第三十二話 日本の未来は何処にあるか
2022年8月5日(金)
19:30
愛知県名古屋市中村区・JR名古屋駅
国連統合陸軍・日本国防陸軍合同前線司令本部・作戦会議室
side 日本国防陸軍西部方面軍司令・鷲崎淳治陸軍中将
「では、作戦会議を始めましょうか」
エドワーズ中将の言葉に我々は頷く。
「まず、現在の戦況です」
エドワーズ中将は参謀に手で指示を出し、参謀がリモコンを操作すると、私から見て右手側にあるスクリーンに現在の敵勢力図が映し出された。
既に伊豆半島は完全に制圧され、ついに東京や神奈川までその勢力を拡大していることが見て取れる。
名古屋市も半包囲された状況で、決して安全であるとは言えない。
「たった1週間の間に彼らは我々を追い詰めにかかって来たようです。現在東京にいるセルトアレイアは山林によって侵攻を阻害されているものの、埼玉や神奈川にいるものは既に都市圏に近づいてきており、危険以外の何ものでもありません。また、愛知のセルトアレイアも西部方面軍による防衛線が機能している故に侵攻が遅れていますが、もしも破られれば1日以内に名古屋が壊滅することは疑いようがありません。『オペレーション・スレッジハンマー』は西部方面の危機的状況を打開するために行われる大規模反攻作戦です。作戦は明日午前5時に決行されます。……とりあえず、作戦内容の確認を行いましょう。まず05:00、統合空軍極東方面第1航空軍第207戦略航空団のB-2及びF-15SEによる燃料気化爆弾の投下が行われ、直後に統合陸軍極東方面第1軍及び2軍の機甲師団、歩兵師団が進攻を開始します」
その言葉と同時にスクリーンの映像が切り替わる。
青色の矢印は恐らく陸軍兵力の暫定侵攻ルートだろう。
概略図だからかもしれないが、その構成は非常にシンプルだった。
「そして、最低でも瑞浪市、美濃市付近まで戦線を押し上げます。歩兵による進攻が開始し次第、統合海軍太平洋第1機動艦隊や統合空軍及び国防空軍の航空部隊による近接航空支援が待機状態に入り、要請に応じて支援を実施します。また、敵の反撃を阻止するため数回に分けて山間部への爆撃も行う予定です」
「欧州方面軍や北米方面軍からの援軍はどうするつもりですか?」
私はエドワーズ中将に尋ねる。
たしか少し前にそんな話を聞いた筈だ。
「欧州方面及び北米方面からの援軍については東部防衛線の援護を行って貰うつもりです。この地図をごらんになって下さい」
エドワーズ中将が合図を行い、またしてもスクリーンの映像が切り替わった。
次の画像は先程までの勢力図と進攻予定概略の他に福井や新潟北部に黄色い線が、埼玉、東京、神奈川にかけて青い線が引かれていた。
「黄色の線は敵の突発的進攻を食い止めるための警戒・防衛線で、青色の線は敵による侵攻を完全に停止させ、あるいは逆襲するための絶対防衛線です。前回の作戦会議でも話題に上がりましたが、新潟南部及び富山は補給線寸断の可能性が非常に高いため放棄地域となっています。石川は戦略的価値が既に消失しているため防衛地域には含まれていません。但し、放棄地域と定められている訳でもありません。また、今回の作戦の成否によっては富山が防衛地域に復帰する可能性もあります。ですから、北米方面軍及び欧州方面軍については戦略的重要度が最も高い『東部方面防衛線』への配備となる予定です」
つまり、『スレッジハンマー』で欧州方面軍や北米方面軍の援護は期待できない、ということか。
「また、この作戦と同時に敵の本拠地、長野県駒ヶ根市に存在する巣への偵察を実施します」
巣とは少し前に地球へ落着したセルトアレイアの母艦を指す。
この名前が付けられた理由は、落着とほぼ同時にセルトアレイアによって母艦が謎の構造物で覆われ、その姿がまるで鳥の巣を逆さにしたような形だったかららしい。
しかし、ネストへの偵察など無理に決まっている。
周辺には数十万体以上のセルトアレイアが常に偵察・警戒しているし、帰還など確実に不可能だ。
「待って下さい。偵察には一体何を使うつもりですか?」
国防軍側の参謀がエドワーズ中将に対して疑問を投げかけた。
「予定では『SWORDS』系統の遠隔操作型軍事用ロボットです。火器を取り外し赤外線や放射線探査装置を増設して偵察仕様に改良したものをパラシュートで投下します。統合空軍極東方面第2航空軍第56戦術輸送隊が任務に当たる予定です」
『SWORDS』とは確かキャタピラ付きの小型偵察ロボットだった筈だ。
無人ということは人的被害は出ないし、もし失敗したとしても問題は無い、と言う事だろう。
「投下機数は12機で、駒ヶ根から伊那にかけて5km圏内を目安にする予定です。さて、他に質問がある方はいますか?」
……誰も手を挙げない。
まあ、この会議は作戦の確認のみで、細かい事は参謀達がまた後で議論するだろうし、問題はないという判断なのだろう。
「では、作戦会議を終了します。お疲れ様でした」
エドワーズ中将は一礼して会議室を立ち去った。
明日の作戦の成否如何で日本の命運は決まってしまうかもしれない。
油断だけはしてはならない。
私も参謀達に礼を行い、会議室を去るのだった。
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