幕間 国際連合安全保障理事会
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次話から第二章を開始します。
2022年6月17日(金)
AM 10:30(EST)
アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン
国際連合本部ビル・国際連合安全保障理事会会議場
side 日本国国連代表部特命全権大使・水野雅博
「……ふむ、つまり日本国はその『敵対的地球外生物』に対抗するために国連軍の派遣を要請すると、そういう訳ですか?」
アメリカ合衆国の大使が私にそう尋ねた。
私はその言葉に頷き、説明を始めた。
「はい。現在の我々の戦力……自衛隊のみではあの生物に対して抵抗することはほぼ不可能と言っても間違いありません。彼らはたった1日で戦力を数倍に増やし、既に確認されている個体数は3万を超えています。勿論、確認されていなかっただけでそれが彼らの全戦力であるという可能性を排除することもできません。しかし、現在の5.56mmNATO弾がほぼ無効化されている状況を鑑みれば、3万の装甲車部隊と呼び変えることも出来ます。現状の日本自衛隊の戦力で彼らに打ち勝つ事は不可能でしょう。備蓄弾薬も既に3分の1近くを消費していますので。また、内陸部における戦闘のため、海上自衛隊の支援砲撃も不可能であり、必然的に自衛隊は航空自衛隊の戦闘攻撃機(支援戦闘機)及び陸上自衛隊の打撃部隊による交戦しか出来ません。国連軍又は多国籍軍の派遣が困難であるのならばせめて武器弾薬の購入などに関する便宜を図って頂きたいと思っております」
仮想敵国である中国に自衛隊の弾薬残量などを教えるのは避けたかったが、このままでは中国軍が日本に攻めてくる前に日本はあの生物によって滅亡させられてしまうだろう。
「しかし、現状の国連憲章では地球外生命への対処に関する条文は存在しない。と、いうよりもそれは本当に地球外生命なのですか? 日本国が独自に研究していた生物が野生化、そして遺伝子変異により凶暴化などの理由も考えられます」
ロシア連邦大使が私の説明に対して疑問を呈したが、アメリカ大使がそれを遮った。
「いえ、当該生物が地球上に存在するべき生物で無いことは既に判明しています。昨日の深夜、日本から当該生物の遺骸がアメリカに送られてきまして、簡易遺伝子検査の結果、DNAデータが保管されているデータと全く一致せず。いや、そもそもDNAの構成そのものが地球生命のものとは違っていました。地球生命のDNA構造は二重らせん構造ですが、当該生物のDNA構造は三重らせん構造であり、地球上に存在する生命で無いことだけは明らかですので。しかし、ロシア大使の言うことも尤もです。現在の国連憲章に地球外生命に対する条文は存在しませんし、相手は国家ではなく生物です。現在の所、国連軍の派遣は不可能でしょう。」
「では、多国籍軍の派遣についてはどうなのでしょう?」
アメリカ大使が答える。
「……こちらとしても日本国の国土が地球外からの侵略者によって蹂躙されているのは看過し得ぬ問題です。ですが、現状として我々は当該案件に対して日本国が単体で処理出来うる問題であるという見解です。我が国としても日米安保条約の発動などを視野に入れてはおりましたが、日本国の敵対勢力が動物である以上、対人戦争を前提とした安保条約での対応は困難であるとの結論が出されております。また、常任理事国は『現在の所』は多国籍軍の派遣は必要ないとの見解で一致しています。ただし、」
英国大使がアメリカ大使の先に言葉を発した。
「戦火がアイチ、トウキョウ、カナガワのいずれかに広がった場合は多国籍軍ないし国連軍の派遣の検討を行います。また、それ以外の場合でも日本国が当該案件に対処することが不可能であるとの事由が発生した場合も、派遣の検討を行いましょう」
これまでの発言を聞く限り、常任理事国は理事会開会前に会談を行っていたようだ。あまりにも足並みが一致しすぎていると感じたのはこのためだろう。
「分かりました。では、武器の供与に関しては後ほど調整、という形で?」
「ええ。では、午後12時頃に行いましょう」
それで話はまとまったと見たのか、現在の安保理議長であるイタリア大使が閉会の宣言を行った。
「では、今回の会合を終了します」
議場にいた全員が一斉に立ち上がり扉へ向かう。
私もそれに倣って扉へ歩き出したが、後ろから声が掛けられた。
「ミスター・ミズノ、少し待ってください」
声を掛けてきたのはアメリカ大使だった。
「どうかしましたか、ミスター・コリンズ」
「ええ。……我が国と日本政府との間でニュークリア・シェアリングの交渉が開始されるようです。今日の電話会談で議題に上ったそうで、もしまだ本国から連絡がないならお耳に入れて差し上げた方が良いかと思いましてね」
その言葉に私は一瞬思考を停止させた。
ニュークリア・シェアリング。
核兵器共有。
その交渉が開始されていると言うことは、日本政府がこの『戦争』に対して核の使用を考えているという意味に他ならない。
確かに、たとえ国連軍が派遣されたとしてもあの生物の繁殖速度が予測と同じだったとすれば、1週間でその数は100万体を越える。
それならばいっそ根こそぎ核で焼き払ってしまえば、自然への被害などを差し引いても生物を止める事は可能だ。
いくら頑丈だと言っても核兵器の爆発による5000度を超える熱線に耐える事は不可能だろう。
だが、核による甚大な惨禍を被った国が、その国を守る為に核を使わなければならないとは……ッ!
……しかし、恐らくそれ以外にこの状況を終息させる術など無いのだろう。
「完全に新規の、独自条約ですので安保理や憲章に左右されることはありません。国土が焦土と化す苦しみは私に想像することも出来ません。しかし、それ以上にベストな選択肢は存在しないのです。……その策が最終的に最も少ない犠牲者でこの戦いを終結させるのです。……では、私は食事に向かいますので。昼にまた会いましょう」
アメリカ大使は私を気遣ったのか、そう言うと早々に議場を出て行ってしまった。
核を自らの国土に落とすなどと言うことはとても許容できる事では無い。
しかし、確かにそれが最終的には犠牲者を最小限で済ませる最高の策なのだろう。
私は暗澹たる想いを抱きながら、議場の出口へと向かった。
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