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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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33/138

Quest16:ジャイアント・スケルトンを討伐せよ【後編】


※


 夜――。


「さあさあ、マコト様。たんと召し上がって下さい」

「はあ」


 マコト達は井戸の前で村長――あの禿頭の老人だ――に料理を振る舞われていた。

 地面に敷いた布の上には新鮮な野菜のサラダ、肉たっぷりのスープ、肉汁の滴るステーキ、真っ白なパンが並んでいる。


「うわ~、パンが白いッスよ!」

「こっちのステーキも美味ぇッ!」

「は~、久しぶりに美味しいものが食べられたわ」


 フェーネは口一杯にパンを頬張り、リブは豪快にステーキを食い千切る。

 ユウカはと言えばスープを食べて舌鼓を打っている。

 残念ながらマコトは三人ほど料理に集中できなかった。

 マコトとユウカのせいでこの村はピンチに陥っているのだ。

 ついでに言えば騎士団の団員が負傷したのもマコト達のせいだ。

 これではマッチポンプもいい所だ。


「ただで泊まれる上、こんなに美味い夕食を食べられるとは思わなかったッス」

「そ、そうだな」


 フェーネの無邪気な一言が胸を抉る。

 納屋を借りられずに困っていたら村長が空き部屋を貸すと申し出てくれたのだ。

 魔石を使わずに済んだので喜ぶべきなのだろうが、罪悪感で押し潰されそうだ。


「どうぞどうぞ、こちらは果実水でございます」

「あ、どうも」


 マコトはコップに注がれた半透明の液体を飲み干す。

 果物の酸味と甘さが口一杯に広がった。

 この世界に来てから甘いものを食べていなかったので、余計に美味しく感じられる。


「どうかされましたか?」

「……いえ」


 マコトは村長の目を直視できずに顔を背けた。

 だが、顔を背けたら背けたで冒険者の視線が痛かった。


「おお、同業者の方の視線が痛いと言うことですな! 分かりました! 皆様の分も用意させて頂きます!」

「あ、あの!」


 止める間もなく村長は自分の家に向かって歩き出した。


「もう少し美味しそうに食べなさいよ。村長に失礼でしょ」

「ユウカ、耳を貸せ」

「耳に息を吹きかけたら殺すわよ」


 ユウカは余計な一言を言って、マコトの口に耳を近づけた。


「この村がピンチに陥っているのは俺達が魔石を放置したからだ」

「なんだ、そんなこと」


 ユウカは心配して損したとばかりに元の位置に戻った。


「え? それだけ!?」

「私達のせいだって証拠がある訳じゃないんだし、疑わしきは罰せずよ」

「お前、スゲーな」

「当然よ。今頃、気付いたの?」


 誉めていない。

 むしろ、親の顔を見てみたいというニュアンスで言ったのだが、ユウカは勝ち誇るように髪を掻き上げた。


「……ヤバッ」


 ユウカは帽子を目深に被った。

 何事かと振り返ると、短ランのような上着を着た青年が近づいてくる所だった。

 青年はマコトの前で立ち止まった。


「貴方がマコト、殿ですか?」

「ああ、そうだけど」


 マコトが立ち上がると、青年は背筋を伸ばした。


「自分はヴェリス王国騎士団所属、レイモンド・スミシーであります。このたびは水薬を分けて頂き、ありがとうございます」

「あ、どうも」


 チクチクと罪悪感を刺激されながら手を差し出すと、レイモンドは力強く握り返してきた。


「そんなに畏まらなくても」

「では、少しだけ。水薬を分けてくれてありがとう。お陰で助かったよ」

「礼なら村長に言ってくれ」

「もうすでに伝えてあります」

「ケガはもういいのか?」

「お陰様で。アンデッドの大群に襲われてしまってね。馬車は壊れる、死者は出る。行方不明者も……全く、ルーク団長がいなければどうなっていたか」


 レイモンドは深々と溜息を吐いた。


「そんなこと、俺に言ってもいいのか? 何と言うか、軍規的に」

「構わないさ」


 チラリと下を見る。

 すると、フェーネとリブは食事に夢中、ユウカはこともあろうに寝たふりをしていた。


「こういうことってよくあるのか?」

「まさか、初めての経験だよ。骸王のダンジョンが攻略されてしまったからその影響だろうね」


