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第十九話 悲劇、再び

2022年7月21日(木)

AM 4:30

静岡県榛原郡川根本町

寸又峡近辺『ロスアラモス』落着地点

日本国防陸軍中央即応旅団中央即応連隊第3中隊

side 第2小隊長・赤坂慎也国防陸軍中尉



 俺たちがヘリコプターから降りた場所にあったものはただ延々と荒野が続く世界だった。

 美しかった寸又峡の水は干上がり、木々は焼け落ち、建物は吹き飛ばされていた。

 ここは、あの隕石が落ちた場所。この戦争の元凶が眠る土地。

 核による攻撃を受けて尚、それはそこに鎮座していた。

 緑色の淡い輝きを放つ巨大な岩。

 ここは爆心地だったはずだ。

 ガイガーカウンターは完全に目盛りを振り切り、危険地域を知らせるアラームが鳴り続いている。

 一応放射線防護服を着用しているとは言え、どれほどの効果があるかは分からない。

 一刻も早く任務を遂行してここから逃げたいのが正直なところだ。

 いくら体力精神強靱な中央即応旅団と言えども、放射線に対する防御力は人間のそれを上回ることは出来ない。


 そんなことを考えていると隊員の一人が話しかけてきた。


「隊長、生体反応は今のところ存在しません。早めに任務を終了させましょう」


 今回の任務はこの忌々しい隕石を完全に破壊することだ。

 勿論歩兵が携行できる爆破装置などで30mを超える岩石の(かたまり)を破壊することは困難だ。

 アメリカ空軍が大型の地中貫通爆弾(バンカー・バスター)を使用して隕石の破壊を行うという手はずになっており、地中貫通爆弾が隕石上部へ正確に着弾するようビーコンを設置するのが任務であった。

 隕石は卵形で上部は安定していないため、隕石の四隅にビーコンを配置することになっている。


 他にも付近の敵生存確認なども任務に含まれてはいるが、あくまで補助的な任務であり、ビーコンさえ設置すればいつでも撤退しても良いとされている。


「ああ、分かった。……小隊長より第3分隊、ビーコンの設置を開始せよ」


『第3分隊了解、ビーコンの設置を開始する』




 設置が完了したのはそれから3分後のことだった。

 数十分後にはアメリカ空軍のB-2(スピリット)が地中貫通爆弾を投下し、元凶は消滅する。


 そして、周辺の敵生体反応確認の命令を下そうとしたその時、通信は入った。


『第1小隊より第2、第3及び中隊本部! 現在敵部隊と交戦中! 位置は大間発電所跡! 十分に注意されたし! 最悪の場合敵に包囲されている事態も考えられる、至急撤退の準備を願う!』


 あり得ない。

 敵生体反応確認の任務はあくまでも国民に『すでに敵は殆どいない』ということを証明するためのパフォーマンス的なものだったはずなのだ。

 そもそも、ここは戦略核が落ちた、爆心地だ。

 5000度の熱線を浴びて尚生きていられる生物など居るはずが無い。

 何故だ?

 国立生物化学研究所も敵に対して火炎放射などの攻撃に耐性を持っていないと発表している。

 まさか、敵には生体再生能力でもあると言うのか?

 それとも、その実験が行われた後に進化したのか?


