第十二話 飛翔する悪夢
今回も挿絵がありますがやはり目安ですので正確性には欠けています。どうかご了承下さい。
2022年7月15日(金)
AM 7:15
東京都千代田区永田町
首相官邸地下一階・危機管理センター
side 日本国総理大臣・永澤和寿
「現在敵は渥美半島を完全に制圧、愛知県豊田市、豊橋市に侵攻しつつあり、岐阜県高山市も最東部が陥落し、現在は高山市役所付近にて戦闘が行われています。北部ではついに敵が長野市まで到達、市街区で激戦中です。山梨では甲府盆地の放棄を決定、関東方面に繋がる全ての道路を封鎖して防衛線を構築しました。静岡西部からの敵に対しては沼津市、御殿場市に防衛部隊を設置し対処しています。また、長野東部、軽井沢にて戦闘が発生、敵の群馬侵入をなんとか食い止めています」
防衛省官僚の報告を聞いて、私は質問を投げかけた。
「敵が東京に到達するまで、およそ何日ですか?」
官僚は申し訳なさそうな顔で、私たちに告げた。
「早ければ来週にも。23区への侵入と言う意味ならば2、3週間前後でしょう。現在、関東全域の運命を握っているのは軽井沢です。軽井沢の防衛線を破られれば、それの先にあるのは延々と広がる関東平野です。敵は四方八方に跳梁跋扈し、防衛線を敷くことは困難になるでしょう。そうなれば、最早関東は放棄せざるを得ません。しかし、かといって他の方面の防備を手薄にすることも不可能です。新潟県では車輌と船舶の不足から未だ数万人以上の住民が救助を待っていますし、西部には日本第二の都市、大阪が存在します。こちらは未だ避難勧告すら出されていないため、今愛知方面の防衛線を破られた場合、大阪の住民800万人中300万人しか脱出出来ないと推測されています。兵庫や京都も同じ状況で、現在西部の防衛線を手薄にすれば近畿圏の住民が壊滅します。正直、東京防衛については核兵器の到着がいつになるかによって左右されるでしょう」
そう、4日前、日米間でニュークリアシェアリング条約が締結された。
貸与される核は戦略核78発、戦術核135発の計213発。
これで静岡、長野、山梨を吹き飛ばす。そうするしか、単独でこの事態を解決することは出来ないのだ。
勿論、閣内でも何度も議論が行われたし、長野、静岡、山梨県民にとって耐え難い事だろう。自分の故郷が、他ならぬ自分自身の政府によって焦土とされるのだから。
現在、グアムやハワイの米軍基地より輸送艦がこちらに向かっている。
早ければ明後日にでも到着する予定だ。
核は移動式の発射台に積載されたものであり、恒久的なミサイルサイロを持たない日本に配慮したものらしい。
しかし、戦略核についてはミサイルサイロ用であり、かつて沖縄に設置されていたミサイルサイロを復帰させて使用する手はずになっている。
勿論、到着してすぐに使えるようなものでもない。調整や設置などに時間がかかるし、標的の選定も行わなければならない。爆発地点付近の自衛隊の撤退も必要だ。
それらを行っている間に軽井沢の防衛線が突破されれば関東は壊滅するだろう。
「徴兵の人員選定はどうなっているのですか?」
官僚に国土交通大臣が質問する。
「厚生労働省と調整して、徴兵検査の日程を調整しています。予定では5日以内に一回目の徴兵検査が行われ、その1週間以内に徴兵人員が決定、更に1週間の後、入隊と言うことになっています」
つまり、3週間は徴兵は行われない。対象人員が多い上、選定を行う人員も不足している。
それに、もし徴兵したとしても最低1ヶ月は訓練を行わなければならないだろう。
2ヶ月間。それだけの間、日本を生き長らえさせる事は出来るのだろうか。
……いや、出来るのだろうか、ではない。そうする。そうしなければならないのだ。
数千年の歴史を持つ国をそう簡単に滅ばせてたまるものか。
「少年志願兵の予測志願数はどのくらいですか?」
私は官僚に尋ねた。
「希望的観測で3万人程度かと。今のところ第一次募集定員は5000人を予定していますが、最悪定員割れを起こす可能性も視野に入れなければなりません」
やはり、そのくらいか。
余りにも多すぎて選抜に支障が出るのは困るが、絶対数が少なければ人数あわせの為に本来不採用となるべき人間が合格する可能性が出てくる。
それを危惧した私は官僚にこう命じた。
「少年志願兵の選抜に当たっては学力や実技よりむしろ面接を重視してください。あまりに反抗的だったり、不真面目だったり、教育期間中に問題行動を起こしそうな人間を入れてはいけません。あくまでも多少の教育で即戦力になる人材を求めているのですから。この国を守るという強い決意さえあれば多少学科試験や実技試験の点数が悪くても採用して構いません」
官僚は頷き、その後私にこう質問した。
「了解しました。後で検討します。しかし、学力によって初期階級を変えるという話がありましたが、それはどうすればよろしいでしょうか?」
