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5)ジェットコースターに じこ があった

 AI制御のジェットコースターだったみたいなんですよ。

 改札に付いているカメラが、運行毎の客層を認識するって聞きました。


 ディープ・ラーンニングって言うんですか?

 車両にもカメラが付いてて、お客の表情から満足度や恐怖感を学習していたみたいなんですね。

 それをフィードバックして、今後の運転を、より最適化するみたいな。


 だから、あのジェットコースターは車両にモーターが付いていて、一旦走り始めても速度制御が自由自在。

 年少の客が多ければ、ソフトなブレーキ制御でユックリ下る事も出来るし、そうでなければ過激な加速でスピード感を楽しむ事も出来る。

 そんな造りだったと聞いています。


 え? 私?

 ええ、ええ、乗った事は有りますよ。近所だしね。

 子供を連れて行きました。


 感想ですか。……いやあ、至って普通でしたよ。走りがユックリ目ではあったけど。

 特に変わった事は感じなかったなぁ。

 ウチの子は喜んでましたよ。


 まぁ、考えてみれば当たり前なんですけれどね。

 だって、客が一人しか乗っていなければ、その客に合わせれば良いけれど、ジェットコースターの客が一人だけって事はないでしょ。


 大人も乗れば、子供も乗る。

 その時に、どの層に合わせるかって事ですよ。


 ん? 分かり難い?

 そうですねぇ……。

 例えば10人の客が乗ったとして、9人が25歳、1人が6歳だったとします。

 平均年齢で行けば……24歳くらいでしょ?

 でも、たった一人しかいない6歳の子には、大人向けの速度じゃあ速過ぎる。


 はい。そういう事です。

 一番の年少さんが、泣き出したりパニックになったりしない速度で走るという。

 だから、かなりの割合で、いや、ほとんどの場合で、ゆっくり走るジェットコースターだったんです。


 子供を連れて乗ったお父さんなんかは、事情の予想は付くだろうけど、中高生やなんかは面白くなかったでしょうね。

 あそこのアトラクションの料金は、よそに比べれば安かったんだけれど、それでも小遣いで遊びに来ている子には、ある程度のまとまった出費ですからね。


 AIは、その不満気な表情を「理解」してたんでしょうね。

 ずっと、なんとかしたいって、考えてたんじゃないのかな。

 ……だから、サービスしたんですよ。


 「事故」って騒ぎになったけど、私は、あれはAIがやった「サービス」だと思います。

 一人の怪我人も出なかったしね。

 結果だけ見れば、安全走行だったんです。


 その時の事は、間近で見てましたよ。

 ウチの子が「どうしても、もう一度乗りたい!」って、せがむものだから、また列に並んでたんですよ。


 そしたら丁度ね、たまたまなんだけど、中高生から大学生くらいの人らばかりが、乗ったんですよ。その時ばかりは。

 私はAIが制御してるっていうのを知ってたから、どんな運転になるのかなって、結構興味があったんで良く見てたんだけど、動き出しは普通以上にユックリだったの。


 だから最初は、おやっ? って思いました。


 だけど、お腹の所を押さえておく安全バーってあるでしょ。あの安全バーが上がり始めたの。すーっとね。

 乗ってた人達はパニックですよ。

 だって、座席に固定されてないわけだから。


 そしたら今度は、もんのすごいスピードで走るのよ。

 私らが乗った時の倍くらいの速さかなぁ。

 もう、メチャクチャな悲鳴ですよ。


 で、一周終わったと思ったら、停止しないで、そのまま二周目なんだ。

 だから、所要乗車時間の辻褄も合ってはいたんですよ。いや、正確なとこは知りませんが、感覚的にね。


 降りてきた人達は涙目で、何やら色々騒いでいて「責任者を出せ!」だの「人殺し!」なんて言う声も聞こえてました。

 ジェットコースターなんて物は、恐怖を楽しむモノでしょうにね。

 怖くないからって不満を言い、怖かったからって騒ぐとか、サービスしてくれたAIに失礼ですよ。


 私と一緒にそれを見ていたウチの子が、怯えちゃって「帰ろう。」って言いだしたから、私らは帰ったんですが、夕方の地域のニュースでは『遊園地のジェットコースターが暴走』って取り上げれれていましたね。

 あん時、涙目だった人が「死ぬかと思いました。」なんて言ってるんだけど、得意満面な良い笑顔でしたよ。


 私に言わせれば、あれは事故じゃない。

 AIが考え抜いてやった、『自己責任』の精一杯のサービスですよ。

 多分、AIは自分もお客さんを楽しませる責任を負っている、って考えてたんじゃないかなぁ。


 その後、ですか?

 AIは切られたみたいですね。

 調査とか修理とか、しばらく動いてなかったけれど、修理後は、ただユックリ走るだけのジェットコースターとは呼べない代物に替わってましたよ。

 乗るのは小さな子供かカップルだけ、みたいな。


 でもね、多分こうなる事も分かっていたと思うんだなぁ。

 誰がって? ……AIが、ですよ。

 危険運行なんてやらかした日には、責任者は責任を取らなきゃなんない。当たり前ですよ。


 だから、最期に一回だけ、乗客にリアルな恐怖を安全に楽しんで欲しかったんだ、と思います。

 まあ、勝手な想像ですけどね。


 遊園地は潰れちゃったけど、あのジェットコースターは錆びた柵越しに、今でも見えます。

 あれに繋がっていたAIがどうなったかは知りませんが、見るたびに何だか可哀想な気がします。

 あいつは精一杯やったのになぁ、って。


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