 くく、とレイモンドは笑った。


「笑う所か?」

「いやね、骸王のダンジョンは客人に任せるって話だったんだ」

「できるのか?」

「無理だね。攻略できたとしても何年も掛かるよ」


 そんなに掛からなかったぞ、とマコトは心の中で付け加える。


「そうなのか?」

「中層を越えると、耐性を備えたアンデッドがわらわら出てくるんだ。とてもじゃないけど、一カ月しか訓練をしていない連中には無理だね」


 よくもまあベラベラと話せるものだ。

 この国の騎士団には軍規違反や機密主義というものが存在しないのだろうか。

 待てよ、とマコトは思い直す。

 もしかしたら、レイモンドは情報を漏らすためにベラベラと話しているのかも知れない。


「ん? なら、どうしてダンジョンに?」

「要は箔付けだよ。初めての探索でこんなに深い層まで行けましたってね」

「指導する時に手を抜いたりは?」

「そこは神に誓って」


 レイモンドは胸に手を当てて言った。


「教えなかったことは?」

「それは秘密さ」


 レイモンドはにっこりと笑った。どうやら、意図的に教えなかった情報があるようだ。


「色々と便宜を図ったんだけど、計画そのものが頓挫してね。言い訳をするためかダンジョンを攻略していたけど、五階層程度のダンジョンを攻略してもね」


 そう言って、レイモンドは肩を竦めた。


「おまけに……王都に帰還する途中でモンスターに襲われた話はしただろ? その時に客人の乗る馬車が壊れたんだ」

「死人が出たのか?」

「守ったからこそ、このケガさ」

「もう治ってるだろ」

「それを言われると辛い」


 レイモンドは苦笑した。


「その時に逃げ出したヤツがいてね。娼館通いをしているようなヤツだったが、まさか仲間を見捨てて逃げるとは、ね」


 やれやれ、とレイモンドは肩を竦めた。


「そいつを探してくれって訳じゃないよな?」

「もちろん」

「客人の評判を落としたいのか?」

「それも秘密」


 本当のことを言ってるようなものだが、それを指摘しても仕方がない。

 とぼけられて終わりだ。


「同じ客人でも君とは全然違うね」

「分かるのか?」

「簡単な推理……と言うのは冗談で君みたいな容姿の人間は東国にしかいないからね。カマを掛けただけさ」

「俺に何かするつもりか?」


 マコトは目を細め、わずかに踵を浮かす。


「いやいや、まさか。そんなことしないよ」

「だったら、いいんだけど」

「うんうん、仲よくするのが一番だよ。じゃ、私はこれで」


 レイモンドは気障ったらしく一礼すると去って行った。

 しばらくしてユウカがむくりと体を起こした。


「ったく、何しに来たのかしら?」

「客人の悪評を広めに来たんだろ」

「は? 何でよ!?」

「客人にいられると困るようなヤツがいるんじゃねーの」


 マコトはパンを頬張った。

 普通に考えて困るのは騎士団だ。

 今まで国に尽くしてきたのに客人なんかに立場を譲り渡したくないだろう。

 ステーキを食べると、口に肉汁が広がった。

 まるでそれに釣られるように顎の辺りが痺れ、唾液が溢れ出す。

 スープに手を伸ばしたとき、村長が戻ってきた。


「……マコト様、追加の料理ができるまでもうしばらくお待ち下さい」

「ありがとうございます」


 マコトは居住まいを正した。

「おお、果実水がなくなっておりますね。注ぎましょう」

「ありがとうございます」


 村長がコップになみなみと果実水を注ぐ。

 そこに二つの月が映し出され、波紋によって掻き消された。

 手が震えているのかと思ったが、波紋は断続的に生じる。


「……昔の映画であったな」

「恐竜が出てくるヤツでしょ」


 首筋がチクッと痛み、マコトは門を見た。

 すると、そこには門に手を掛ける巨大なスケルトンの姿があった。


「巨人が出てくる漫画もあったわね」

「あれはジャイアント・スケルトンッスね」

「見たまんまだな」


 がしゃどくろとでも言ってくれた方がまだしも馴染み深い。


「冒険者の皆様!」

 村長はマコトに背を向け、冒険者達に語りかけた。

「報酬は支払いますので、あのアンデッドを討伐して頂けないでしょうか!?」

「いやいや、無理ッスよ」


 村長に答えたのはフェーネである。

 もちろん、聞こえない程度の小声でだ。

 なおも冒険者達に語りかけるが、反応はかなり鈍い。


