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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest17:フェーネの家族仲を取り持て【前編】



 マコト達は教会で司祭と向き合っていた。

 やや離れた所には高そうな服に恰幅のよい体を包んだ男性が立っている。


「……我が教会が二つの意思を結びつけられたことを大変喜ばしく思います。これもアペイロン様の導きでしょう」


 司祭の声が聖堂に響く。

 いや、響くというのは間違いか。

 彼女は普通に声を発しているだけなのだから。

 その声は大きくも、小さくもない。

 絡み付くような色香と犯しがたい神聖さを兼ね備えている。

 敬虔な信者が聞けば司祭の背後に神を見出し、感動の涙を流したかも知れない。

 残念ながらマコトはそんな気分になれなかった。

 マコトは信者でさえない。

 それに言葉の意味を知っているので、今一つ感動できなかった。

 彼女は教会の仲介で魔石の購入希望者が見つかったと言っているだけなのだ。

 仲介と言っても、実際は教会主催のオークションみたいなものだ。

 マコト達は教会に魔石を預け、教会は自身のネットワークを利用して購入希望者を探し出す。

 複数の希望者がいればオークションを開催し、あとは一番高い金額を付けたものが空間魔石を購入する権利を得るという寸法だ。


「どうでもいいけど、早くお金を振り込んでくれない?」


 ユウカが不機嫌そうな声で言った。

 三日間の護衛任務を終え、宿で一休みしようとしていた所を呼び出されたのだから無理もない。

 もう少し言葉を選んだ方がいいんじゃないかと思ったが、司祭は気分を害した素振りさえ見せなかった。

 流石、聖職者だ。

 よく訓練されている。


「……では、お手を」


 司祭はゆっくりと手を差し出してきた。

 マコト達が右手に手を重ねると、恰幅のよい男は左手に手を添えた。


「ロジャース商会ロックウェル支店支店長ウィリアム、180万Aで魔石を購入されるということで宜しいですね?」

「はい、間違いありません」


 恰幅のよい男――ウィリアムは司祭の問いに静かに頷いた。


「マコト様、ユウカ様、フェーネ様、リブ様、180万Aで魔石を売却されるということでよろしいですね?」

「はい、それで結構です」


 マコトが代表して答える。


「双方の希望が合致したことを確認しました。以後、取引に関する不服を申し立てることは認めません」


 司祭が宣言すると、複数のウィンドウが浮かび上がる。

 一つはウィリアムの、もう一つはマコト達の共同口座、残りは個人口座だ。


「なお、マコト様達の共同口座には討伐報酬6万Aを振り込ませて頂きます」

「あ!」


 ユウカが声を上げた。

 今になって不帰かえらずダンジョンを攻略した時の報酬をもらっていなかったことに気付いたのだろう。


「どうして、言ってくれないのよ」

「魔石の仲介手続きをしている時に気付いてさ」

「宿に戻ってから言えばよかったじゃない」

「お前は昼まで寝てたし、フェーネは夕方まで帰ってこなかったじゃん」

「報告してくれてもいいでしょ。金の遣り取りは命の遣り取りなんて言ってたんだからちゃんとしなさいよ」

「くっ」


 マコトは呻いた。

 まさに正論――自分の台詞まで引用されては言い返せないが、いつもと違って口調が弱々しいのでダメージは少ない。

 やはり、仕事の疲れが抜けていないのだろう。


「……先に自分の討伐報酬を個人口座に振り込んでないでしょうね」

「そんなことする訳ねーだろ」

「ふん、どうだか」

「よろしければ取引履歴を表示しますが?」

「え?」


 ユウカは司祭の言葉を聞き、ぎょっとした表情を浮かべた。


「よろしければ取引履歴を表示しますが?」

