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ゲームの世界・・・

9 ゲームの世界・・・

「へいっ・・・いらっしゃい・・・。」


「銅の剣をくれ・・・。」


「へいっ、100Gになります・・・。」

 武器屋でなけなしの100Gを出し、銅の剣を購入する。


 初回アクセスのための軍資金100Gすべて使ってしまうのはもったいないが、流石にこん棒20Gでは先ほど戦った魔物相手では心もとない。

 急いで始まりの村を出て再び東の森へと向かう・・・、そろそろレイの奴がやってくる時間だろう。


 経験値が高いのだから簡単にやられてしまうことはないだろうが・・・不慣れなゲームの世界だ、苦戦でもしているとまずい・・・、なにせ初期設定のままだから装備もなしなのだ。

 心配のあまり途中から自然と駆け足となっていく・・・、そうしてようやく木々が生い茂る森が見えてきた。


『ぶもももー・・・っ』案の定・・、あのゼリー状魔物の雄たけびが聞こえてくる。


「こりゃあまずいな・・・。」

 急いで声のする方向に加速していくと・・、ありゃあ・・・草むらに少女が寝転がっている。

 寝たまま転送されてきたようだ・・・。


光剣(ペカ)光剣(ペカ)光剣(ペカ)光剣(ペカ)光剣(ペカ)光剣(ペカ)!」


『ズバッスボッズッバァーンッ・・スボッスッパァンッズバッ』2体のゼリー状魔物に囲まれていたので、先ほど覚えたばかりの呪文を唱えながら、光に包まれた銅剣でまずは左側の黄色のねばねば本体の頭を切り裂き、左肩口と右肩口両方からV字に切り刻み、すぐに振り返って右の青色ねばねばを袈裟懸けに斬って返す刀で水平に胴切りをしてとどめの一撃で脳天から真っ二つに斬り捨てる。


 ふうっ・・・危なかった・・・、もう少し遅かったら・・・レイの体は魔物たちに食われていたことだろう。

 魔物の体が消滅した後には、鋼鉄の鎧が出現したようだ。

 おおようやく剣士としての防具が出てきたようだな・・・、よかったよかった・・・。


 これだったら最初から剣士のアイテムが出ていれば・・・とも思ったが、恐らくそうではないのかもしれない。

 最初に鋼鉄の鎧が出てきてしまったら俺には武器がなく、拾った木の枝では1匹の魔物を倒すのに30分もかかっていたのだから、恐らく時間内に始まりの村へたどり着けなかっただろう。


 鎧ではなく剣だとしたら・・・、鋼鉄の剣だとしても簡単にあのねばねば野郎たちを倒すことができたかわからない・・・、なにせ上級魔導書の武器との混合魔法を使っているから倒せているとも考えられるのだ。

 そう考えると魔物を倒した際に出現するアイテムは、その冒険者の職業というよりも、魔物たちとの戦いの上で、今一番役に立つものが出てくるのかもしれない。


 勇者の剣とか究極アイテムでも出てくるのであればともかく、経験値はダントツに高くても、所詮は初期ダンジョンのサブボスキャラ程度では、さほど高度なアイテムは出せないのだろう。

 そう考えると、この順番でもっとも適したアイテムが出現したと考えざるを得ない・・・感謝だ。


 あれあれ?それはそうと・・・レイのためのアイテムは、どこだ・・・?

 いやそうか・・・レイは寝たままで戦いに参加していないから、アイテムが出現しなかったという事か。

 まあ仕方がないな・・・、寝ていたから評価されなかったというわけだ・・・すぐに鋼鉄の鎧を身に着ける。


 それはそうと・・・ううむ・・・しかし・・・、これが本当にレイなのか・・・?

 寝たままで確認の仕様もないが、他からのアクセスは絶対に考えられないから、ここにいるのはレイ以外ありえないはずだ。


 外観は女子高校生風で・・・とても8歳には見えない・・・、こんなキャラになるのを向こうの世界の俺が許可したという事なのか?


 それとも子供キャラはなかったという事なのだろうか・・・、そういえばゲーム機が高額という事もあって、確かに参加者は全てがいい年をした男女だったような気が・・・、源五郎が高校生であったことに驚いたくらいだったからな。


 そうなると、この姿でも若い方の格好で仕方がなかったのだろうか・・・、ううむ・・・かなりかわいいしスタイルもいい・・・、実の娘だと自分に言い聞かせていなければ、うっかり惚れてしまいそうなくらいだ。


 おや・・・?手には杖を持っているようだぞ・・・、あれ?最初のアクセスの時でも装備は購入できたのか?