「なんでだ?」

「教会を通さずに仕事したら痛い目に遭うって分かってるからッス」

「そうだな。支払いをばっくれられても文句を言えねーしな」


 フェーネとリブはしたり顔で答えた。


「塀を破壊されて尻に火が付くまでこのままッスよ」

「これだけ料理を食べて申し訳ねーと思わないのか?」

「これは水薬のお代ッスよ」

「あたいが頼んだ訳じゃねーし」


 二人とも清々しいほど利己的だった。


「おお、マコト様」

「……仕方がねーな」


 村長が縋るような視線を向け、マコトはこれ以上ないくらい深々と溜息を吐いて立ち上がった。


「止めとけば。正義の味方ってキャラじゃないでしょ?」

「まあ、そうなんだよな」


 マコトはユウカの意見に同意する。

 自分が一番困っている時に救いの手はなかった。

 資産家だった親戚も力を貸してくれなかった。

 父親が下手を打って借金を背負っただけなので、親戚を恨むのは筋違いだと分かってはいるのだが。


「余裕があるからな」

「自分の都合で出したり、引っ込めたりする救いの手は偽善って言うのよ」

「分かってる。けど、どんな理由があるにしても見捨てたことを正当化できねーよな」


 仕方がないということはあるだろう。

 判断として正しかったか、正しくなかったかはあるだろう。

 しかし、見捨てるという行為を善と見なすことはできないのではないだろうか。


「もう兄貴は仕方がないッスね」

「本当にしょうがねーな」


 フェーネとリブは深い溜息を吐いて立ち上がった。


「……ったく」


 ユウカが億劫そうに立ち上がる。


「おお、マコ――」

「ただ働きじゃないからね! 報酬を支払わなかったら火の海にしてやるんだから!」

「ヒィィィッ!」


 ユウカがビシッと杖を突き付けると、村長は悲鳴を上げた。


「村長、畑を少し荒らすかも知れねーが、許してくれよ」

「……できれば被害を抑えて頂けると助かるのですが」


 村長は打ち拉がれたような声で言った。


「じゃ、行くか。点火(イグニッション)、収束(コンバージェンス)!」


 マコトは戦闘準備を整え、一気に駆け出した。

 ジャイアント・スケルトンは塀に手を掛けたままだ。

 しかし、震動が断続的に村を襲っているので、蹴りでも入れているのだろう。

 物見櫓から若い男が矢を放っているが、ダメージを与えられていないようだ。

 マコトは物見櫓を駆け上がる。

 物見櫓が倒壊するのではないかと思うほど激しく揺れるが、構わずに足を動かした。

 ジャイアント・スケルトンを倒さなければ村の存続が危ういのだ。

 大事の前の小事。

 つまり、そういうことだ。

 マコトは物見櫓を蹴り、ジャイアント・スケルトンに向かって跳ぶ。

 物見櫓が倒壊を確信させるほど大きく傾く。

 そこに――。


「うらぁぁぁぁぁッ!」


 リブの叫び声が響き、物見櫓が押し戻される。

 もちろん、やったのはリブだ。

 物見櫓の上にいた若い男は胸を撫で下ろしている。

 マコトは思いっきりジャイアント・スケルトンの眉間に拳を叩き付けた。

 拳を叩き付けた場所に亀裂が走る。

 ジャイアント・スケルトンはよろよろと後退し、堀に足を取られて尻餅をついた。

 尻餅をついたと言っても五メートルを優に超える大きさだ。

 それだけで堀の底に貯まっていた水が激しく跳ねる。

 マコトは塀を蹴って対岸に着地、ジャイアント・スケルトンと対峙する。

 スケルトン・ジェネラルやスケルトン・ロードと対峙した時ほどのプレッシャーは感じないが、大きさが大きさなので圧迫感がある。


「……塀を頼りに防衛戦をするべきだったか。つか、ただの村人がこんなヤツをどうやって撃退したんだよ」

「うりゃぁぁぁぁッ!」


 叫び声と共にリブが空から降ってきた。

 着地した時にズンと下腹部を突き上げるような衝撃が伝わってきた。


「へへ、やればできるもんだな」

「レベルが上がったからだろ」


 マコトは照れ臭そうに鼻をするリブに突っ込んだ。


「……ユウカは?」

「こっちを見るな! 馬鹿ッ!」


 白いショーツ――いや、ユウカはスカートを押さえた姿勢で跳んできた。

 普通なら堀に落ちている所だが、ステータスの恩恵とは素晴らしい。

 ユウカは着地すると鬼のような形相でマコトを睨んだ。


「見たでしょ?」

「見てねーよ」

「覚えてなさいよ」


