SSパッケージ 2
ギターケースを持った倉田正己は、隣を歩く大嶋愛生を一瞥した。
倉田にはコンプレックスがある。身長が、平均に比べると小さいのだ。
そして、大嶋は女だけあって自分よりも小さく……あってくれれば良かったのだが、彼女は性別の割に大きく、目線を合わせるには少し見上げなければならない。コンプレックスを抉られる気分だ。
「大嶋、辛くないか? 魔術使えば目的地まで一瞬なのにな」せめて立場くらいは上に立とうと、歩き続ける大嶋を心配する。
「大丈夫です。あと少しだと思えば、この程度、辛くありません。私も魔術師なので」
大嶋愛生の声は見た目に似合わず小さく、弱々しい。
「ひゅー。自信ない感じなのに言うねえ」
倉田の肩に掛けられたギターケースの中身は、嫌に音が鳴る。掛け直そうとすると、華美な装飾同士がぶつかるのだ。
「でも、あの警官に職質みたいなのされた時は焦ったよな。おっさんがこの模造刀で満足してくれて助かったよ。あれ以上探られていたらヤバかった」
「そう、ですね。あれで車内を調べられたら」
「ああ。面倒なことになってた」
男女は、まるで中学生カップルのように歩きながら、とある小さな神社の境内に入った。
倉田は、少し大きな声で伝える。
「魔力使います。離れてください、っすよ――」
そう言って、倉田は魔力を境内の中心付近で僅かに行使した。
そしてそれは、ほんの数秒のことでしかなかった。
「よし、急ぐぞ」倉田はギターのギグケースを持ち直した。
「はい」
「あと何ヶ所行けばいいんだっけか」
「二ヶ所です」
「おっけ。次は確か……学校か。どうやって入りゃいいんだよ中学校なんて。まだ部活帰りの奴とか普通にいんだろ」
「変装しますか」弱々しい声で大真面目に大嶋は言うが、
「馬鹿。制服持ってないだろ」
「え……持ってたらやる気だったんですか。ちょっと引きます」
「お前が言ったんだろうが!」
「でもいい手です。やりましょう。倉田さんならバレません」
「なんでそう言えるんだよ」
「倉田さん小さいので」
「くそ! つまり中学生と同じくらいだからバレないとそう言いたい訳だなちくしょうめ!」
倉田は地団駄を踏んだ。シークレットシューズで六センチ伸ばした身長で、なおも中学生程度と言われたことが悔しくてしょうがない。
「ああでも、」と囁くように大嶋は口を開き、「その靴を変えた方が、もっと中学生っぽいと思いますよ」
「くそ! シークレットの意味ってなんなんだよ! 全っ然意味ねえじゃねえか何がシークレットだこの!」
倉田は地面に親でも殺されたかのように、思いっきり蹴った。
いくらシークレットでも気付かれていないと思っているのは本人だけなのだ、ということを思わぬところで知ってしまった倉田正己であった。
彼らは一体何をしているのか……。次回もよろしくお願いします!




