第三十四話 オペレーション・スレッジハンマー Ⅱ
2022年8月6日(土)
07:00
愛知県犬山市
国道41号線・犬山中央病院付近
日本国防陸軍西部方面軍第415独立混成旅団・第16歩兵連隊・第1中隊
side 第4小隊長・佐東逸樹陸軍少尉
『前線司令部より第16歩兵連隊第1中隊。貴隊の5時方向に標準種及び小型高速種の混成部隊。数はおよそ300。警戒せよ』
くそッ!
なんてこった。
前には重装甲種の大軍、後ろには標準種と小型高速種、上からは訳の分からんミサイル。
一体なんだっていうんだ!
「第16連隊所属小隊より前線司令部。航空支援を要請する! このままでは後退すら出来ない!」
『前線司令部より16連隊。航空支援は不可能だ。統合陸軍第13戦車連隊が貴隊付近に展開中のためそちらに派遣する。少し待て』
「了解!」
こんな話、聞いていない。
セルトアレイアは気圧の低いところを好むのではなかったのか?
なら、なら何故、奴らが地面から出てくるんだよッ!?
伏兵だと?
大した知能も持っていないクセに、そんな戦術を使ってんじゃねえッ!
東から飛んできたコウモリ共に航空部隊は無力化されるし、上からは宇和島と同じ『ミサイル』が降ってくるし、一体なんだってんだよ!
くそッ!
「あと少しで戦車部隊が援軍に来る! それまで持ちこたえるんだ!」
「「「了解ッ!」」」
隊員の返答を聞くと同時に俺は腕に抱え込んでいたAK-47を重装甲種の足に照準し、フルオートで射撃した。
結局効かないことに変わりはないものの、一時的に足を止めることは可能だ。
そして、俺の後ろに待機していた軽装甲機動車からも重装甲種にM2重機関銃の射撃が加えられる。
高機動車からも84mm無反動砲が発射され、重装甲種の堅固な外殻を撃ち貫いた。
「カメ野郎のくせに、生意気なんだよこんちくしょうッ!」
俺は訳の分からないことを叫びながらAKの銃身に据え付けられた擲弾発射機の引き金を引いた。
シュポッ、という間抜けな音と共に黒い物体が重装甲種目がけて飛び、目標に直撃、装甲表面を削り取った。
さすがに初速が足りなかったか。
しかし、自慢の装甲はかなり損傷しているはずだ。
俺はAKを構え直し、奴の損傷した装甲へと弾を撃ち込んだ。
奴は数度足を痙攣させ、地面へと崩れ落ちた。
これで国道は塞がれ、迂回するまでの間ではあるが重装甲種部隊の足止めが出来る。
それまでに戦車連隊が到着するのを祈るだけだ。
「よし、5時方向だ! 標準、高速の混成部隊が来るぞ。警戒しろ!」
数十秒後、奴らは病院の陰から現れた。
すさまじい速度で突進してくる高速種に対してAKの掃射を浴びせる。
M2重機関銃も火を噴き、次々と高速種は吹き飛ばされていく。
しかし、数が多い。
殺しても殺しても次々に湧いてくる。
俺は破片手榴弾を取り出し、奴らに向けて投げた。
「Fire in the hole!(手榴弾に気を付けろ)」
すぐにAKを構え、近づいてくる高速種を撃ち倒す。
数秒後、手榴弾が破裂し、数体の高速種を戦闘不能に追い込んだ。
標準種も現れ、俺たちはそれを延々と倒し続ける。
その作業の最中、1人の隊員が絶望的な声で俺に言った。
「隊長……3時方向に……重装甲種が……!」
「なんだと!?」
慌てて右を向くと、そこには巨大ガメの大群が押し寄せてきていた。
完全に包囲された。
ここまで……なのだろうか?
逃げられる筈が無い。車で高速種と標準種をくぐり抜けて脱出するにしても、途中で引き倒されるのがオチだ。
どうすれば……
『そこの部隊! 速やかに射線上から退避せよ! 当たっちまうぞッ!』
来たッ!
戦車連隊だ!
俺はあまりにもタイミングの良すぎる登場に歓喜しながら、隊員に6時方向への退避を命じた。
軽装甲機動車も少し後退し、射撃支援を待つ。
そして、大音響と共に重装甲種が『吹っ飛ばされた』。
その巻き添えを食らって標準種や高速種も押しつぶされる。
「今だッ! 全力射撃! 標準と高速をあらかた排除したら乗車しろ!」
俺はAKの弾倉を交換しながら叫ぶ。
隊員達は自らの持っている火力を総動員して高速種と標準種を血祭りに上げてゆく。
俺たちがそんなことをやっている間に戦車部隊によって重装甲種はその外殻をえぐり取られ、悶え苦しんでその活動を停止する。
「総員乗車!」
俺は隊員達に絶叫し、軽装甲機動車の助手席へと腰を下ろした。
直後に車輌は発進、蛇行しながら奴らの攻撃を避け、戦車部隊の場所まで辿り着いた。
バックミラーで後ろを窺うと、どうやら全車脱出に成功したようだ。
どうやら、一応は助かったようだった。
とりあえず、補給所に戻るべきだろう。
中隊本部への連絡も行わなければ。
俺は命拾いしたことに安堵しながらも、作戦の達成に対して暗澹たる思いを馳せていたのだった……
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