 女性に幻想を抱かなくなって久しいが、その残滓というべきものがザリザリと削られていくのを感じる。


「フェーネは?」

「あっちよ」


 ユウカが親指で指し示した次の瞬間、ガシャンという音が響いた。

 そして、ジャイアント・スケルトンが炎に包まれた。


「兄貴! ここから援護するッ!」

「私もここから援護するよ!」


 フェーネとレイモンドが物見櫓の上から叫んだ。


「お前は王国の騎士だろ!?」

「足手纏いにはなりたくないんだ!」

「清々しいな、お前はッ!」


 マコトはレイモンドを怒鳴りつけた。


「ユウカ、ステータスは?」

「ジャイアント・スケルトン、レベル50、体力90、筋力60、敏捷40、魔力0、スキルは超速再生とアーマー・オブ・レギオン?」

「最後のは何だよ!?」

「知らないわよ!」


 マコトが怒鳴ると、ユウカは怒鳴り返してきた。

 炎に包まれたジャイアント・スケルトンがゆっくりと立ち上がった。

 ジャイアント・スケルトンが身震いすると、炎が体の表面ごと剥がれ落ちた。

 さらに眉間にあった亀裂がみるみる修復されていく。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、穿て穿て礫の如く、我が敵を貫く礫となれ! 顕現せよ、魔弾(ブリット)!」


 ユウカが放った魔弾が胸の中央に突き刺さり、激しい爆発を引き起こす。

 大量の白煙が上がる。


「やったか?」

「あの爆発はあたしじゃないわよ!」


 確かに言われてみれば魔弾は吹き飛ばしたり、粉砕したりすることはあっても爆発を引き起こすようなことはなかった。

 ジャイアント・スケルトンは白煙を突き破り、ゴリラを連想させる動きで両腕を地面に振り下ろした。


「散れ!」


 マコト達は三方に散って攻撃を躱した。

 そのつもりだったが、青白い光が地面を滑るように広がった。


「痛ッ!」

「キャッ!」

「ぐぁぁぁぁぁッ!」


 青白い光に触れた途端、痛みが走った。

 と言ってもマコトにとっては静電気程度の痛みだ。

 恐らく、ユウカも同程度だろう。

 しかし、リブはガクッと膝を屈した。


「クソッ、体が動かねぇ」


 リブが苦しげに呻き、ジャイアント・スケルトンが拳を振り下ろした。


「させるかよ!」


 マコトは間に割って入り、両腕を交差させて拳を受けた。

 その時、異変が起きた。


「何じゃこりゃ!」


 思わず叫ぶ。

 ジャイアント・スケルトンの拳から無数の腕が生えてきたのだ。

 無数の腕はコートを掴む。

 引き剥がそうとしたが、ジャイアント・スケルトンが腕を上げる方が早かった。

 足が地面から離れる。


「兄貴、早く逃げるッス!」

「なん――でッ!」


 ジャイアント・スケルトンがもう片方の拳を振り上げていた。

 当然、目的はマコトを攻撃することだ。


「こなくそッ!」


 両足でジャイアント・スケルトンの拳を蹴り飛ばす。

 拘束していた腕が乾いた音を立てて折れ、マコトは勢い余って麦畑に突っ込んだ。

 ダメージはないので、すぐに立ち上がる。


「ちょっと敵が近づいてきてるんだけど!」

「自分で何とかしろよ!」


 数体のスケルトンがユウカに近づいていた。


「フェーネ、状況説明!」

「爆発した部分がスケルトンになったッス!」

「マジでがしゃどくろじゃねーか」


 マコトは吐き捨てた。

 がしゃどくろは合戦で死んだ死者達の骸や怨念の集合体とされる日本の妖怪だ。


「う、ラァァァァッ!」


 リブが立ち上がり、ユウカに接近していたスケルトンを薙ぎ倒す。

 だが、ダメージが回復していないのか再び膝を屈してしまった。

 ジャイアント・スケルトンが拳を振り上げた。


「逃げるわよ!」


 そう言って、ユウカはリブを担ぎ上げ、マコトの下に走ってきた。

 そして、リブを投げ捨てる。


「お前、前衛でもいけるんじゃねーか?」

「こんな時に冗談を言わないでよ。作戦は?」


 本気で言ったのだが、ユウカはさらっと流した。


「魔石を破壊する」

「どうやって?」

「足止めしてくれれば俺が何とかする」

「分かったわ。リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、縛れ縛れ縄の如く、我が敵を縛める縄となれ! 顕現せよ、捕縛陣(バインド)」