 ううむ・・・ちっとも知らなかった・・・、まあ時間もないので色々な詮索はやめておこう、ぐずぐずしてはいられない、レイを学びの館まで運んでデータ保存しなければならない・・・。


 すぐにレイをおんぶすると、始まりの村へと歩き始めた。

 やはりこの世界の俺の身体能力はすごく高いのか、鋼鉄の鎧を装備して成長したレイを背負っていても、何の苦も感じることはなく、時折襲い掛かってくるゼリー状魔物も、光の剣で一刀両断しながら進んでいくことができた。



「ようこそ学びの館へ・・・再び冒険者が訪れ始めたようですね・・・、喜ばしい限りです。

 ここでは説明書では書ききれなかった、この世界の事情を説明いたします。

 皆さんが、この村へたどり着くまでに、この星の生命体と接触しましたか?・・・」

 始まりの村へ到着して見慣れた館に入ると、すぐにどこからか声が聞こえてくる。


「ああすまないが・・・俺はさっきも説明をキャンセルしてもらって、初期キャラの保存だけをお願いした者だ。

 もう一度、この子のデータの保存をお願いする。」

 俺はそういいながら、俺の背ですやすやと眠るわが子を指さす。


「先ほどの冒険者の方ですね・・・、ずいぶんとお急ぎのようですが・・・、その方も・・・以前この世界にやってきているので、説明は不要という事でしょうか?」

 天の声が少し戸惑いながらも問いかけてくる。


「いや・・・この子はこの世界に来るのは初めてなんだが・・・、だが今は眠っているから説明を聞いても仕方がないだろ?

 だから、とりあえずデータの保存だけをお願いする。


 今このタイミングでしか説明が聞けないっていうのでも構わない・・、俺はうる覚えだが内容を知っているし、もう一人やたらと記憶力がよくて説明のうまいやつも来る予定だから、何だったらそいつに説明させるから、ここでの学習はできなくても構わない。


 またすぐに戻らなければならず、とにかく時間がないから、すぐに保存してくれ。」

 折角の機会を申し訳ないのだが・・・、なにせ今は立て込んでいるのだ、まずは保存してもらうことが先決だ。


「分かりました、仕方がありませんね・・・ですが、説明を聞きそびれたことによる、様々なゲーム進行上の不具合に関しては、こちらでは責任を負いませんよ・・・、それでもいいのですね?」


「ああ構わない・・・。」

 天の声はしつこく確認してくるが、もちろん後で文句を言うつもりなど毛頭ない。


「分かりました・・。」


「よし・・じゃあ、この子のことは頼む・・、俺はまた出かけなければならない。」

 保存が終わってしまえばもうこっちのものだ、レイを降ろしてギルドに預け、出ていこうとする。


「待ってください・・・、お仲間をお忘れですよ・・・。」

 するとすぐに天の声が俺を呼び留める。


「あれ?この子はもういいんだよ・・・、明日の朝に目覚めれば・・・。

 だから出ていくのは俺だけでいい・・・、この子はここで寝させておいてくれ。」

 そう言って館の扉に手をかける。


「お待ちください・・・、ですから、お仲間を置いて行かれては困ります。

 ここは、宿泊施設ではありませんのでね。」

 冷たい声が返ってきた。


「ええっ・・・だってここでデータ保存して本日終了すれば、明日の朝になって目覚めるはずだろ?

 だったらいいじゃないか・・・、この子をここで眠らせておいたって・・・。」

 何を言っているのだ?始まりの村では、ここが宿代わりだったはずだ。


「ですが、データ保存したらすぐに出ていくとおっしゃったではないですか・・・。

 それとも、もう一度データ保存して、本日は終了なさいますか?」


 なさいますかって言ったって・・・、そうかレイは眠っているから、この子が自分の口から本日終了と言わない限り、レイだけ保存して終了というわけにはいかないという事なのだろう。


