序章――陽はまた落ちる 1
この祝日は散々なものになった。
まだクリスマスイヴの前日とはいえ、せっかくの祝日。多くの人々はここぞとばかりにクリスマスパーティにいそしむことだろう。クリスマスそのものに思い入れはないが、和川奈月は不本意だった。祝日ムード一色の世の中に反して、仕事を押し付けられてしまったからだ。
和川奈月は魔術師だ。
日本魔術協会という組織に属し、中部支部に大魔術廃絶部という部署を立ち上げ、和川はそこに籍を置いている。
つい昨日終結したばかりの事件――リオウ=チェルノボグによるテロ事件のおかげで、多くの中部支部所属の魔術師が事後処理に追われており、本日も中部支部は人員不足だった。
事件解決に尽力した和川らは、方々から配慮を貰い、その面倒事から逃れられた……のは、ありがたかったのだが、それならば別の雑用を押し付けるのもやめてほしいというのが本音なのである。
その雑用、つまり仕事というのは、とある人物を出迎えることだった。
地元の人間が名駅と呼び、他の地方の人間は迷駅と呼ぶ、広くてややこしい駅ナンバーワンの異名を持つとか持たないとかいう駅で、和川と、金の長髪を靡かせる不知火オーディン大和は、ある人を待っていた。
そう、待った。それはもう、待ち続けた。
一時間やそこらで投げ出すわけにはいかないだろう。相手が新幹線を使い、運悪く一本乗り遅れることもあると考えれば二時間も誤差の範囲か。……つまり、二時間待ってもその人は来なかったのだ。
リオウとの激戦が肉体の隅々に刻みこまれた二人の若者は苛立ち交じりに、この件の担当者である先輩魔術師、番場最人に確認をすることにした。
「その人まだ来ないんだけど」痺れを切らしているのでタメ口だ。
すると番場は、『何やってるんだ遅いぞ、早く来い馬鹿』と乱暴な物言いで通信を切った。切りやがった。雑にも程がある。
「おいどういうことだ!」と和川は露骨な憤りを見せる。
誰が来るかも知らされず、伝えられたのはただ、『その人が持つ特徴的なモノ』ただ一つ。それで二時間も待たされて、挙句そんなことを言われれば誰だって憤慨する。
いたって冷静な不知火は和川をなだめ、都会のど真ん中である駅構内で、呆れながらこう言った。
「怒りを爆発させるのは、本人を目の前にしてからでも遅くないだろう?」
「ああ?」
「さすがの僕も、番場さんの顔を見て冷静でいられるかは別だが」
和川はニヤリと笑った。
二人は早速電車に乗り、中部支部、大魔術廃絶部へと向かった。
和川は拳を握る。ようは、それをぶつけに戻るのだ。
ターゲットは一つ。
先輩の、顔面である。
次回、新キャラ(?)登場!
よろしくお願いします!




