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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest12:次の目的を決定せよ【後編】



 教会は静寂に満たされていた。儀式のために静かにしているのではなく、単に人がいないのだ。

 眠いのか、受付の少女はしきりに目を擦っている。


「……よう」

「マコト様、いらっしゃいませ!」


 マコトが声を掛けると、受付の少女は背筋を伸ばした。


「元気か?」

「はい!」


 受付の少女は嬉しそうに微笑んだ。


「ユウカ様はいらっしゃらないのですか?」

「あいつは宿で本を読んでるよ」

「そうですか」


 新しい魔法を取得するために勉強すると言っていたが、単に団体行動が苦手なだけかも知れない。


「ところで、本日はどのようなご用件ですか?」

「依頼を受けに来たんだ」

「おいらが!」

「あたいが取ってやるよ」


 マコトが掲示板を見ると、リブは掲示板に歩み寄り、依頼書を剥がした。

 先を越されたことが面白くないのか、フェーネは唇を尖らせる。


「ほらよ」

「ありがとよ」


 依頼書を受け取り、カウンターに置く。


「……マコト様、こちらはCクラスの方が対象になっています」


 受付の少女は表情を曇らせる。


「あたいがいるから問題ないだろ」

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「あたいはバイソンホーン族のリブだ」

「ステータスを拝見しても?」

「ああ、いくらでも見てくれ」


 受付の少女は片眼鏡を取り出して眼窩に填め込んだ。

 落とすまいと必死に皺を寄せている姿が可愛らしい。


「確認しました」


 受付の少女は片眼鏡をしまい、依頼書にスタンプを押した。

 どうやってランクを確認しているのか気になる所だ。


「……当日のキャンセルは査定に影響しますので」

「分かってるって。あたいは約束を破ったことがないのが自慢なんだ」

「一応、規則ですので……とにかく、ご注意下さい」


 規則と言った割に適当なものである。

 リブは依頼書を筒状に丸め、マコトに差し出してきた。


「なくすんじゃねーぞ」

「ガキか、俺は」


 そう言って、依頼書をポーチに押し込む。


「次は地図だな。フェーネ、案内を頼むぞ」

「分かったッス」


 フェーネは先頭に立ち、嬉しそうに尻尾を振りながら歩き出した。



「進むにつれて不安感が増していくのはどうしてなんだろうな?」

「そりゃ、治安の悪さを肌で感じてるからだろ」


 マコトがボヤくと、リブは緊張感のない口調で応じた。

 視線を巡らせる。

 そこにあるのは古びた建物だ。

 下水道が機能していないのか、饐えた臭いが漂っている。

 そんな場所なのにフェーネは人気のない方、人気のない方に進んでいく。


「フェーネは肝が据わってるな」

「マコトがビビりすぎなんじゃねーの?」

「お前らが図太すぎなんだよ」


 女なんだから警戒心を持て。その褌は何だ。目のやり場に困るんだよという言葉を辛うじて呑み込む。

 フェーネが歩みを止める。

 朽ちかけた建物の間に薄汚れたローブを着た老婆が座り込んでいた。

 浮浪者に見えるが、フェーネは躊躇することなく話しかける。

 身振り手振り、耳と尻尾まで動かして話している。

 ある程度近づくと、二人の声が聞こえるようになった。


「もう少し安くならないッスか?」

「100A、これ以上はまからないよ」


 どうやら、値下げ交渉をしていたらしい。


「何とかならないッスか?」

「ならないねぇ。こっちも元手が掛かってるんだよ」


 くくく、と老婆は笑う。

「……兄貴」

「交渉する材料がないんだから仕方がねーよ」


 フェーネは救いを求めるように視線を向けてきたが、今のマコトには肩を竦めることしかできない。

 マコトは100Aを取り出し、フェーネに手渡した。


「100Aッス」

「まいどあり」


 老婆はフェーネから100Aを受け取ると、袖から紙の束を取り出した。


「袖の中に地図が入ってるのか?」

「ああ、この中に地図が入っているのさ」


 マコトは老婆から紙の束を受け取る。歪みもなければ、体温も残っていない。


「四次元ポケットか?」

「上手いことを言うねぇ」


 くくく、と老婆は愉快そうに笑う。上手いことを言ったのは故人だが、それを指摘しても仕方がない。


「フェーネ、任せていいか?」

「もちろんッスよ」


 フェーネは紙の束を受け取り、ニヤリと笑った。


「笑う場面か?」

「兄貴から大事な地図を預かったんスよ、大事な地図を」


 そう言って、フェーネは笑みを深めた。

 視線がリブに向けられていることから察するに自分の方が立場が上と考えているのだろう。


「仲良くしろよ」

「もちろんッスよ」


 いい返事だが、本当に分かっているのだろうか。

 チラリと視線を向けると、リブは平然としている。

 脳筋などと揶揄されていたが、懐の深さは彼女の方が上なようだ。


「まあ、これで用事は済んだな」

「おいおい、あたいと手合わせするって約束を忘れたのかよ」

「チッ、覚えてやがったか」

「当たり前だろ」


 リブは少しだけムッとしたように言った。


「で、何処でやるんだ?」

「今すぐにでもと言いたい所だけど、街の中でやり合うとしょっ引かれちまうからな。街の外に行こうぜ」

「分かった」


 降参、とマコトは両手を上げた。



「ここでいいか」


 リブは城門を出て、しばらく城壁に沿って歩いた所で立ち止まった。

