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幕間 蒼き旗は夕日にはためき

2022年7月21日(木)

PM 5:00

新潟県妙高市田町

県立新井高等学校2階教室

日本国防陸軍第112臨時師団第2歩兵連隊第2中隊

side 第4小隊長・槇島栄二(まきしまえいじ)中尉



 本来なら今日は一日休暇だったのだ。

 しかし、あの化け物が核を食らっても尚生きているだとか、白川郷の臨時防衛線が破られてこっちに向かってくるだとかで、久々の休日を迎えることもなく、待機命令が下された。


挿絵(By みてみん)


 そして少し前、ここから2.5km程度離れた駅から敵接近の報が入った。


 『敵戦力は2万以上、更なる後続の情報もあり』


 この連絡は、既に俺たちが勝てる見込みはゼロであるということの確認でしかなかった。


 政府は国連軍の派遣に対する最終調整に入っているなどという噂もあるにはあるが、たかが十数時間で到着するとは思えないし、本当に最終調整まで進んでいるのかも疑問だ。

 つまり、その噂が本当だったとしてもしばらくの間は俺たちが独力で守り続けなければならないということだ。


 今回、俺たちが達成すべき目標はただ一つ。

 時間稼ぎである。

 付近に展開している陸軍部隊の4割が撤退を完了するまで妙高市中心部を守り抜けばいい。

 第2連隊はいわゆる、殿(しんがり)というやつだ。

 上越市に展開している砲兵部隊による援護砲撃をうまく利用しながら数十分の間持ちこたえる。

 それだけだ。



 しばらくして、中隊本部から連絡が入る。


『中隊本部より全小隊。接敵までおよそ3分。接敵後は自由戦闘を許可する。まもなく砲兵の援護射撃が開始されるはずだ。破片などには十分気を付けるよう。以上、通信終了』


「第4了解。接敵後は自由戦闘を行う」


 俺は小隊員達に号令を掛けた。


「射撃準備を行え。第3分隊は裏門で待機、退路の安全を確保しろ。危険水準に達したと判断したらこちらに連絡するように」


「「「了解!」」」



 敵の姿が確認されると同時に近くのビル屋上に待機していた第6小隊(対戦車小隊)が対戦車砲を射撃した。

 双眼鏡で覗いてみると、どうやら敵の前方には重装甲種が居たらしく、それを攻撃したらしかった。


 今回俺たちが使う銃は従来の89式小銃ではなく、AK-47という旧ソ連製の7.62mm口径の自動小銃だ。

 アメリカ軍が供給していた5.56mm劣化ウラン弾の在庫が少なくなってきたため、政府がロシアから大量に購入していたこの銃が支給されたのだ。

 一応近代化処理が施された銃であるとはいえ、基礎設計が1947年であるため、不満の声もかなり大きかった。

 しかし、試射を行ってみればこれが相当に優れた設計であることは分かった。

 反動は5.56mmに比べて強いものの威力は十分、ロシア純正のためか、命中精度も申し分ない。

 アイアンサイトが少し見にくいのが最大の欠点だろうが、ダットサイトを取り付ければ全く問題は無かった。



 銃の有効射程距離まで敵が接近したところで俺は命令した。


「射撃を許可する。味方の撤退までは何としても持ちこたえるぞ、分かったな!」


「「「了解!」」」


 一斉に小銃が火を噴いた。

 敵は次々と面白いように倒れていく。

 しかし、奴らは味方の屍を踏み越えて突撃してくる。


 そして、そのうちの一体が高校のフェンスを破ろうとした瞬間。

 フェンスの200m~400m程度後方から火柱が上がった。

 砲兵の援護砲撃だ。

 この独特の高音から察するに、MLRS(多連装ロケット砲)によるものだろう。

 10年ほど前まではクラスター系の子弾頭を多数搭載したタイプのロケットが用いられていたが、現在はGPS誘導タイプの精密誘導型が用いられている。

 実質的には超短距離弾道ミサイルと言える。散布界が狭いため、味方がすぐ近くに居ても使用できたのかもしれない。

 思索を巡らせながら俺は再度射撃を開始する。

 2万もの敵を一網打尽に出来るはずがないのだ。




 まずい。

 非常にまずいことになった。

 西方で防戦していた第1中隊が被害甚大のために撤退を開始したのだ。

 俺たちは半包囲されたも同然。

 このままでは包囲が完成し、脱出もままならなくなるだろう。

 しかし、今撤退するわけにはいかない。

 すぐ北では未だに撤退が完了していないのである。


「あともう少しだ。もう少しで撤退が完了する。だから、なんとか持ちこたえてくれ!」


 隊員達は頷き、弾幕を更に濃密にしていく。

 だが、そう長くはないだろう。

 とっくにフェンスは破られているし、小型高速種があちこちに出没しているのだから。



 予想は的中した。

 退路、ひいては脱出用の車輌を守っていた第3分隊が通信を途絶したのである。

 それは俺たちにとって死刑宣告と同義であった。

 小型高速種が跳梁跋扈しているこの街を生身で歩き回ることは自殺行為以外の何ものでもない。

 しかし、かといってここに居ても死ぬだけ、か。

 どうするべきだ?

