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第二章 日本国防軍 第七話 核か徴兵か

第二章を開始します。

通算ユニークが800を超えました、いつも読んで下さっている方、ありがとうございます

2022年6月30日(木)

AM 11:00

日本国東京都千代田区永田町

首相官邸地下一階・危機管理センター

side 内閣総理大臣・永澤和寿


 あの生物が現れて二週間、日本は重大な危機に見舞われていた。

 長野県南部はほぼ完全に制圧され、静岡県内には敵部隊が跳梁跋扈、岐阜県も東部が制圧され、自衛隊員は大量に殉職……いや、戦死していったのだ。

 民間人の被害も未曾有の規模となり、このままでは日本滅亡は必至であった。


 防衛省の官僚が閣僚や私に説明を始める。


「現在、陸上自衛隊は長野県安曇野、千曲、佐久の三市を結んだ線を『北東部防衛線』とし、山梨県北杜市に『東部防衛線』、岐阜県土岐、美濃両市を結んだ線を『西部防衛線』、静岡県内の主要道路と主要都市の防衛を行う『南部補給連絡線』、他にも岐阜・長野県境、富山・長野県境に警戒部隊を配備しています。しかし、敵部隊が日本アルプスを突破出来る可能性は低く、普通科連隊3個及び航空自衛隊一個飛行隊が偵察活動を行うに留まっています」


「現状の自衛官殉職者数と民間人の被害状況はどうなっていますか?」


 防衛大臣が官僚に説明を求める。


「現在、自衛官の殉職者数は1万7000名、重軽傷者が8000名以上、民間人の死亡者数は全体で17万名以上、重軽傷者が20万名以上となっています。ただし、この死者、殉職者数のデータには行方不明者も含まれておりますので多少前後する可能性があります」


「現在の敵総数は何万体程度ですか? それと、敵の防弾能力に関して新たな発見があればそれも教えて下さい」


 国土交通大臣が官僚に質問を投げかける。


「現在の敵総数は12万体以上と推測されています。全てが同一の形状であり、大きさには個体差があるものの対弾防御能力については差は殆ど無く、防弾能力のボーダーラインはおよそ6.5mm程度だと推定されています。それ以下の口径であった場合同一箇所への連続着弾によっても破壊には至りません。ただし、米軍より供与された劣化ウラン製5.56mmNATO弾については一定の効力を示しているとの報告もあり、金属の比重にも左右されると考えられています」


「現在の戦闘行動が可能な陸上自衛官の総数は?」


 私は官僚にそう尋ねた。


「殉職者及び隊員多数負傷による前線離脱を行っている部隊、後方支援部隊以外の総数と言うことでしたら、およそ6万9000名です。この中には即応予備自衛官も入っています。また、予備自衛官、予備自衛官補は後方支援部隊としてカウントされています」


「現状の戦力で敵部隊に勝利出来る可能性は?」


「……申し上げにくいのですが、ほぼありません。このままでは数週間以内で中部全域が敵の支配下に置かれ、西日本と東日本が分断されるでしょう。予備自衛官、予備自衛官補、後方支援部隊全てを前線に回した場合でも勝利は恐らく不可能です」


 しかし、徴兵制度の復活や核による焦土作戦などは私としてもなるべく行いたくないし、野党の猛反発は必至だろう。


「徴兵制度について、防衛省としての見解は?」


「陸海空自衛隊上層部は全て徴兵制度の施行を要求しています。また、防衛省幹部についても大半が徴兵制度の施行を支持しており、防衛省全体としては『徴兵制度施行が不可能ならば核兵器の使用もやむなし』との見解です」


「しかし、徴兵制度の施行は国民にとっても納得しがたいものでしょうし、野党の反発も予想されます。総理、徴兵制度の施行はしばらくは止めた方がよろしいかと」


 農林水産大臣が私に向かってそう言った。


「ですが、そうやって足踏みしているうちに敵の戦力が取り返しのつかない数量になっている可能性も否めません。しかし、国民の命を無意味に捨てる事は避けたい。ですから私は核による敵殲滅を提案します」


 国土交通大臣も農林水産大臣に続いて意見を述べた。


「現状の法制度では徴兵制の施行は不可能です。また、仮に徴兵制を施行した所で訓練にかかる時間を考えれば手遅れになる可能性が高い。非核三原則があるとはいえ、あれは法律ではありません。私も核による殲滅作戦を支持します」


 法務大臣が言った。


「私は徴兵制の施行を提案します。そもそも、核が敵に効果を示すと言う根拠は存在しません。もしも核での殲滅作戦を行ったとして、効力を示さなければ国土を放射能で汚染するのみです。費用対効果は別として、既に効果が示されている銃撃による攻撃の方が信頼性は高いと考えます」


 それに真っ向から反対したのは財務大臣であった。

 確かに、今のところ核兵器が敵に効くという保証は得られていない。もしも効かなかった場合、中部地方は人の住めない地域になってしまうだろう。


「……一応全員の意見をまとめましょう。徴兵制施行に賛成の方は手を挙げ、核攻撃に賛成の方は手を下ろして下さい。この二つにあてはまらない方は起立してください」


 ……徴兵制派8名、核攻撃派8名、起立者無し。

 完全に互角だった。農林水産大臣は核攻撃派に回ったようだ。


「……総理のご意見は?」


 総務大臣が私に尋ねる。


「……私は……徴兵制の施行を支持します。憲法第九条に抵触する可能性が極めて高いですが、最悪の場合現行憲法の破棄も考えています」


 私は、核攻撃の信頼性を疑ったのだ。地球外生命体である以上、放射能への強力な耐性を備えている可能性も否定できない。

 しかし、かといって徴兵制の施行だけで勝てるとも思っていない。いくら地球外生命体であっても5000度を超える熱線に耐えきれるとは思えないし、私が疑ったのは核の衝撃波による殺傷効果だったからだ。

 徴兵制度を施行しても尚戦況が思わしくなかった場合、速やかにニュークリアシェアリングを利用して中部地方に超高密度核攻撃を行うつもりだったからだ。

 しかし、今はまだそのことを閣僚に伝える訳にはいかない。誰もこの時点で核攻撃と徴兵制の同時施行など考えてもいないと考えたからだ。


「一応徴兵制賛成が過半数となりましたが、あと二日程度は議論を続けましょう。そして三日後、再度決を採り、その結果で判断させて頂くことにします。午前の会議はここまでにしましょう。次は午後3時より開始します」


 そして、会議は終了した。


 既に日本は、最悪の苦境に立たされていたのだ。

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