陽はまた落ちる 6
タクシー移動を羨みながらも、和川奈月と出海夕夏は自らの足で、魔術の補助も付けつつ目的地へ向かう。
和川は困っていた。涼風以外、あまり異性との交流をせず人生を送って来た身故、とにかく何を話せばいいのか分からない。
先を行く彼女の背中を改めて見ると、かなり華奢な女の子だ。同い年というが、あどけなさがある。普通の女の子だ。笹見みづきという年下の魔術師もいるが、あれは女の子という目で見たことがないので置いておくとして、目の前の出海夕夏は、本当に普通の女の子で、とても魔術師には見えなかった。もちろん、腰に携えられた日本刀がそれを否定するのだが。
「なあ、出海」勇気を出して声を掛けてみた。
「はい」
冷たい返事だった。が、怯まない。
「出海はなんで魔術師になろうと思ったんだ?」
和川は抱いた疑問をそのまま投げかけた。
普通に生活さえしていれば、本来魔術は裏の世界。知る機会すらない筈で、余程の理由がなければ足を踏み入れることはない。
そして、踏み入れるべきではない世界だ。
「仕方なくです。この世界に触れなければならないきっかけが子供の頃にあって、そのまま留まっただけで……」
「ほーん。そういうのもあるのか。それぞれだな」
「と、言いますと?」
「大和なんかは親が魔術師だったから自然と、って言ってたし、和奏は……ああ確か、あいつも子供の頃には魔術師やってたんだ。俺はまだ最近のことだから、昔からやってる奴ってすげえなあって思うんだよな」
年齢こそ近いが、不知火も涼風も、和川から見れば大先輩だった。キャリアと年齢、どちらを重要視するかは人によっても違うが、魔術という世界に身を置いた時間は、和川は圧倒的に短い。
「……別に、いいことじゃないですよ。そんなの」
出海の声は、少し、重かった。
「ここにいるしかないからいるんです。お人好し過ぎて離れられない人もいるし、仕方なく付き合わされている人もいる。こんな危ない世界って分かっているのに、離れようとしない人っているんですよ。危険があるって分かっていても、そこに飛び込んじゃうような、そんな人。付き合わされる方はいつも大変ですよ」
和川は、「俺のことか?」みたいなことを思ったりもしながら、出海夕夏を見て、あまり魔術師らしくないなと思った。それは、もしかしたら本人も思っていることなのかもしれない。和川は、彼女の言葉をそう受け止めた。
和川はどうも異性とのコミュニケーションが下手だった。それは、今まで経験がなかったからで、つまり、今も扱いが分からずにてんやわんやで、だからこそ、つい正直なことを言ってしまうのも、仕方がないわけで。
「出海は、この世界が嫌いなのか?」と。
一瞬、間が生まれた。
足を止めることはないが、この微妙な間というものは気まずさの象徴だった。沈黙で息が詰まってしまいそうだ。
「まずかったかな」と和川は心の奥で呟いた。「デリカシーのない男!」となじられるかと思った。が、彼女は、何か影を落としたかのように、背中を丸めた。
「そうかも知れません。少なくとも、今は」
今この瞬間、感情はその声からしか受け取れない。全てを見通すことは出来ない。
でも、
「……何か、あったのか?」
デリカシーのなさが時に強みになることもある。
出海は和川の方へと振り向き、小さく笑った。
「いいえ。何も」
明るい声だった。
明るい声だったのだ、少し、不自然に感じるほど。
そして彼女は、どうにも受け取りがたい、妙な笑顔をしていた。