 魔法が発動し、光の帯がジャイアント・スケルトンの脚に絡み付く。

 だが、ジャイアント・スケルトンはそのまま足を踏み出した。

 骨の折れる音が響く。

 ジャイアント・スケルトンは膝から下を切り捨てて足を踏み出したのだ。

 空中にある脚が急速に、いや、超速で再生する。


「奥義・地震撃!」


 リブが飛び出し、ポールハンマーを地面に叩き付ける。

 地面が激しく揺れ、片足で立っていたジャイアント・スケルトンはまたしても尻餅をついた。

 しかし、安心してはいられない。

 切り離された脚がスケルトンに変化し始めていた。


「援護ッス!」

「聖光弾(ホーリー・ブリット)!」


 炎と白い光が降り注ぐ。

 スケルトンになりつつあった部分は炎の中で藻掻いていたが、すぐに力尽きて動かなくなった。


「ユウカ、もう一回だ!」

「分かってるわよ。凄いのお見舞いしてやるんだから」


 ユウカはケープを翻し、杖を構えた。


「スキル・魔法極大化(マキシマイズ)。リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、縛れ縛れ縄の如く――」


 魔法陣が展開する。

 大きさはそのままだが、その輝きは今までの比ではない。

 バチ、バチッとユウカの怒りを体現するかのように火花が散っている。


「我が敵を縛める縄となれ! 顕現せよ、捕縛陣!」


 呪文が完成し、光の帯が伸びる。

 ジャイアント・スケルトンの体に絡み付くほどの大きさだった。


「今よ!」

「OK」


 マコトは地面を蹴り、ジャイアント・スケルトンの上に飛び乗った。

 そのまま倒れ込むように拳を頭に振り下ろした。

 肋骨の内側に魔石はなかったので、頭の中にあると思ったのだが――。


「ない!」


 思わず叫ぶ。

 頭の中は空っぽだった。

 呆然としている内にジャイアント・スケルトンが爆発した。

 と言っても小規模な爆発だ。


「兄貴! 退避ッス、退避ッ!」


 フェーネの声が響き、マコトは後方に大きく跳躍した。

 やや遅れてジャイアント・スケルトンが爆発した。

 マコトはバランスを崩しながら着地、ジャイアント・スケルトンを睨み付ける。

 立ち込める煙の中でジャイアント・スケルトンは再生しつつあった。


「何とかするんじゃなかったの?」

「魔石が見つからなかったんだよ」

「仕方がないわね」


 ユウカは深々と溜息を吐き、マコトの前に立った。


「どうするんだ?」

「物量で押し切るのよ」


 そんなことも分からないの? とでも言いたげな口調だ。


「スキルを取得してたのか?」

「もちろんよ」


 ユウカは再び杖を構えた。


「スキル・魔法極大化、並列起動(マルチタスク)×10」


 ジャイアント・スケルトンが九割方再生を終え、こちらに近づいてくる。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、穿て穿て礫の如く、我が敵を貫く礫となれ! 顕現せよ、魔弾」


 呪文が完成し、魔法陣が展開する。

 魔法陣は直視できないほど眩しく輝き、高圧電流を思わせる火花が激しく飛び散る。

 杖から放たれた十の魔弾は枝分かれを繰り返し、弾幕と化してジャイアント・スケルトンを襲った。

 白い粉が漂っている。

 ジャイアント・スケルトンは風化したようにボロボロになっているが、再生を始める。

 これでも駄目か、と思ったその時、ユウカが口を開いた。


「再詠唱(リピート)!」


 先程と同じよう弾幕と化した魔弾がジャイアント・スケルトンを襲う。

 ジャイアント・スケルトンはさらにボロボロになる。

 再生が追いついていない。


「再詠唱(リピート)!」


 三度、弾幕がジャイアント・スケルトンを襲う。

 体の前半分は失われ、脊髄の断面が見えている。

 その中に魔石があった。


「再詠唱(リピート)!」


 ユウカが絞り出すように叫び、四度目の弾幕が放たれた。

 脊髄が消し飛び、魔石も同様の運命を辿った。


「……もう打ち止め」


 ユウカは杖に縋り付きながらズルズルとその場に座り込んだ。


「フェーネ!」

「大丈夫ッス! 魔石は砕けたッス!」


 マコトは胸を撫で下ろした。


「……レベルが上がったわ。レベル73」

「お疲れ様」

「疲れたなんてもんじゃないわよ」


 ユウカは深い溜息を吐く。


「レベル50の強さじゃないわ」

「まあ、確かに」


 レベル100、ステータス255は無敵ではなかった。

 特殊なスキルを持っている相手には後手に回ることもある。

 それでも、物質化の先にある領域に進めば倒せるのだろうが――。


「痛いのはちょっとな」

「何か言った?」

「何も言ってねーよ」


 マコトは小さく呟いた。

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