第七・五話 凶星は南の十字架より来たる
今回も閑話ですので短めです。
2022年7月4日(月)
AM 9:20(UTC)
イギリス連邦キリバス共和国北ライン諸島
クリスマス島東南東320km
アメリカ合衆国軌道エレベータ『フリーダム・タワー』
地上35786km地点・静止軌道センター・第2司令所・大規模宇宙望遠鏡『フランク・ドレイク』管制室
side アメリカ合衆国空軍中佐・アーノルド・コッカー
『こちらNASA中央司令室。ギャラクシー1、応答せよ』
その通信は食事中に突然入った。今日の交信予定はもう無いはずだが、何故だ?
そう考えながらも俺はヘッドセットを手にしていた。
「こちらギャラクシー1。今日の交信予定はもう無かった筈だが?」
中央司令室のオペレーターに多少の嫌味を告げるが、オペレーターは意に介した風も無くこう言った。
『マウナケアのケック2望遠鏡で異常な挙動を行う彗星を発見した。しかしケック2の倍率では詳細観測が不可能な距離だ。そちらの望遠鏡で観測して貰いたい』
異常な挙動? その言葉を聞いて俺は真っ先に地球への衝突軌道にある彗星を想像した。
「了解した。その彗星の位置は?」
『南十字座のアクルックス付近だ。アクルックスの左方に緑に光る光点がある筈だ。それが彗星だ』
緑の彗星、だと? 俺はその言葉に疑問を抱きながらもオペレーターに返答した。
「了解した。少し待て、望遠鏡の姿勢変更を行う」
俺は後ろで待機している望遠鏡の管制官に向き直って命令した。
「望遠鏡の姿勢変更を頼む。南十字座アクルックスの方向だ」
「了解しました」
管制官は管制用のコンピュータを起動し、座標データか何かを打ち込み始めた。
十数分後、管制官が姿勢変更の完了を告げた。
「アクルックス付近に緑の光点は存在するか?」
管制官は18インチの簡易モニターで光点を確認しようとしているようだった。
「恐らくこれでしょう」
64インチのメインモニターに映像が映し出される。
恒星の光に折り重なるようにしてエメラルドグリーンの光が瞬いている。
「拡大は出来るか?」
「はい。5倍まで拡大します」
光点が拡大される。
確かに彗星であることは間違いないだろう。彗星の証であるコマを確認することが出来る。
しかし、何故この彗星の光は緑色なのだ?
形も普通の彗星と比べて明らかに細長い。
「こちらギャラクシー1。中央司令室、応答せよ」
『こちら中央司令室。ギャラクシー1、どうした』
「彗星を発見した。これより観測データをそちらに送る」
『了解』
「映像データと簡易解析データを中央司令室に送ってくれ」
俺は管制官に告げる。
しかし、管制官は青ざめた顔で俺の方を振り返り、震える声で告げた。
「……この彗星は、1ヶ月前にシズオカに落ちた隕石と構成物質が同じです」
「何だと?」
「表面は水の氷で覆われていますが、赤外線観測の結果、赤外線の透過率などから例の隕石との一致率が96%です。また、質量は小型小惑星の数十倍です」
つまり、この彗星は……
「彗星の大きさは?」
「直径2km以上の円柱で長さは5km以上だと考えられます」
日本を蹂躙しているあの宇宙人どもの、母艦なのか?
「……とりあえず中央司令室にデータを転送しよう」
「了解しました」
管制官は俺の言葉に頷き、データの転送を開始した。
もしもこの星が俺の予想通りのものであり、地球への落下軌道を取っているなら、世界の危機だ。
35メートル程度の隕石でさえ日本の一地方が壊滅させられる程の戦力を持っているのだ。
5000メートル超のこれなら、世界が破滅する。
俺は彗星の動向に不安を覚えながらも、中央司令室からの通信を待っていた……
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