第十八話 解き放たれる雷
2022年7月20日(水)
PM 9:55
沖縄県名護市在日アメリカ合衆国軍基地『キャンプ・シュワブ』
日本国防空軍西部航空方面軍第5高射団
side 第5高射団司令・中谷直泰国防空軍大佐
国防省から作戦決行の命令が出されたのは午後10時少し前の事だった。
恐らくもう一つの発射地点である北海道新千歳空港にも命令は行われているのだろう。
発射時刻は日本標準時7月20日午後10時丁度。
着弾予想時刻は午後10時7分前後。
つまり、あと12分で中部地方は焦土と化すのだ。
これは最早避けることが出来ない決定事項。
どちらにせよ、核を使わなければ日本は滅びる。
……皮肉としか言いようがない。
核の惨禍を世界に伝えた日本が自ら核を使わなければならないとは。
だが、これで全て終わる。
そう、もう奴らに人が喰われる事は無いのだ。
この戦争に終止符を打たなければ。
俺は無線でサイロ内や移動式ミサイル発射装置に待機している発射部隊に連絡する。
「……これが最後の戦いだ。俺たちはこの戦争に終止符を打つ。これで人々は奴らの影に怯えることは無くなるのだ。全部隊に命ずる。ミサイルの発射ロックを解除せよ。発射タイミングはこちらで指示する」
『了解! ミサイルの発射ロックを解除します』
照準のセッティングを手伝ってくれたアメリカ軍の将兵には感謝しなければならないな。
日本は弾道ミサイルの使い方など知らないし、たった数日で発射プロセスを学習できる筈もない。
……少しずつ電波時計の目盛りが進んでいく。
あと2分。
これで終わるのだ。
気負うな。
俺はただミサイルの発射を命じるだけだ。
俺が一言命令して、ミサイルが発射されればこの戦争は終わる。
日本は平和なかつての姿に戻るのだ。
それに何を戸惑う必要がある?
何を躊躇う必要がある?
攻撃地点に住んでいる国民には申し訳ないが、家はまた作ることが出来る、街は復興させることが出来る。だが、命はまた作ることは出来ない。同じ姿に戻すことなど出来ないのだ。
あの地域に生えている植物や動物たちは戻ってこない。だが、俺たちにとっての優先順位は植物や動物よりも人間なのだ。
命の価値は平等だと思っている。しかし、生物にとって同じ種を優先することは当然だ。
傲慢かもしれないが、『仕方がない』のだ。
そう、仕方がない。
……そして、電波時計が午後9時59分45秒を指した所で俺は無線機を手に取った。
「ミサイルを発射せよ。この悲惨な戦争を終わらせろ!」
発射部隊の隊員が返答する。
『了解、ミサイルを発射します!』
俄に地面が震動を始める。
恐らくミサイルサイロ内で大陸間弾道ミサイル・LGM-31ミニットマンのロケットモーターに点火が行われたのだろう。
ミニットマンは大陸間弾道ミサイルであり、沖縄から長野に向けて発射するには少々射程が長すぎる。
そのため、今回は3段ロケットの第1段目を噴射途中に強制的に切り離し、射程を無理矢理短縮化する措置が採られた。
戦略核を使用するにはその方法を採るか、ハワイなどで発射を行うしか無かったのだ。
ちなみに移動式発射装置に搭載されているのは準中距離弾道ミサイルであり、射程だけ見ればこちらの方が使い勝手が良い。ただし戦術核しか運用できないため、結局ミニットマンの使用は必須要件だった。
指揮所の窓の外が光に包まれる。
核は、発射されたのだ。
10分後、国防省から弾着確認の連絡が入った。
そう、戦争は終焉を迎えつつあったのだ……
乙七号作戦
交戦部隊 日本国防空軍第2高射団、第5高射団 VS 敵対的地球外生命(仮称)
双方の死傷者
国防空軍高射団 0名 被害無し
敵対的地球外生命 400万体以上? 被害甚大
国防空軍の完全勝利?
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