った。すると、すぐに音楽が鳴り、あっという間に芝居が始まった。


なるほど……確かに意見書いた所が変わってる。解釈をはっきりさせたんだ。見やすくなっている。テンポもいい。音のタイミングも大きさもちょうど良い。何なんだ……?見るのは3回目だからか、今日は安心して見ていられる。というか…………引き込まれる…………。そこは、月の世界が広がっていた。


そう思っていたら、あっという間に公演は終了していた。俺は我に帰り部活に戻る事にした。予想通り、ロビーにはあいつが先に出ていた。


「ありがとうございました!」

これで満足か?そりゃ満足だろうな。それだけ満足そうな顔してれば十分だろ。

「待って!待ってよ」

「何だまだ何か用?」

足早に外に出ると、あいつは途中で靴を手に持ち、裸足のままで俺についてくる。

「今日、どうだった?」

「今日……今までで一番マシ。」

何なんだよ……?なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

「一番マシ?一番良かったって事?ありがとう!ありがとうございました!!」


変な奴……。

一度だけ後ろを振り替えると、あいつはずっと深々と頭を下げ続けていた。俺は、何だか少し心が満たされて、走って剣道場へ帰った。


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