爪痕 4
騒動から数時間。とある施設に、リオウ=チェルノボグという名の魔術師はいた。
『特別監獄・月』。
日本魔術協会が保有する、魔術犯罪者を収監する監獄だ。
一見すると、通常の犯罪者が収監される刑務所と何ら変わらない。むしろ小規模かつシンプルで、些か警備も甘く感じられるかもしれない。
それでもここは特別監獄。
檻や壁、そして着ている衣服にまで特別な魔術が施され、罪人に魔力の行使が出来ないよう細工がされている。
ものの数時間で収監された檻の中で、リオウは自身の躰を見つめた。
長きにわたる眠りから目覚めたかのような感覚があった。体力の大半は回復の兆しを見せ、大きな傷も大方塞がれている。痛みというものも、ほとんど感じることはない。
金色の髪を携えた少年が、精密な魔力コントロールのいる医療魔術を用い治したのだろう。
馬鹿げた考えの、腑抜けた魔術師達だった。敵である自分までも治療してしまうくらいなのだから、甘さは一級品だ。
彼らの思想もやり方も、自分とは全く違うものだった。最終目的地に大きな差異は見られないというのに、どうも相容れない。リオウ=チェルノボグは、素直にそう思う。
人々の平和の為に行動した。自分は、間違ったことはしていない。それは確かだ。揺るがない。
それでも何故か、自分の行動が失敗に終わったことに、安堵している自分がいた。
理由など分からない。分かる筈もない。何せ、さほど時を経ていないのだから。
自分でも分からない心の内を、未だ掴めぬままに。
リオウ=チェルノボグは、檻の中で一人、己の過ちとやらを思案する。
次回でとうとう最終回です。が、もちろんお話は続きます!
是非和川たちの奮闘に今後もお付き合い頂ければと思います。