 そこは二十メートル四方の空間だ。

 木も、草も生えていない。

 そんな都合のいい空間があるとは思えないので、冒険者や傭兵が訓練のために使っている場所なのかも知れない。

 マコトは警戒しながら空間の中央に立った。

 奇襲を警戒してのことだが、杞憂に過ぎなかったようだ。


「ルールはどうする?」

「実戦形式に決まってんだろ」

「いや、待て」


 手の平を向け、リブを制止する。


「早くやろうぜ。あたいはさっきから疼いて仕方がねーんだよ」

「だから、待てっての!」

「何だよ」


 マコトが声を荒らげると、リブは落胆したように言った。


「実戦形式でその武器はねーだろ」

「あん?」


 リブはポールハンマーを見つめた。

 片方が釘抜きのように尖っている。

 こんな物で実戦形式などできない。


「どんなルールならいいんだよ?」

「目潰し、金的、後頭部への攻撃は禁止だ。それと、武器の尖ってる方は使うな」

「仕方がねーな」


 リブは頭を掻きながらマコトと対峙した。

 距離はかなり離れている。

 蹴りさえ届かないポールハンマーの間合いだ。


「フェーネ、開始の合図を頼む」

「了解ッス!」


 岩の上に座っていたフェーネが元気よく返事をする。


「へへ、滾ってきたぜ」

「お手柔らかに」

「やなこった」


 リブは獰猛な笑みを浮かべ、ポールハンマーを構えた。

 フェーネは立ち上がり、よく見えるようにか、手を上げた。


「開始――ッス!」

「オラァァァッ!」


 フェーネの手がわずかに動いた瞬間、リブは距離を詰め、ポールハンマーを振り下ろしてきた。

 マコトはサイドステップで横に躱す。

 攻撃は横か、斜め後ろに躱す。

 後ろに下がると追撃を喰らう。

 当たり前のことだし、拳法を習っている時に教わったことでもあるが、実際にできるようになったのは場数を踏んでからだ。


「甘ぇッ!」


 リブは素早くポールハンマーを引いた。

 わずかに視線を落とすと、尖っている部分がこちらを向いていた。

 恐らく、引っ掛けて転倒させるつもりなのだろう。

 ルール違反、いや、足払いに使うのならばセーフと考えたのかも知れない。

 脳筋と言われていたのになかなか悪知恵が働く。


「……ほい」


 マコトは無造作に足を上げ、足払いを躱した。

 リブはすかさずポールハンマーを振り上げた。

 真上ではなく、斜め上に。

 マコトは踏み込み、腕で柄の部分を受け止める。

 そして、地面を滑るように間合いを詰める。

 ボーッと突っ立ていたらポールハンマーを引き、尖った部分で攻撃を仕掛けてくると考えての行動だ。


「……お?」


 マコトは軽く目を見開いた。

 リブが自分から距離を詰めてきたのだ。

 思わず足を止めると、リブはポールハンマーを反転させた。

 石突きがこめかみ目掛けて繰り出される。

 こういう事態を想定してか、石突きには棘が生えている。

 マコトは大きく踏み込み、頭の位置を下げることで石突きを躱した。

 そのまま拳を突き出すと、リブは地面を蹴った。

 巨躯から想像できないほど素早く、大きな跳躍だった。


「おお、スゲーな」

「どっちがだよ」


 マコトが感心して拍手すると、リブは苦り切った笑みを浮かべた。

 呼吸は全力疾走した直後のように荒く、玉のような汗をびっしりと掻いている。

 脇腹を見ると、血が滲んでいた。


「あの跳躍は吹き飛ばされただけか?」

「さあ、どうなろうな?」


 リブはニヤリと笑い、ポールハンマーを構えた。

 ブラフなのか判断に迷う所だが、自分から跳んだと考えておくべきだろう。


「攻めてこないのか?」

「さっきはあたいから攻めたからな」

「……じゃ、お言葉に甘えて」

「奥義・地震撃!」


 リブはポールハンマーを振り上げ、一気に振り下ろした。

 次の瞬間、地面が揺れた。

 慌ててフェーネの方を見るが、キョトンとした顔をしている。

 正面に向き直ると、そこには誰もいない。


「上か!?」

「オラァァァッ!」


 見上げると、リブは空中でポールハンマーを振り上げていた。

 隙だらけだ。

 マコトは軽く地面を蹴り、彼女の下を潜り抜ける。

 地面を蹴った時に抵抗を感じたような気がしたが、気のせいだろう。


「チクショウッ!」


 リブは着地と同時に反転、その勢いを利用してポールハンマーを横に振るう。

 マコトは手の平で柄を押さえ、もう一方の手で脇腹に触れる。

 重心を移動して手を押し出すと、リブは尻餅をついた。


「俺の勝ちでいいか?」

「ああ、あたいの負けだ」


 リブは肩を竦め、大きな溜息を吐いた。


「なあ、あたいはどうだった?」

「あ~、戦い慣れてるって感じだな。頭を使ってる感じもしたしな」

「……そうか」


 リブは小さく息を吐き、胡座を組んだ。


「そういや、地震撃ってどんな技なんだ?」

「…………」


 リブはふて腐れたようにそっぽを向いた。


「相手を足止めする奥義だよ。あの技を喰らって生きてたヤツはいねぇ」

「そう言えば何か引っ掛かるような感じがしたな」

「引っ掛かるような感じってマジかよ」


 リブは信じられないと言うように目を見開いた。

 自分の攻撃が全く通用しないとは考えていなかったようだ。


「は~、参ったな。ここまで力の差があるとは思わなかったぜ」

「俺は俺なりに修羅場を潜ってるからな」

「もしかして、慰めてくれてるのか?」

「まあ、そんな所だ」

「……ありがとよ」


 リブはゴニョゴニョと礼を言った。

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