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異世界で家庭菜園やってみた  作者: 藤原ゆう
禁呪発動
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2.菜園が荒らされました

一悶着の末に結局やることになったサラの家庭教師と、菜園の水やり。


それらを繰り返す毎日の中で、悠里は自分を見つめ返すには十分な時間を与えられていた。


アルバートに「意地になっている」と指摘されたこと。


ぐちゃぐちゃな心を持て余して、ウリエルを拒絶したこと。


(自分はなんて、幼稚で、未熟で、どうしようもなく身勝手なんだろう)


彼が側にいない。


そのことが、こんなにも寂しい。


けれど、それは、自分が招いた結果なのだと、悠里は受け止めるしかなかった。







新緑は若葉となり、汗ばむことも多くなった頃。


菜園の野菜は、もう随分育っていた。


数こそ少ないものの、最初にしては良い出来。


これなら収穫も期待出来そうだと、ジョーやアルバートと話していた矢先だった。


その朝水やりに行っていたアルバートが、思いの外早く、血相を変えて戻って来たのだ。


「ユーリ。大変だ!」


ちょうど、これから授業だというのに、何処かに行ってしまったサラを探している処だった悠里は、何があったのかと身構えた。


そんな悠里の肩をはっしと掴むと、「野菜がっ!菜園が、荒らされてたんだ!!」


「え……?」


耳を疑った。


「どうして?」


「分からないけど、人の足跡が残っていたから、きっと……」


「そんな!」


あの場所は、子爵領だ。


おいそれと部外者が入ることの出来る場所ではない筈だった。


それなのに、誰かが菜園に入り、荒らして行ったのだろうか。


「とにかく、一緒に行こう。これは、ウリエルさんにも関係することだから、僕が話してくるよ」


悠里の返事も待たず、アルバートはウリエルがいる筈の彼の部屋の方へ向かって行った。


悠里はガクッと体の力が抜けて、玄関ホールにあるベンチに座り込んでしまった。


「誰がいったい……」


ハーブ類は、もう明日か明後日には収穫出来るところまで育っていた。


それなのに……。


実際どれくらいの被害だったのかは、この目で見るまで分からないけれど。


アルバートがあんなに慌てて帰って来るくらいだ。


余程だったのだろう。


「はあ」


溜め息をついて、頭を抱えた。


まただ。


また、上手くいかなかった。


いつもそうだ。


やること、なすこと全てが、上手くいかない。


(わたしって、よっぽど、ついてないのかなあ)


随分後ろ向きな事を考えながら項垂れていると、二つの足音が聞こえて来た。


「ユーリ。大丈夫?」


悠里の様子に、慌てて駆け寄るアルバートの後ろから、ゆっくりとウリエルがやって来る。


それを感じながら、悠里はのろのろと顔を上げた。


「顔色悪いよ。君はここに残ってるか?」


「ううん。行くよ。菜園の責任者は、わたしだから」


「……うん。そうだね」


「馬車の手配をさせた。行こう」


静かにそう言って玄関を出て行くウリエルに続こうとした時、視界の隅にサラを捕らえた。


「サラちゃん!?どこにいたの?」


「あんたこそ、どこ行くのさ」


「ごめん。急に菜園に行かなくちゃならなくなって。今日はお休みにしようか?」


「菜園?」


「うん。サラちゃんも一緒に行く?」


「行っかな〜い。街に行ってくるわ」


「お前。また!」


アルバートが声を上げると、サラは肩をすくめ、「兄さんも、いい加減、野菜作りなんてやめて、遊んだらいいのに。人生は一度しかないのよ〜」と意地悪く笑った。


「サラ!最初は、お前もやるって言ってたじゃないか」


「いざとなったら、面倒くさくなったんだもん」


「もう、いい。好きにしろ!ユーリ。行こう」


アルバートは、ぐいっと悠里の手を引いた。


「でも……」


「いいよ、あんな奴。放っておこう」


玄関を出る際、悠里は顔だけ後ろに向けた。


そこには、まだサラがいて、その表情に悠里は息を飲んだ。


けれど、アルバートの強い力には逆らえず、馬車に乗り込んでしまったのだ。


腰掛けてから思った。


(サラちゃん。泣いてた……?)


隣に座る、アルバートを見た。


「サラちゃん。やっぱり一緒に行きたかったんじゃ……」


「だったら、素直にそう言えばいいんだ」


「アル……」


「あいつは自由気ままにやってるんだから。付き合ってられないよね」


「でも、心配でしょう?」


「心配ばかりしてるのは、あいつの為にならないって、前ジョーさんに言われたことがあるんだよ」


「ジョーさんに?」


「そう。それから、時には突き放して、自分で考えさせるのも必要かなって思って」


「……そうなんだ」


でも、そのことで、サラが寂しく思っているのなら、少し可哀想だった。


(サラちゃんとわたしって、似てないようで、もしかして凄く似てるのかも)


不意に、悠里はそう思った。


失って初めて、寂しさを感じているのだとしたら。


(わたしたちって、同じくらい我が儘なんだわ……)


そっと、向かいの席に座るウリエルを盗み見た。


馬車が動き始めてからずっと、窓の外を見ていたウリエル。


今も、そうしているのだと思っていた。


だが、違った。


彼の視線は、悠里に注がれていたのだ。


(え?)


どきっとして目を見張ると、ふいっと視線を外された。


そしてウリエルはまた、窓の外を眺め始めた。


(な、なんで、こっち見てたの?)


サラの事は何処かへ。


菜園に着くまで、悠里はウリエルと目が合ったことについてばかり考えていた。







「俺はウリエルさんで、アルバートはアル(・・)なんだ」


思わず、そう言ってしまいそうになった。


さすがに女々し過ぎると思い留まったけれど、その後も、深刻そうな顔で話す二人が気になって、外の景色を眺めているどころではなくなって、視線を馬車の中に戻すと、悠里が悲しそうな顔をしていた。


心を打たれ、何がそんなに悲しいのか気になって、見つめ続けた。


あの日より前なら。


彼女を慰めるのは、自分の役目であったのに。


今、彼女の隣に座るのは、アルバートで。


彼の言葉に、少し明るくなる悠里の表情。


そんなことにまで嫉妬した。


その時、悠里がこちらに視線を向けた。


ばっちり合った視線。


ぽかんとした表情の悠里から、すぐに視線を逸らしてしまった。


(俺も大概だな……)


幾分自分を情けなく思いながら、それでも諦めきれない思いを抱えて、ウリエルは視線を逸らしたまま悠里の気配だけを追っていた。





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