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side γ 人の営みは狭間に消えゆく

今回は短めです。

相変わらずクオリティが安定しません……

2022年8月16日(火)

15:00(ヒトゴーマルマル)

愛知県名古屋市北区

名古屋城・天守閣

日本国防陸軍西部方面軍第10師団第35歩兵連隊第3中隊

side 第5小隊長・吾妻啓治(あずまけいじ)中尉



「本丸にAILS侵入。間もなく天守閣に、敵が」


 燃えていた。

 あらゆるものを、人類の営みを、動物たちの空間を舐め尽くすように燃えていた。

 夜半に統合軍が放った火は折からの強風で火勢を増し、大都会だった名古屋の街並を全て溶かそうとしていた。

 ナゴヤドーム、名古屋駅、高層ビル群、数々の緑地公園、一般家屋。

 燃えていた。

 火がないのは堀によって隔絶されているここ、名古屋城のみだった。

 俺たちが守るはずの都市は、俺たちが逃げるために破壊された。

 そう、統合軍と国防軍のために、全てが焼き尽くされた。


 人類がこの場所に戻ってくることはあるのだろうか。

 人類がこの場所で新たな生活を営み始めることはあるのだろうか。

 ……考えても、詮無きことか。


 俺と、俺の部下はこの場所で死ぬのだから。


 仕方ない。

 逃げ遅れた鼠は、猫に食まれるだけなのだから。


「天守の門を閉めて何かで封鎖しろ。少しは時間を稼げるだろう」


「了解」


 俺たちのやりとりは死に直面した人間とは思えないほどに淡々としていた。

 いや、だからこそ、なのかもしれない。

 皆、受け入れてしまったから。

 自らの死を。


 俺たちは一人じゃない。

 一人では怖くても、皆でいれば、それほど怖くない。

 ある種の集団心理が働いているのだろうか。


「どうしますか、隊長」


「……お前は、AILSに食われるのは嫌か?」


「……はい。さすがにあんなケダモノの餌にはなりたくありません」


「そうか。……この天守も、木造に建て替えたばかりだってのにな……燃えそうなものをかき集めて天守一階に置いてこい。最後の奴が点火しろ。あとは、松永久秀と同じ方法を取ろう」


 この状態で最後まで抵抗するのは無意味だ。

 戦局になんの影響も与えないし、死ぬ時にとてつもない苦痛を味わうことになる。

 そう、なら自らの手で楽に死んだ方がよっぽどいい。


「にしても、第3中隊ってのは本当に運がないんだな……飯田の時も、寸又峡の時も、今回も」


 ただ、今回ここにいたのは第5小隊だけだから、正確には『魔の第3中隊』の定義から外れる。

 選抜射手で構成された狙撃小隊として俺たちは名古屋城天守閣に配置された。

 第3中隊の他の部隊は二の丸の体育館付近に配備されていたが、既に名古屋から脱出しているだろう。

 撤退命令が出てすぐに数機からなる輸送ヘリ部隊によって他の部隊は救助され、最後となった俺たちも乗り込もうと急ぎ二の丸まで向かったのだが、間の悪い……本当に間の悪い事に航空種が現れ、回収作業を中止せざるを得なくなった。

 それから名古屋城空域は航空種によって完全に制圧され、陸路での救出も不可能であると結論された。

 そう、輸送ヘリが救助に来た時点でさっさと天守から出て二の丸に向かっていればよかったのだ。

 だが俺は、出来る限り多く敵を狙撃しようと考え、他の部隊が脱出を終了するまで天守閣に残るという決断を下してしまった。

 自分の行動は愚か以外の何物でもない。

 もういくら敵を殺しても、今回の戦いで勝利を収める可能性など万に一つどころか兆に一つもなかったのだから。


「そうですね……では、行ってきます」


「行ってこい。もし足りなければ服も使うぞ」


「了解」


 寸又峡の第3中隊も、最後は手榴弾で爆死を遂げたという。

 今回の俺たちも、それをなぞることになるだろう。

 痛いのは一瞬だけ。

 当たり所によってはその一瞬すらない。




 そして、名古屋最後の『安全地帯』に、明るい炎が――灯された。



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