第四十六話 銃後の彼ら
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
最近少々スランプ気味です……
2022年8月17日(水)
AM 9:30
愛媛県宇和島市御殿町
宇和島市立中央病院
side 水城佳奈
私の最近の日課は病室の窓の外にある宇和島城の姿を見ることだった。
……ある意味、それしかすることが無い、と言うことも出来るだろう。
最悪の事故から1ヶ月。
しかし、未だギプスを外すことは叶わない。
全治3ヶ月の重傷だったのだ。
大腿骨をへし折られ、肋骨を砕かれ、それでも私は尚生きていた。
肋骨に至ってはあと数センチで肺まで到達していたと聞く。
そうなっていたならば、私はすでに墓の中だっただろう。
つくづく、自分の強運と頑丈さに感謝した。
そう言っても、車椅子生活から脱却することはしばらく無理だろう。
もしも平時ならば剣道の大会に出られないことを悔やんでいただろうが、今日本はそのようなことをやっている暇など存在しない。
私が意識を失っているうちにお兄ちゃんとお姉ちゃんは軍に入ったらしい。
理由は私が怪我をしたためだとお父さんから聞いたが、それなら私に断ってから行って欲しいと思うのは間違いなのだろうか?
みんな、自分勝手だ。
確かに私はあのセルトアレイア? には大怪我をさせられたし、それについては恨んでいる。
でも、私は二人に軍になど入って貰いたくはなかった。
決して軍が嫌いな訳では無い。
身体を張って私達を護ってくれているのだから尊敬こそすれ侮蔑する事などあり得ない。
でも、私のせいで二人が軍に入って、傷付くのは嫌だった。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。
もしかしたら二度と話が出来ないかもしれない。
そんなのは嫌だ。
私を放っておいていつの間にかどこともしれない場所で死んでいる、なんて絶対に嫌だ。
その思いは、お姉ちゃんから来た手紙のせいで最高潮に達していた。
内容は、悪夢だった。
決してお姉ちゃんやお兄ちゃんが死んだ訳では無い。
しかし、その内容は最悪だった。
仲間が死んだ。
内容はとても簡潔で、明快だった。
あまりにも単純。
私達と同じ候補生が死んだのだと。
私達の目の前で逝ったのだと。
それは、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいつ死んでもおかしくない事を示していた。
私は恐れた。
事件の後、まともに話もしていないのに、もし死ねば、もしこの世から消滅したらどうする?
言いたくはないが、私はお兄ちゃんとお姉ちゃんにこの上なく依存している。
その代替品など存在する訳も無い。
中学に入るまで、ずっと、ずっと一緒にいたんだ。
私の一生から睡眠時間などを引けば、殆どがお兄ちゃんやお姉ちゃんとの時間になるだろう。
そこまで依存していた人物が軍に入り、どこともしれない所で死ぬことなど、私は許容することは出来ない。
そんな可能性は、1%でさえなくしておきたいのだ。
……わがままだったとしても、こればかりは譲れない。
私が大好きな人たちを、間接的とはいえ私が殺すなどということを看過することは出来ないのだ。
でも、願いは届かない。
既に賽は投げられたのだ。
私が口を出してどうこうなる問題ではない。
だから、だから私は。
軍に入りたい。
死ぬときは全員一緒で、生きるときも全員一緒でいたい。
……その希望も、叶えることは出来ないだろう。
何故なら、私の怪我はまだ治っていないから。
いくら軍といえど、怪我人にさせる仕事など存在しないのだ。
お兄ちゃんとお姉ちゃんがいる曹候補生学校などという前線勤務前提の学校にも勿論入れない。
……私は、私には、何が出来るんだろう?
「相変わらずみたいね」
突然ドアが開き、来訪者は私にそう声を掛けた。
「何が相変わらずなの、凛」
「結構久しぶりになるんだけれど、よく名前を覚えていたわね」
その来訪者とはここ三年間会っていなかった。
メールを交わすことも無かった。
本来なら、ここに来る人物でもなかった。
水無月 凛。
彼女は台湾系日本人で、小学生時代の私の親友である。
しかし、四年生の秋頃、父親が再婚した事をきっかけに高知の四万十市に転居し、それ以降の足取りは全く掴めていなかった。
「凛の顔は特徴的だからね。私にかかれば多少大人びていようと見分けられるよ」
「……それはどう反応すればいいのか分からないわね。特徴的だ、っていうのは周りから浮いている、とも取れるし……」
「凛は綺麗だから、すぐ分かるよ」
昔からの殺し文句だ。
凛は一度考え込み始めるとなかなか元の世界に戻ってこない。
容姿に関するものではそれが特に顕著だった。
その場合、とりあえず綺麗だと言っておけば場は収まるのだ。
本当は男の人に言われた方が嬉しいのだろうが、生憎私は性転換する能力など持っていないし、場を収めるためのものだからそれほど几帳面になる必要もなかった。
「……そう? かなり成長しちゃったけれど、私、綺麗かな?」
「うん。きっと将来は良いお嫁さんになれるよ」
「そ、そう? ありがとう。……それで、調子はどう?」
どうやら思案モードが解除されたらしく、凛は私に尋ねてきた。
「……最悪だよ」
「……やっぱり。佳奈は昔からお兄ちゃんが大好きだったものね」
その言葉から考えるに、凛は現在私が置かれている状況を把握してるようだ。
「私も一応話は聞いているわよ。和樹さんと梨夏さんが死にかけた……っていうと語弊があるかもしれないけれど、同僚が大量に死んだって事はね」
何故知っているのかはあえて問わない。
凛は聞いても教えてくれないだろうし、知っている事実は変わらないのだから知った理由を探っても意味が無いからだ。
「で、そんな佳奈に朗報よ。少年曹候補生、少年兵候補生の在学中の実戦投入は今回を以て最後にする、だって。とりあえず佳奈のギプスが取れるまで和樹さんたちが実戦に出る事は無いわ」
それは確かに嬉しい知らせではある。
しかし、近いうちに実戦に投入されることは間違い無いという意味でもある。
このような戦況ではどうしようも無いのかもしれないが、私の怪我が完治するまでお兄ちゃんたちが生きているという保証は全く無いのだ。
……軍人なのだから仕方ない。
もう既に私とお兄ちゃんたちとの間では大きな差があるのだ。
私は自分と、自分の周りの安全さえ考えていればいいけれど、お兄ちゃんたちは国民全体の命を守ることを考えないといけないのだから。
「……うん。でも、凛はその事を言いにここまで来た訳ではないんでしょ?」
いくら私達が親友だと言っても四年も前の話なのだ。
よほどの用事が無い限り、突然押しかけて来る事はありえない。
街中で会ったときや転校してくるとか、そういった事は例外にあたるだろうが。
「まあね。佳奈は、こんなのには興味無い?」
そう言って凛は肩に提げていたトートバッグを開き、一つのファイルを私に渡す。
受け取ったその表紙には『国際連合統合陸軍若年者志願兵制度案内』と書かれていた……
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