幕間 1
出海夕夏はこの日、東京で朝を迎えていた。
防衛会議に付き添った後、敬愛する先生――元魔術師である嘉多蔵麻里奈――との食事を終え、ホテルに戻って来た出海は、眠気に誘われるように眠りについた。
しかし、予定はびっしり詰まっている。せっかくの東京なのだ。行きたい所は山ほどある。
出海夕夏は、睡眠時間もそこそこに起床し、ぼやけた目をこすりながら、窓の外を見た。
出掛けるまであと一時間。冬の街は相当寒いだろう。だが、眠気を覚ますには丁度いい。少しだけ散歩に出て、戻ってきたらシャワーを浴びて、それから観光を始めよう。そもそも、都会の朝を歩くだけでも十分観光と言えるだろうし。
上着を二枚羽織って、部屋を出、エレベーターに乗り、一階のロビーまで来ると、いかに自分がだらしない格好で外を歩こうとしていたのかを思い知らされた。
ロビーで散見された、皇居の周りを走って来たであろうランナーはごく普通のジャージー姿だったのだが、燕尾服かドレスかと見紛うほどスマートな出で立ちで、とうとう怯んでしまった。イヤホンをしながらランニングしているおばさまなど、地元では見たこともない。
だが諦めない。いもくささは承知の上で上京したのだから、今更退くことはない。勇気を出して、ビルに囲まれた大都会の朝へと飛び出した。
一歩踏み出せば、早朝から忙しない出勤途中のサラリーマンに、むしろ今から帰宅するであろう派手な格好の男性、教師のような威厳を感じさせるふくよかな女性、数えきれない程の人が都会の街には溢れていた。高層の建物よりも、人波を縫うように早足で行くビジネスマンの方が威圧感がある。これが東京か、と、何度か来ている割には新鮮な気持ちで、心は満たされた。
たった十数分だったが、田舎人にとっての非日常を味わえて、とても有意義な時間だったと言えるだろう。
出海がロビーに戻ると、和装の老人がフロントで電話をしていた。よくよく見なくても、ロビーには団体客、つまりはご老人ご一行でいっぱいではないか。
どうやら一階のレストランに朝食ブッフェがあるらしく、コーヒーのもったりとした香りが漂っており、賑わいがロビーにも伝わってきている。
だが出海夕夏は、それらには目もくれず、息を切らしながら慌てて部屋に戻った。
心臓の鼓動が内側で暴れるように鳴り響く。
その表情は青ざめていた。手も震えている。全身から汗が噴き出した。
この時だったのだ。
――出海夕夏が、中部支部で起こった事件を、知ることになったのは。
来週はお休みさせて頂いて、次回の更新は十月六日を予定しています。
よろしくお願いします。




