第二十四話 反攻作戦
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2022年7月28日(木)
PM 2:00
愛知県名古屋市中村区・JR名古屋駅
国連統合陸軍・日本国防陸軍合同前線司令本部
side 日本国防陸軍西部方面軍司令・鷲崎淳治陸軍中将
「まだ統合軍の戦力が潤沢なうちに前線を山まで押し上げたい」
そう提案したのは元アメリカ陸軍第1軍団司令(現国連統合陸軍極東方面第1軍司令)のハリー・エドワーズ中将だった。
現在の戦況は統合軍が参戦したといえ、決して優勢と言える状態ではない。
最大の問題は、圧倒的な数を誇る敵軍に対して我々が平地での戦いを挑まれているという現状だった。
砲兵の援護射撃などによって愛知県東部の建物はあらかた破壊され、残ったのは何もない平野だけ。
敵が大きく展開出来る場所が出来てしまい、大量の敵軍がなだれ込んできたのである。
こちらは敵の圧倒的物量の前に次々と包囲殲滅され、毎日の死者は平均で600名前後、2~3個中隊分の兵員が連日消し飛んでいるのだ。
現在西部方面防衛線には国防軍・国連統合軍合わせて8万名の兵員が配備されているが、このままでは3ヶ月以内に全滅してしまうだろう。
そのため、前線を押し上げ、せめて出来る限り閉所での戦闘を行えるようにしたいというのがエドワーズ中将の考えだった。
山間部での戦闘は大型の陸戦兵器の使用に支障をきたすが、その代わり敵軍の重装甲種の運用を妨げることが出来る。
また、敵軍には航空兵器が無いが、こちらには戦略爆撃機から観測機までありとあらゆる種類の航空兵器が使用可能だ。
戦車の運用が不可能であっても、戦闘ヘリや近接航空支援機などを大量に投入すれば十分に戦える、ということだろう。
しかし、問題はどうやってその前線を押し上げるかである。
確かに強行突破による前線押し上げも可能ではあるが、こちらも相当の出血を強いられることは間違い無い。
それではせっかく山間部に戦場を移しても戦闘が困難になってしまう。
中将はこう提案した。
「燃料気化爆弾を投入し、平野部の敵を可能な限り減らしてから戦車、歩兵戦闘車による偵察を行い、その後歩兵部隊を送り込む」
燃料気化爆弾とは『貧者の核兵器』と呼ばれる事もある爆弾であり、大雑把に説明すれば空中で燃料を散布し、蒸発させた後に着火、爆発させ破片などではなく、熱線と衝撃波で対象を破壊する兵器である。
毒性の強い燃料を使用しているため環境には悪影響を与えるのだが、そのようなことを言っている場合では無い。
しかし、燃料気化爆弾にも問題点は存在する。
核兵器に耐えたセルトアレイアに似たような熱線攻撃兵器であるこれを使って果たして効果はあるのだろうか、ということだ。
国防軍側の参謀がそのことについて中将を問い詰め、彼はこう答えた。
「国連合同異星生物研究機関は核攻撃が無効化されたことについて一つの結論を出した。彼らにとって、放射線は栄養素なのだ。実際、核攻撃で彼らは確かに死んだ。しかし、爆発と同時に撒き散らされた放射能によって細胞を再生し、生き返ったのだ」
その情報は私たちに衝撃を与えた。
セルトアレイアは核攻撃に耐えたのではなく、核攻撃後に細胞を再生したのだと言う。
それは、裏を返せば高濃度放射線が存在する環境ではセルトアレイアが死ぬことはない、ということだ。
つまり、放射線の大部分が半減期を迎えるまでの数年間は中部地方を奪還することは不可能である、という意味でもある。
中将はだからこそ前線を押し上げ、消耗を最小限に抑えようとしているのだろう。中将は間違い無く、日本と、世界のためを思ってその作戦を提案したのだろう。
「……まずは政府に連絡を行います。その後、了解があれば作戦の準備に取りかかりましょう」
「分かった。一週間以内にヨーロッパからも増援が到着する。それと時期を連動させることにしよう。以後よりこの作戦計画をオペレーション・スレッジハンマーと呼称する。彼らがここに来てから初めての大規模反攻作戦となるだろう。ミスター・ワシザキ。日本政府の了解は出来る限り早く得て頂きたい。作戦の詳細を決めることが出来ないのでね」
「分かっています。参謀本部経由ですぐに提案を行います」
スレッジハンマー(大槌)作戦、か。
確か第二次大戦の欧州戦線や朝鮮戦争で使用された作戦名だったはずだ。
本当に槌は奴らに食い込むのだろうか?
……どちらにせよこのままではジリ貧に陥ることは疑いようが無い。
私は司令部内にいる参謀や司令たちに敬礼をした後、国防軍の官邸直通無線が置かれている場所へと向かうのだった……
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