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衣装のままで

13


高校生になってまで、名前の事を引きずるなんて自分でも思ってもみなかった。春一番から取るなんて、なんていい加減な親だろう。ずっとそう思って来た。いい加減、ガキみたいに反抗する気はならないけれど……今日はやっぱりイライラする……!部活で発散しよう。こうゆう時に剣道部で良かったと思える。思う存分、竹刀が振れる。


「須藤~!」

「何ですか?」

何故、先輩に呼ばれたのか検討もつかないと思っていたら、

「須藤君、須藤春壱君お願いします!少し時間ください。お願いします!」

そう叫ぶ声が外から聞こえてきた。先輩は窓から

「廊下に出すからむこうまわって。」

と叫んだ。

「ありがとうございます!」


あいつが走ってこっちにまわってくる影が、すりガラス越しに見える。俺は小手と面を取り、小手を面に詰めて抱えて持ち、廊下に出る。何の用だ?あいつは相変わらず絆創膏だらけの裸足で、駆け寄って来る。ヒラヒラした衣装のままで……めちゃくちゃ目立つ。その目立つ衣装のまま、勢い良く頭を下げた。それも、深々と。


「ごめんなさい!!」

剣道部員達がドアの小窓から覗いているのがわかった。こそこそと話声も聞こえる。

「誰?」

「須藤の彼女?」

「彼女がドレス着て来るか?」


剣道部員の方が気になって、こいつ謝罪が頭に入って来ない……。

「今朝は、ごめんなさい!名前の事気にしてるって知らなくて……。」

「別に。もう気にしてないし。用ってそれだけ?じゃ、部活に戻るわ。」

何も部活中に謝りに来なくても……


「待って!!」

道着の肩を捕まれた。は?まだ何かあるのか?謝って、話はそれでおしまいだろ?

「何だよ?」

「あの!…………あ、アンケート!本当に、凄く参考になって、変えた所色々あるの……」

何言ってるんだ?この女は……


「だから?観に来いって?見てわからないか?部活中だ。」

「あ、うん、それはわかってる。わかってるんだけど……あの……その…………」

俺は……こいつの握りしめた手が、震えている事に気がついてしまった。なんで……このクソ目立つ格好で、公演前の時間に……何でだよ。なんでそこまでして、俺に観に来いって言うんだ?

「何が言いたいんだよ。ハッキリ言えよ。」


「あの、あのね、須藤君のアンケート、凄いと思ったの。普通の人は楽しかったですとか当たり障り無いこと書くのに、須藤君は思った事、ちゃんと書いてくれた。本当に、ありがとう。凄く、嬉しかった……。」

ああ、こいつはヤバいな。こいつは本物だ。本物のバカなんだ。

「はぁ?あんなにボロクソに書いたのに、嬉しかった?名前通り変な奴。」

「変?あははは。変かな?演劇に恋しちゃってるからかな?人は恋をすると変になるから……」


本当に変だ。晴やクラスの女子に散々楽しいだの言われて、あんなに喜んでたのに、俺のボロクソに書いたアンケートも、嬉しいって……どうゆうことだよ……?


「ひらり!いた!」

そこへ部長らしき人がやって来た。

「開演時間遅らせて何やってるの!?ふざけるのもいい加減にしなさいよ!?」


怒るのも当たり前だ。公演前だ。何人もの人を待たせているんだろう。

「あの、部長!私、この人に観に来てもらいたいんです。」

「はぁ?」

思わず演劇部の部長と声がハモってしまった。

「どうしても、見ていてもらいたいんです。」

こいつ、ハッキリ言いやがった。どうしても、見ていて欲しいと……。


「いや、でも、今日部活あるし。」

俺が抱えた面を持ち上げそう言うと、

「剣道部部長~!斎藤~!斎藤~!」

急に演劇部の部長は、剣道部の部長を呼び出し始めた。

「今日この子借りてく!」

「はぁ?」

今度は剣道部の部長とハモってしまった。

「とにかく時間がないの!早くして!頼む!」

部長はどうしたものかと後頭部をかいて悩む。そして、結局…………


「あーもう!めんどくさい!須藤、行け。」

「部長!?」

多分、部長は投げやりになっていた。嘘だろ?防具つけたままで?今すぐ?

「いいから行くよ!急いで二人とも!!」


俺はとりあえず抱えていた面と小手だけ廊下の隅に置き、公演会場まで走らされた。


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