「分かったよ・・、じゃあレイもつれていくよ・・・。」

 再びレイを背におぶって学びの館を出ていく・・、ああうっとおしい・・。


 バーチャルのゲームは、このように融通が利かないから困るな・・・。

 レイを背負ったまま、駆け足で東の森へと向かう。


 レイが杖を装備していたように、恐らく源五郎も武器を装備してやってくるだろう。

 源五郎の性格からいうと、恐らく今回も弓矢を武器としているはずだ・・・、そうなると初心者用の弓とわずかばかりの矢で100Gくらいだったはずだ。


 いくら経験値が高くても、初心者用の弓では威力のある矢を射きるのは難しいだろうし、矢だって普通の矢ではあのねばねばの皮膚を突き通すくらいがやっとだろう。

 そうなると、矢を相当撃ち込まなければ倒すことが難しいはずだ・・・。



『ぶももももーっ』東の森へ到着すると、やはり奥の方でゼリー状魔物の雄たけびが聞こえてきた。

 急いで声のする方へ駆け出すと・・・、そこには弓矢を構えた冒険者と、幾本もの矢が突き刺さってハリネズミのようになっているねばねば野郎が対峙していた。


『ズッボーンッ』ようやく急所に突き刺さったのか、ねばねばのゼリー状魔物が消滅する。

『ぶっもー・・・』だがすぐに冒険者の背後から、別のゼリー状魔物が襲い掛からんとするが、源五郎の矢袋はすでに空の様子だ。


光剣(ペカ)光剣(ペカ)!」

『ズッパァーンッ・・スパッ』すぐに光の剣で魔物を切り捨てる。


「ふうっ・・・、間に合ったようだね・・・。」


「ああリーダー・・・、ありがとうございます。」

 源五郎が嬉しそうに笑顔を見せる・・・源五郎だよな・・・?以前と違い、今回はすらりとした長身の美青年がそこに立っている。


「リーダーは・・・、前とちっとも変りませんね・・・。」

 鋼鉄の鎧は装備していても、兜は手に入っていないから、顔はそのままむき出しだ。

 俺のキャラは以前と同じくダミーサンプルデータそのままだから、誰が見ても分かりやすいのだろうか・・・。


「いやあ・・・、俺にはこの設定が似合っているんだ・・・。」

 まさか、自分のセンスのなさをさらけ出すのが怖いとは言えない・・・。


「あっなんか出てきましたね・・・。」

 源五郎がさす先に何かアイテムらしきものが・・、先ほど源五郎がハリネズミ状態にして、ようやく倒した魔物がいた場所だ。


「鋼鉄の矢袋ですね・・・銀の矢袋同様、鋼鉄の矢じりの矢が戦いのたびに3本ずつ出てくるようです。

 これはありがたい・・・なにせ通常の矢では、あのクラスの魔物だとなかなか倒しきれませんでしたからね。」

 源五郎が矢袋を見て嬉しそうに笑顔を見せる。


「ああ・・・俺も上級の魔導書に光の攻撃魔法と杖との融合攻撃の記載があったから、それを利用している。

 それがなければ銅剣くらいじゃあ、とても太刀打ちできない相手だからな。」

 俺が魔導書を開いて見せながら、新たな攻撃呪文を説明してやる。


「へえそうですか・・・、結構いけますね。

 それはそうと・・、レイちゃんはやっぱり寝たままですか・・・。


 でも、わざわざ連れて歩かなくても・・・、宿で寝かせておいてあげればよかったのではないのですか?」

 源五郎が、俺がレイを背負ったままでやってきたことを不思議そうに、しげしげと眺めている。


「それができれば、苦労はないわけだよ・・・、まあ始まりの村へと向かおう。」

 始まりの村への道すがら、いかにバーチャルゲームの進行役が融通が利かないか説明してやる。

 途中、やはりゼリー状の魔物に襲われたが、鋼鉄の矢の威力はすさまじく、1、2本で魔物を葬ることができた。



「ようこそ学びの館へ・・・またまた冒険者が・・・、げげっ・・・。

 また説明は不要だから、保存だけをお望みでしょうか・・・?」


 少しトーンが落ちた調子で、天の声が問いかけてくる。

 厄介な奴がまた来たとでも思っているのだろうな・・・。


「いや・・・、今回は保存と本日終了をお願いしたい。

 説明は・・・・どちらでもいいが・・・、どうする?」


 源五郎の方へ向いて聞いてみる。

 彼が聞きたいのであれば俺は反対するつもりはない・・、もう時間的な制約はないはずだからな。


「ああ・・・学びの館の説明ですか・・・、先ほどはお聞きにならなかったのですか?

 うーん・・・レイちゃんがいるのであれば聞いておいて損はないのでしょうが、僕とリーダーの場合は以前聞いているので、不要ですよね・・・。


 すみませんが説明はなしで、保存と終了をお願いいたします。」

 源五郎もうなずきながら声を張り上げ気味に叫ぶ。


「分かりました・・・では、保存と本日の冒険は終了ですね?本当によろしいのですね?」

 天の声がしつこく確認してくる・・・、相当気を悪くしているのだろう。


「ああ・・・、かまわない、お願いする。」

「分かりました・・・、ではおやすみなさい・・・。」



 ふと気が付くと・・・、懐かしい景色の中に俺は立っていた・・・、昔と違う点は・・・騒々しいほどにたくさんいた、他の冒険者たちが一人もいない、寂しい状態であることだけだ・・・。


「きゃあっ・・・、あなた誰?」

 すると突然、耳元で大声で叫ばれてしまった・・・。

 あせって後ろを振り返ると、おぶさったままの娘に気が付いた。


「ああレイ・・・お早う・・・パパだよ・・・、ここはゲームの中の世界だ・・・。」

 眠りから目覚めた娘を降ろしながら、説明してやる。


「ゲームの世界・・・、ここがそうなの?」

 娘は、しげしげと辺りを見渡し始めた・・・、といっても昔と違いこの部屋の中にいるのは、鎧を着た剣士の俺と、弓矢を装備している源五郎と娘のレイの3人しかいない。

 あとは、カウンターの向こう側に、美人の受付嬢が一人いるだけだ。


 そういえば、昨日はこの部屋の中には俺たちのほかには誰もいなかったはずなのに、いつの間にかカウンターや部屋中央には太い柱の4方に掲示板が掲げられている。

 学びの宿で最初に記録をすると、ここはギルドに自動的に模様替えされて、冒険者が目覚めるというわけか。


「それから、こっちにいるのが源五郎だ・・・ちょっと見た目は違うが、前回よりも今回の方が現物のイメージに近いと俺は思うね・・・。」

 そうして源五郎も紹介しておいてやる・・・、何せ初めて出会うのだからな・・・。



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