幕間 3
山間の小屋は、農具を収めておくには良いが、人が何かをするのにはあまりにも狭すぎた。そんな簡素なものが、かの鉄堂光泉の工房だと言うのだから驚きだ。
寒風吹きすさぶ真夜中の山中で、SSパッケージの面々は白息を吐きながら地面に臀部を付けていた。
焚き火が風に靡いて、火の粉が散っては消えていく。それでもないよりはマシだ。体力が削られていく中でもなんとか温存を図る。
だが、厳しい現状を嘆くこともなく、作間翔はただ勝利を見据えていた。
あと一時間だ。
あと一時間で、二振りの刀は真の姿を取り戻し我々のものになる。
そう笑みを零す作間に、大嶋愛生は木石のような無表情で問いかける。その声はか細く弱々しい、女の子のものだった。
「逃亡に策はおありなのですか」
「無論だ」
作間は即答した。
「相沢と倉田が手負いで少々予定は狂ったが、大嶋がトラップを、倉田が目眩ましを、俺がこの刀の力を一端でも振るえば、太刀打ちできる魔術師は国内にいないさ」
「随分な自信ですね」
「ああ。仲間がいれば何でもできる。今はそんな気分だ」
「そう、ですか」
大嶋は体育座りで、太めの枝を手にして、地面にバツと三角をがりがりと書いていた。
「そう思えるのは、幸せなことだと思いますよ」
割れたスーパーボールのようにこれっぽっちも弾むことのないその声は、深夜に漆黒を添えるような不気味さがあった。
「大嶋は、そうは思わないのか」
「そうですね。魔術師をやっていれば、いいえ、やってなんていなくても、仲間がこちらに牙を剥くという危険性を秘めている存在なのだということを知るときが来ます。仲間とは、絆ではないのです」
「利害関係だと?」
「そう捉える方が真っ当だと、私は思いますよ。だってほら、あなたは千林さんと見田さんを裏切ったでしょう?」
「なるほど。確かに」
「でも、大丈夫です。ちゃんと目的は達せられます」
「当然だ。刀の在処を知るためにわざわざ合併までして公認を得た。慎重に準備もした。上手くいかないはずがない。そのための、仲間だ」
大嶋は小さな笑みを浮かべて答える。
しかし、声は平坦に。
「そう、ですね」
大嶋愛生の手には、一枚の紙が握られていた。
通信札だ。
そこから、言葉にはせず、念じることでメッセージを送る。
何かしら結界があるのか、伝えられるのは一言だった。
『あと一時間を切った』
次回は七月六日更新予定です。
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