それは、兵ばかり大量に作ってもそれを指揮する現場指揮官が居なければ組織的な行動は不可能であるという防衛大臣の指摘を受けて私が防衛省に提案したものだった。
それは志願者を学科試験の点数に応じて二段階に分け、成績最上位の志願者を『特別曹候補生』、成績中位から下位の志願者を『特別志願兵』とする方式である。
基本的に実技試験の結果には左右されないことになっている。
「……やはり面接を重視して貰いたい。人には得手不得手がある。人の上に立つことでその能力を完全に発揮する人間もいるし、有能な指揮官の下でこそ能力を発揮できる人間もいる。勿論、それを見抜くのは困難だろうが、出来うる限り最大限の努力をしてもらいたい」
「了解しまし……」
た、と言おうとしたであろうその時、官僚の懐から突然アラームが鳴った。
「……失礼、緊急連絡です」
官僚は一言そう言うと、部屋の隅まで歩いてから携帯電話を取りだした。
「……中原だ。何があった? ……なんだと? 静岡から? ……、……」
電話は15分程度続き、それが終わった後、官僚は私たちがいる机の前まで来て衝撃的な報告を行った。
「首相。静岡県中部より関西方面に向かって飛翔体が発射された模様です。数はおよそ20。大きさは長さ25m、直径7m程度の円錐状であるとのことです」
その言葉を聞き、皆が意味を理解した瞬間、会議室は騒然となった。
「奴らが航空戦力を持っているだと!?」
「円錐? どういうことだ? 翼はないのか?」
「……翼がないと言うことは、どうやって飛んでいるんだ?」
「それ以前に西に向かって飛んでいる、というのは奴らは一体何をしようとしているのだ?」
閣僚たちから放たれた質問に対し、官僚は一度制止した後、説明を始めた。
「これがあの地球外生物の新戦力であろうことはまず間違いありません。そして、翼は存在しませんが、吸気口と排気口が存在し、吸気口から取り入れた空気を大出力で排出しながら飛んでいるようです。また、それだけではなくガス状の気体が排出されているのも確認されており、離陸や加速時にこれを噴射しているものと推測されます。この飛翔体には小さなヒレ状の方向舵も確認されており、これで飛行方向の調整を行っていると思われます。現在は高度4000m程度の高さを時速670km前後でなお上昇しており、近畿、中国、四国、九州地方に弾道飛行を行い、着弾するものと思われます」
官僚の説明を聞いて、外務大臣が疑問を呈する。
「待て、着弾というのはどういうことだね?」
「はい。現在の所この飛翔体に武装と思われるものは存在しません。そして、形状や弾道飛行を行おうとしているところから考えて、弾道ミサイルのような運用を行うと考えられています」
「そのまま加速を続けて宇宙空間へと到達する可能性は?」
「ありません。速度が絶対的に足りていませんし、飛翔体はすでにガス噴射を終了していますので。このままの状態が続けば空気噴射による加速と自重の関係が逆転した時点で降下に移るものと考えられています」
「……ミサイルによる迎撃は可能ですか?」
財務大臣が官僚に質問する。
「残念ながら不可能でしょう。赤外線追尾方式のミサイルの場合、熱源の温度が余りに低すぎて捕捉できませんし、電波については吸収してしまうためレーダー誘導方式も使用できません。また、たとえ命中したとしても炸薬量の関係から撃墜は困難だと考えられます」
それは、所謂詰み、チェックメイトというものだった。
ミサイルで撃墜出来ないのならば、航空機関砲での撃墜など当然不可能だろうし、誘導爆弾などは飛翔体の速度から考えて命中率は極端に低いだろう。
……いや、待て。別に撃墜する必要は無いのではないか?
私は思いついた対策を官僚に提案した。
「飛翔体の軌道を変更し、日本海や太平洋に着水させる事は可能でしょうか?」
「……どういうことでしょう?」
「飛翔体の方向舵を航空機関砲などで破壊した後、近距離でミサイルを無誘導発射、飛翔体の落下方向を無理矢理変更させると言うことです」
官僚は驚いたように頷き、言った。
「……確かに、方向舵そのものの破壊は航空機関砲でも可能でしょうし、炸薬の量が少なくても軌道変更程度ならば可能です。名案です。すぐにその策を提案します。少し席を外させて頂いてよろしいでしょうか?」
私は首を縦に振る。
「ええ、結構です。絶対にこれ以上民間人への被害は出さないで下さい」
「了解しました」
官僚は扉を開き、一度頭を下げてから出て行った。
飛翔体に何が入っていようと、安全なものでは無いことは間違いない。
私は核攻撃の日程を繰り上げるべきか考えながら会議を続けるのだった。
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