月の世界
14
三人は全速力で走り、息を切らしながら公演会場のロビーに入った。防具つけてここまで走ったのは久しぶりだ。公演場所まで決して遠くないのに、完全に息があがっていた。
あいつが中に入る直前、部長が一言声をかけた。
「ひらり!世界を征服して来なさいよ?」
「はい!」
世界を征服?
「そこの君、早く入って!始まるよ?」
「あ、はい。」
俺が客席にはいると、照明は既に暗くなっていた。俺は一番出口に近い席に座った。すると、すぐに音楽が鳴り、あっという間に芝居が始まった。
なるほど……確かに意見書いた所が変わってる。解釈をはっきりさせたんだ。見やすくなっている。テンポもいい。音のタイミングも大きさもちょうど良い。何なんだ……?見るのは3回目だからか、今日は安心して見ていられる。というか…………引き込まれる…………。そこは、月の世界が広がっていた。
そう思っていたら、あっという間に公演は終了していた。俺は我に帰り部活に戻る事にした。予想通り、ロビーにはあいつが先に出ていた。
「ありがとうございました!」
これで満足か?そりゃ満足だろうな。それだけ満足そうな顔してれば十分だろ。
「待って!待ってよ」
「何だまだ何か用?」
足早に外に出ると、あいつは途中で靴を手に持ち、裸足のままで俺についてくる。
「今日、どうだった?」
「今日……今までで一番マシ。」
何なんだよ……?なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「一番マシ?一番良かったって事?ありがとう!ありがとうございました!!」
変な奴……。
一度だけ後ろを振り替えると、あいつはずっと深々と頭を下げ続けていた。俺は、何だか少し心が満たされて、走って剣道場へ帰った。