「そこまでしなくてもいいわ」

「お前、疚しいことでもあるのか?」

「ないわよ。あたしはこれが前例になってプライバシーが筒抜けになるのが嫌なの」


 ユウカはキッと睨み付けてきた。

 口調は弱々しいが、眼光はいつにも増して鋭い。

 その時、ウィリアムが咳払いをした。

 早くしろよ、とその目が訴えている。


「すみません。続けて下さい」

「……かしこまりました」


 司祭がマコトの言葉に頷き、数字が一瞬にして切り替わる。


「すみません」

「何でしょうか?」

「兄貴から借りてる金を返したいんスけど」

「承りました」


 さらにウィンドウの数字が切り替わる。

 振り込まれたのは46万5000A――日本円に換算して4650万円だ。


「魔石の引き渡しはこちらで行います。本日はお疲れ様でした」


 マコトは手を離して軽く頭を下げた。

 もう用事は済んだので、受付に併設されている待合室に向かう。


「……人がいねーな」


 来た時は人がチラホラといたのだが、用事が済んだのか待合室は閑散としている。

 仲間内で会話をするには都合がいい。


「あたしは先に帰るわ」

「なんだ、もう帰るのか」

「疲れてるのよ」


 ユウカは溜息を吐くように言った。

 普段なら言い返してくる所だが、どうやら本当に疲れているらしい。


「そんなにキツいならスキルを使ってもいいんじゃないか?」

「……使ったわよ」


 ユウカは唇を尖らせた。


「効かなかったのか?」

「見ての通りよ。多分、ソウル・ヒールは自分には効かないんだと思う」

「蛇は自分の毒では死なない的なあれか?」

「……元気になったら覚えてなさいよ」


 ユウカは柳眉を逆立てるが、やはり本調子ではないからか弱々しい。


「姐さん、お疲れ様ッス」

「ゆっくり休めよ」


 フェーネとリブが労い、ユウカは教会から出て行った。


「二、三日は様子を見た方がいいかもな」


 マコトはソファーに腰を下ろし、溜息を吐いた。

 ユウカほどではないが、疲労が溜まっているようだ。

 いや、と思い直す。


「おかしいな」

「何が?」


 リブが隣に座り、脚を組んだ。


「俺はステータスが高いんだよ」

「それで?」

「ステータスが高くても疲れるもんなのか?」

「疲れるに決まってるだろ」


 何を当たり前のことをと言わんばかりの口調だ。


「精神的に疲れりゃ体も疲れるんだよ」

「そうか、そうだよな」


 骸王のダンジョンを攻略した後――森を歩き回った時と逆パターンだ。

 あの時は体力に余裕があったから楽観的な気分でいられた。

 要は精神と肉体のバランスが大事ということだ。


「兄貴、兄貴!」


 フェーネはマコトの隣に座るとパタパタと尻尾を振った。


「しばらく休みって本当ッスか?」

「しばらくじゃなくて二、三日な」

「二日は休みなんスよね?」

「明後日に何かあるのか?」

「……それは」


 マコトが問い返すと、フェーネはそっぽを向いた。

 尻尾もシュンと垂れてしまっている。


「明後日は精霊祭があるんだよ」

「精霊祭?」

「ああ、年に一回くらいは世界の維持管理に努めている精霊様にも感謝しましょうってイベントだよ」

「そういう言い方をされると精霊が不憫でならねーな」


 インフラの保守管理的な仕事をしているのに感謝されるのが年に一回とは――まあ、世の中とはそんなものかも知れない。


「なんだ、お祭りに行きたいのか」

「お子ちゃまだな~」


 リブが意地の悪い笑みを浮かべる。

 冒険をしている時は気遣いができるのにこういう時にできないのは何故なんだろう。

 リブなりにバランスを取っているつもりなのだろうか。


「そういう訳じゃないッス」

「じゃあ、どういう訳なんだ?」

「……弟ッス」


 マコトが改めて尋ねると、フェーネはまたしてもそっぽを向きながら答えた。


