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第二十七話 信念と死の天秤

2022年7月28日(木)

PM 7:05

大阪府和泉市伯太町

日本国防軍少年曹候補生学校・体育館

side 岩瀬梨夏



 採用試験の時に身長や体重、胸囲などは既に測っていたから私たちはあらかじめ用意され、平べったい段ボール箱に梱包された制服類と、それとは別の段ボールに詰められた装備品を受け取るだけだった。

 内容物は制服一着に作業服二着、戦闘服二着と階級章、ベルト、背嚢(はいのう)、半長靴、水筒などで、早い話が銃などの武装以外の全てだった。

 それも、全てが完全な新品であり、政府がこれに力を入れていることが見て取れる。……単にサイズが合わなかっただけなのかもしれないが。

 階級は一等陸士から始まり2ヶ月後に陸士長に昇級するらしい。

 また、一応入隊時は全員が陸軍所属扱いになっているが本人の希望によっては海空への転属も可能だとか。

 緑地に金色の二本線と一つの桜があしらわれた一等陸士の階級章を同時に支給された裁縫用具で指示された場所に縫い止める。

 階級章を見ていると自分は軍人なのだという感慨が湧いてくるような気がする。


 しかし、支給された物全てに名前を書いたり縫い付けたりするのは思いの外体力を消耗する行為だった。

 そもそも支給品が異常に多いのだ。



 数百個にも及ぶ大量の支給品全てに名前を書き終えた頃には9時も半ばを迎えようとしていた。

 これからは教官から今後についての説明があるらしい。


 中年の男性が壇上に登り、それを見た入隊者達は一斉に口を閉じた。

 何人かは立ち上がろうとしたが、座っていてもよいとの指示が出たため全員が座る。

 男性が話し始めた。


「俺はこれからお前達の主任教官を務めることになる興田克巳(おきたかつみ)だ。今から今後の生活についての簡単な説明を行う。……その前に一つ注意事項がある。まず、この学校に入ることが出来た、と言うことは皆それぞれ信念を持っているからだろう。説明会ではかなりぼかして言ってきたはずだが、この課程を修了し、前線配属となった場合、恐らく2ヶ月後の生存率は30%を切るだろう。後方支援要員は基本的に徴兵で賄う方針となったため、お前達はほぼ全員が前線で勤務することになると思われる。海軍や空軍ならばともかく、現在陸軍は人員の消耗が非常に激しい。俺が言いたいことは、お前達の過半数は残り半年の命だということだ。……それにな、ニュースや新聞では書かれないが、人々は奴らにどのように殺されると思う? 体を噛み砕かれ、喰われるんだ。この戦争が始まってから、死者の遺体が殆ど回収されていないのはそのせいなんだ。『無い』んだよ。身体がな。回収のしようがないんだ。……最後の忠告だ。人として生き、人として死にたいならばすぐに帰れ。俺たちは止めない。お前達はまだまだ未来がある子供だ。あんなところで、無惨に死ぬべき命では無い。ここで帰るのは腰抜けではなく、理性的な判断だ。帰りたい人間は……いや、それだとかえってやりにくいか。それでも、軍に入りたいと願う者は、その場で起立してくれ」


 ……これは、もしかすると最後の試験なのだろうか?

 普通に考えれば教官などという人間がせっかく確保した人材に対して『帰れ』などと言うはずがない。

 どちらかというと、殺される覚悟がある人間を選抜している、と言うのが正しい気がする。


 ……まあ、教官の考えがどうであろうと、私の答えはとっくに決まっている。


 私とほぼ同時に、体育館内にいた志願者……いや、候補生たちが一斉に立ち上がった。


 そのようなこと、予想できない筈が無い。

 ネット上には民間人が撮影した大量の画像データが流出しているし、自衛隊員や軍人の遺族もかなり多いだろう。

 事実、美春は自衛隊員の遺族だ。

 夕食時の話を聞く限り槇田君、櫻井君もそうらしい。

 遺族ならばどういう状況で殺されたかなどほぼ確実に把握しているだろう。


 結果的に、立ち上がらなかった候補生はゼロ。


 その状況に対して教官は一言。


「馬鹿だらけだな……」


 教官は一度ため息を吐いた後、言った。


「いいだろう。お前達の信念はよく理解した。俺たちもお前らに教えられる限りのことを教えよう。……だが、これでお前達は自らの意志でここに来たと言う事を完全に証明した訳だ。これから『やっぱり辞める』なんて事は言わせない。もしも脱走なんてしようものなら、地の果てまで追いかけて首根っこ引っ掴んで連れ戻すからな。分かったか?」


 声の高低、強弱こそばらばらだったが、全員が「はい」と答えた。


「では、まず基本的な事から説明しよう……」



 それからしばらく、説明は続いた。

 軍の階級は一等陸曹以下は旧自衛隊と階級呼称は同一で、曹長からはその前に陸軍、海軍などの所属軍名を付ける。

 つまり、「一等陸尉」は「陸軍大尉」となり、「空曹長」は「空軍曹長」になる訳だ。

 ただ、海軍の場合は旧大日本帝國海軍の末裔を自称する海上自衛隊だったために「一等海曹」が「一等兵曹」となり、階級呼称が陸空軍と異なるらしい。


 基本的に自らよりも上位の階級にある人物に対しては絶対服従ではあるが、意見を具申する程度なら問題ないとの事だ(教育期間中は絶対服従だと脅されたが)。


 そして、教育期間中の行動単位について。

 同室者四名を「一個班」と称し、これを最小の行動単位とすること。

 その上に男女混合二個班で編成される「分隊」が置かれ、その更に上に五個分隊40名で構成される「統合区隊」が設置される。

 分隊は部屋番号と連動しており、女子居住棟Ⅰ号棟301号室ならば男子居住棟Ⅰ号棟301号室と共に分隊を構成することになる。

 これは男女の採用人数が同一だった為に出来た事だという。


 元々は一個分隊で部屋を共用にするつもりだったらしいが、さすがに色々な意味で危険だと判断された為に撤回されたらしい(当然だ)。

 しかし、分隊内の信頼関係がしっかりと醸成できていると判断され、現在兵庫の篠山に建造中の曹候補生学校(あくまで信太山は篠山の学校が完成するまでの臨時学校扱いだそうだ)が完成すれば分隊ごとに同一の部屋となるらしい。

 個人的にはいくら信頼関係が構築できていても男と同じ部屋というのは嫌なのだが、政府の方針に異議を唱えられる立場には無いし、政府や軍としてみれば男女や年齢の区別を行うよりも戦力になるかどうかが重要なのだろう。


 また、居住棟内の最小行動単位は班だが、しばらくは分隊として居住棟内で活動することは出来ない事を考慮して従来の教育隊などに使用されていた「区隊」というものも(一時的なものではあるが)あるらしい。


 明日の夜、2100(フタヒトマルマル)までに班長及び分隊長を決めて教官に提出するようにと言われた後、今後のおおまかな訓練スケジュールの説明があり、説明会はお開きとなった。



 支給された物品の入った段ボール箱2つを持って居住棟に帰り、整理を終えた時には就寝時刻も間近に迫っていた。

 見回りに来た教官の指示に従いながらベッドメイキングを行い、私たちは眠りにつくのだった……

誤字脱字や文法的におかしな表現の指摘、評価感想お待ちしております。

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