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第三十一話 地獄の始まり

2022年7月29日(金)

13:00(ヒトサンマルマル)

大阪府和泉市伯太町

日本国防軍少年曹候補生学校・グラウンド

side 朝日美春〈一等陸士〉



「とりあえず、グラウンド25周しようか」


 OD(オリーブドラブ)色の作業服を着てグラウンドに集まった私たちに対して興田教官が最初に言った言葉はあまりにも簡潔かつ明解で、『10km走れ』と言う事だった。

 勿論私は10kmなどという長距離を走った事は無い。

 精々小学校のマラソン大会で2km走った程度だ。

 しかも、今は真夏で、その中で最も暑い時間帯である。少し前に靴箱の近くで見た温度計では確か36度を指していたはずだ。

 その上、配布されたODの作業服は上こそ迷彩の半袖Tシャツでいいと言われたものの下は当たり前のように長ズボンだった。


 すなわち、教官は私たちに本気で地獄を見せるつもりなのだ。

 いや、初日ということを考えればこれでもまだ軽めなのかもしれない。


 確かに相当に厳しい訓練であろうことは予想していたし、覚悟もしていた。

 だが……さすがに初日からここまでハードだと、これから先は一体どうなるのか想像もつかない。


「今日の所は別に自分のペースで走ってくれればいい。制限時間は……1時間30分以内ってところだな。それまでに走りきれなかった者は、消灯後に教官室に来い」


 1時間30分以内と言うことは時速6.5km以上で走ればいいということだろうか。

 夜に教官室、というのが何を意味するのかは分からないが、少なくともいいことではないのは間違い無かった。


「では……」


 教官がストップウォッチを手に握りながら私たちに準備するように促す。

 私たちはトラックに描かれたスタートラインに集まり、教官の合図を待つ。


「3、2、1……スタート!」


 その瞬間、候補生たちは一斉に駆けだした。

 私も無理はせず、かといって遅すぎないギリギリのラインを考えながら足を動かす。


 たった数周のうちに『順位争い』は終盤にさしかかっていた。

 入校生代表だった秋嶋さん、元陸上部の岩瀬さんが他を圧倒している。

 二人から数十メートル離れた所で順位争いに打って出た人たちが走っているが、大半は最初から飛ばしすぎたために明らかに息切れしているのが見て取れる。

 何人かは元運動部らしく、二人が疲れるのを少し後ろで待つ戦術に出たようだ。


 ちなみに私はもう既に2回ほど追い抜かれていて、周回遅れではあるがそもそも順位を競っている訳でも無いわけだし、とりあえず目標の達成を第一に考える事にした。

 しかし、猛暑によって流れ出る汗だけはごまかす事など出来ず、私の体力をゆっくりと、だが着実に奪ってゆく。

 Tシャツやズボンはびしょ濡れで、肌に纏わり付いて気持ち悪いことこの上ない。


 十数周目を越えたあたりでついに脱落者が出始めた。

 自分から脱落を申し出た訳では無く、教官に無理矢理医務室に連れて行かれた人が大半だったようだが、それはしっかり水分補給をしておかなければ熱中症確実だということを指していた。

 飲み過ぎはいけないが、全く飲まない事も危険だろう。

 そう考えた私はトラックの外に設置されている補給所に向かい、用意された紙コップ入りの塩水を飲み干した。



 私がゴールしたとき、教官に見せられたストップウォッチは1時間13分を指していた。


 全員が揃った後、10分程度の休憩をおいて教官が言った。


「では、演習場の見学に行こうか」


 その言葉とほぼ同時に、別の教育部の人たちがグラウンドに入ってくるのが見えた。

 ここにいる人数と今来た人数を考えると、全生徒を3つのグループに分けているのだろう。



 私たちは教官の合図に従って立ち上がり、駐屯地の門を目指すのだった……

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