「弟さんを教会に預けてることと関係があるのか?」

「教会に預けると精霊祭の時にしか会えないんスよ」


 フェーネはふて腐れたように唇を尖らせた。


「なんでだ?」

「マコト、教会ってのはそういう所なんだよ。神官見習いとして預けられたヤツには精霊祭の日にしか会えねーんだ」


 基本的に、とリブは声を潜めて付け加えた。


「弟さんはロックウェルにいるのか?」

「そうッス」

「だったらいつでも会えるんじゃないか?」

「それは駄目ッスよ。おいらは自分の都合で弟を教会に預けたんス。それなのに約束を破ったらおいらは最低なヤツになっちゃうッス」


 フェーネは泣きそうな声で言った。

 あまり信心深くない方だと思っていたのだが、何気に信仰心が篤いようだ。

 いや、弟を預けた罪悪感がそうさせているのかも知れない。


「そういうものなのか?」

「フェーネみたいに頑ななヤツは滅多にいねーよ。けど、借金とか何かしらの事情があるヤツらにとっては悪い制度じゃないんだよ」


 リブはややバツが悪そうに答える。


「そういうことなら精霊祭が終わるまでのんびり過ごそうぜ」

「本当ッスか!」

「嘘は吐かねーよ」


 マコトは瞳を輝かせるフェーネに答えた。


「やっぱり、お土産を買っていた方がいいッスかね? 食べ物ッスかね、服ッスかね? 現金はマズいッスよね? あ……」


 フェーネは捲し立てるように言った後でしゅんと俯いた。


「一緒に暮らそうって言っても大丈夫ッスかね?」

「大丈夫じゃねーの」


 答えたのはリブだ。


「そうッスよね。実は空間魔石を手に入れてから新しい家を探してたんス」

「き、気が早いんじゃねーの?」


 リブは少し引き気味に言った。

 もし、一緒に暮らしたくないと言われたらと不安に思っているのかも知れない。


「いい家ってのはすぐに借りられちゃうものなんスよ。あ、弟の返事を待ってたら借りられちゃうかも知れないッス」


 助けてくれ、とリブが目で訴えてきた。

 自分で何とかしろよと思ったが、変に話が拗れても困る。


「あ~、フェーネ。弟さんの気持ちを確かめてからでも遅くないんじゃないか?」

「え~、家が借りられちゃうッス」


 フェーネは不満そうに唇を尖らせた。

 どうも自分に都合のいい未来しか見えなくなっているようだ。

 そう言えば詐欺に引っ掛かってたヤツがいたな~、とマコトは知り合いを思い出す。

 そいつはフランチャイズ店を経営していた。

 経営は加盟料と商品代で自転車操業状態だったらしい。

 そんな状態は長く続かず、商品代を支払えなくなってしまった。

 普通なら銀行に借りに行くものだが、そいつはネットの広告を見てしまった。

 すぐに電話し、いつまでにいくら振り込めば何百万貸すと言われ――普通なら詐欺を疑う所だが――振り込んでしまった。

 その後、業者と連絡が取れなくなり、そいつの店はあっけなく潰れてしまった。

 あとに残ったのは借金だけという話。

 パニックに陥った人間は冷静に考えているつもりで碌でもない決断をしてしまう。

 今のフェーネがそれだ。


「よし、フェーネ。俺が確かめてやるよ」

「兄貴、弟に会えるのは明日だけッスよ」

「いや、俺が会うんだ。俺が会って話を聞く。その間にお前は物陰に潜んでりゃいい」

「ん~、けど」

「弟さんだってフェーネが一緒に住みたがっているって聞けば喜ぶさ。これが一番のお土産だと思うんだよ、俺は」

「ん~~、それもそうッスね」


 フェーネは難しそうに唸り、あっけらかんと言った。

 どうやら、彼女は本当に正常な判断能力を失っているようだ。


「でも、どうするんスか?」

「俺には心強い味方がいる」


 マコトは受付の少女に視線を向けた。

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