 中隊本部は無線の混線で通信が不可能だし……


「隊長、昇降口に敵が進入、このままでは全滅します!」


 仕方ないか。


「脱出するぞ! 高速種に注意しつつ裏門から出るんだ!」


「「「了解」」」


 一斉に俺たちは走り出し、階段を駆け下り、職員通用口を出た。


 そして裏門をくぐり抜け、破壊された車輌付近にいた高速種を排除しながら道を進み……



 終わった。

 いつの間にか俺たちは三叉路に出ていて、そこで、包囲された。

 詰み、チェックメイト。

 そんな言葉が頭をよぎる。

 重装甲種を含むため現状の俺たちの装備で突破出来うる可能性は……ゼロ。


 どうする?

 自決するか? それとも、突撃して玉砕するか?

 絶望しながら俺は考える。

 どうすればいい?

 どれが最良の方法なん……




 その刹那、コンクリートブロックが砕け散った。

 何が起こった?

 俺たちは発砲していない。

 する気力さえも無くしていた。

 なのに、何故?


 木造家屋と共に敵がなぎ払われていく。

 機関銃の掃射であることは明らかだった。

 それも、空からの。

 しかし、現在陸軍のヘリは殆どが愛知と伊豆に出払っていて、ここには輸送ヘリが数機あるのみだったはず。

 俺は、空を見上げる。



 そこにいたのは、ロシア軍の戦闘ヘリ、Mi-28『ハヴォック』だった。


 ロシア軍が何故こんなところに?


 その疑問を抱くと同時に無線連絡が入った。

 無機質な、自動音声のようにも聞こえる声が無線機から流れる。


『こちらはロシア陸軍極東軍管区……失礼、国連統合陸軍極東方面第2軍第3師団だ。君たちを援護しに来た。国連はこの生物……『セルトアレイア』を『人類の生存を脅かす最大級の危険要因』と認定した。国連統合軍はその危険を可及的速やかに排除するために結成されたものだ。距離の関係で我々が最も早く到着することとなったが、すぐにアメリカやヨーロッパからも援軍が駆けつけるだろう』


 恐らくこの無線はこの付近にいる全ての部隊に向けられたものなのだろう。

 しかし、こちらの声も聞こえるはずだ。俺はその声の主に尋ねた。


「セルトアレイアとは?」


 これまで国連でも国内でも『敵対的地球外生命体』という語が使われていた筈だ。

 何故変わったのかを疑問に思ったのである。

 翻訳を行っていたのか、しばらくしてから返答があった。


『セルトアレイアは奴らが現在地球に向かって接近中の小惑星……母船との交信の際に最も多く使用される単語だ。恐らくは地域などを表す言葉なのだろうが、正確なところはよく分かっていない。しかし、『敵対的地球外生命』では単語として長すぎるし、かといって頭文字を取って略語化した場合言葉の違いによって略語が変わる事態も考えられる。それを避けるため、全世界共通で『セルトアレイア』という語をこの生物に充てることにしたのだ。それよりも、君たちにはやることがあると私は考えるが』


 確かにそうだった。

 まだ敵は大量に残っている。

 師団規模の援軍ということは反撃も可能な筈。

 しばらくは付近の敵を掃討しつつ、中隊本部の指示を待つべきか。

 俺はそう考えながら小隊に命令を下した。


「全隊員射撃開始、敵部隊をここから追い出すぞ!」


「「「了解!」」」




 妙高市中心部から敵を追い出した時、俺が夕日に染まる街に見たものは、青を基調とした国連旗が悠然とはためく姿だった……




第一次妙高市防衛戦

交戦部隊 日本国防陸軍第112臨時師団・国連統合陸軍極東方面第2軍第3師団 VS セルトアレイア


双方の死傷者

国防陸軍・国連統合軍 14576名中684名 被害軽微

セルトアレイア 約25000体中1700体以上 被害中規模


国防陸軍・国連統合軍の勝利

久しぶりの更新です。

実は道後温泉に行ってたりしました。

では、誤字脱字や文法的におかしな表現の指摘、評価感想お待ちしております。

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