 しかし、もし効果が無かったのだとしたら、既にここは……


「隊長……あ、あそこに……ッ!」


 隊員が悲痛な声を上げながら俺に叫んだ。

 指さすその方向には……


「重、装甲種……だと?」


 亀のような体躯を持つ、高さ4メートル近い巨体が、数十体。

 それは、浜松防衛戦の際に確認された、12.7mmの重機関銃弾すらも通さないと言われるタイプだった。

 超強酸の液体を噴出し、軽装甲機動車の装甲に穴をあけたとも伝え聞いた。

 それは既に、俺たちの武装で太刀打ち出来ない事を指していた。


 俺は無線機を手に取り、中隊本部へと繋いだ。


「……こちら第2小隊、重装甲種を確認、至急UH-60J(ブラックホーク)を呼び戻して頂きたい。早く撤退しなければ、『第3中隊』の二の舞になります」


『中隊本部より全小隊、現在ヘリの手配を終了した。至急77号線の中隊本部へ集合せよ。10分もあればヘリは到着する。急いでくれ』


「第2小隊了解」



 しかし、それは既に手遅れだったのだ。


 俺たちの周りには、重装甲種、小型高速種、そして初期種(最初に確認された人型のこと)の混成部隊が集まっていた。

 何故今まで気づけなかった?

 赤外線観測装置もあるし、そもそも木々は全て焼き尽くされている。

 山の陰から現れたとは言え、明らかに多すぎではないか?

 明朝で薄暗いということもあるのだろうが、最大の失点は俺たちの注意力不足にあることは間違い無かった。

 誰も、考えていなかったのだ。

 この荒野に、まだ敵が生きているなど……ッ!


「……第2小隊より中隊本部。恐らく我々はもう駄目だ。敵部隊に、包囲された。重装甲種がいるため突破は困難と考える。我々はこれより……『自決』を行う。貴官らの無事と幸運を祈る。以上、交信終わり」


『待て、あと10分だ。持ちこたえる事は出来ないのか?』


「不可能だ。敵は既に我が隊の100m地点まで迫っている。2分は持たない」


『……了解した。貴官らの冥福を祈る』


 交信は切れた。

 最早ここで抵抗しても、敵を道連れにすることは不可能だろう。

 部隊の温存のためか、重装甲種を前に押し出している。


「……済まない。私がもう少し注意を払っていれば、こんなことにはならなかった筈だ」


 俺の謝罪に対して、隊員たちが口々に言う。



「いえ、隊長のせいではありません」


「そうです。我々の注意不足がこの状況を招いたのですから」


「ですから、自分を責めないで下さい」



「済まない。……せめて、最期に一矢だけでも報いてやろう。C4を固めて、少し向こうに設置するんだ。センサー式の起爆装置もセットしてな」


「「「了解」」」


 隊員たちは各々が持っていたC4を取り出し、同じ場所に放り投げる。

 一人がそのC4の山に近づき、起爆装置をセットした。


 ……これで、俺たちがこの世で済ませる事は終わったのだ。


「よし、自決する者は手榴弾を手に持て。強制はしない。最期まで戦いたい者は戦っても良いし、敵の突破を試みるのも良い」


「敵に噛み砕かれながら死ぬよりは、手榴弾で即死した方が良いですよ」



 隊員たちは全員手に手榴弾を握った。

 それを見て俺は指示した。


「安全ピンを抜いた後、胸に抱え込んで地面に屈むと良い。それなら即死出来る」


 隊員は頷く。


 そして、俺はこの世で最後の命令を下した。


「……また会おう。ピンを抜け」


 俺もその言葉と同時に安全ピンを抜き、胸の前に抱えながら地面にかがみ込んだ。

 首を上げてみると、隊員たちも同様に屈んでいた。



 ……俺の手に持った手榴弾が破裂する。

 体に鉄の破片が刺さる感触と同時に、俺の意識は吹き飛んだ……



寸又峡奇襲戦

交戦部隊 日本国防陸軍中央即応旅団中央即応連隊第3中隊 VS 敵対的地球外生命(仮称)


双方の死傷者

中央即応連隊第3中隊 143名中143名死亡 全滅

敵対的地球外生命 数百体中20体前後死亡 被害小規模


国防陸軍の完全敗北


誤字脱字や文法的におかしな表現の指摘、評価感想お待ちしております。

また、作者が明日より旅行に行きますので、しばらく更新できないかもしれません。

それと、第二章はこれで終了です。

幕間を挟んで第三章へと切り替わります。

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