起きてから揺れるドアまで
どうしてこうなったんでしょうか
さっきまで友人と遊んでて帰宅してご飯だと呼ばれて階段を降りてく途中で踏み外しました。そこまでは覚えてます。踏み外して、あ、ヤバい、と思った次の瞬間に知らない部屋の知らないベッドで目を覚ましました。寝た気はしないのになぜか目が覚めました。疑問に思いつつ起き上がるとこれまた知らない女の人が僕を見つめていました。誰?
「たくや、くん?」
え?えぇ、はい、卓弥ですが。え?誰ですか?
「良かった、起きたのね。くすもと先生がもう目を覚まさないかもって言うから、私。私……」
いや、誰ですか?くすもと先生。てかあなたも誰ですか?
心配してたのか泣き出してるけど、知らない人に泣くほど心配されてても、なんか、ね?複雑な心境ですよ?
「どうしてそんな目を……?……私が分からない?」
「ぇ……。ぁ………」
あれれ?声が出ません。なにこれ。
「私よ、みずきよ」
みずき、みずき。えーと、その単語に該当する知り合いがいません
「……記憶…喪失……?」
え、いやいや、さっきまでご飯呼ばれてましたし。てかご飯は?お腹すいたんですけど。
「そんな……そんな。なんてこと」
そうですよなんてことですよ。今日の夕飯はホッケの一夜干しだと聞いて楽しみにしてたのに。
お、唾液で喉が湿ったのか声出せそうです。
「ぁ、あ。ああ。おお、出ました。
えっとみずき?さん?ここはどこですか?」
出ました出せました僕の声です。声ですが。あれれ?なんか若干低くなりましたマイヴォイス?今まで寝てたからですかね?
「ここ?時庭第一病院だけど」
あ、なら家まで近いですね。およそ車で20分程度の距離ですね。
徒歩なら遠いですね。およそ3時間程度の距離ですね。
時庭第一病院の前を通りかかることなら何度かありましたが中に入ったのは初めてなので分かりませんでしたよ。
あれ?というよりなんで時庭第一病院で寝てるのでしょう。
普段は一番近い菜六病院に行くはずなのですが。
「ちょっと待っててください」
と、みずきさん。色々考えてる僕をじーっと眺めていましたが決心したかのような顔をしています。
ほいほい。待ってますよ。
と、みずきさんが出ていきました。
え、待たないですよ。知らない人には付いていくな、もとい知らない人を待つな。小学校で習いました。
とりあえずお家に帰りましょう。
移動手段が無いので徒歩です。脳内会議で六人の僕、全員賛成でイエス徒歩したので決定です。
3時間も歩き通しとか興奮しちゃいますねぇ。えぇ。興奮し過ぎて涙が出そうですがここにはいられません。ホッケの一夜干しが食べたいです。
あなたが目覚めると知らない場所にいたとしましょう。
知らない人が訳の分からないことを述べて、待っとけ、と。
んで家に帰ると好物、いや、自分の生命活動の源、いや、自分の一部、すなわち自分のようなものが待ってたとします。
んで目の前の扉はオープン。あなたはフリーダム。
そりゃ帰るしかないですよねぇ。例え3時間かかるとしても。例え服が病院の室内着だったとしても。例え左手が折れてたとしても。
いや、びっくりしましたね。立ち上がろうと左手つこうとしたらカックンコってなりました。見ると左手が我が意に添わずプラプラと勝手にブランコしてます。右手で叩いてみました。叩かれた場所に痛みはあるのでおそらく骨が折れただけでしょう。プラプラ揺れるだけの左手は邪魔なのであとでその辺で木でも拾って添え木にしましょう。
ま、左手は置いといてとっとと行きましょう。
お、時計がありますね。ベッドの真上の壁にあったので気がつきませんでした。見てみると時刻はおよそ19時。18時頃にご飯だと呼ばれた記憶があるので一時間しか経ってませんね。だとすると家に着くのはー。だいぶ遅くなりそうですね。まぁ、大丈夫でしょう。
よし、さっさと出ましょう。あ、自分の持ち物とか無いですかね。探してみましょう。
ベッド横の机。たいがいここに持ち物とか入れてないですかね。
上にはなにも置いてないですね。中かな。机の引き出しを引いてみます。
ガタン
…………。なんかメリケンサックとかナックルダスターとかいう打撃武器が入ってますね。なんの金属は分かりませんが金属製。
なんでしょう。テレビは叩いて治す的な、患者も叩いて治す的なクレイジーなドクターでもいるのでしょうか。
要らないので置いておきましょう。後ろ手で引き出しを閉め、他に机は。見当たりませんね。
て?え?あれれ?私物無しですか?
確か家でもポケットに携帯と財布はいつも入れてたはずですが。
まさかあの近接戦闘用打撃武器が僕の私物ですか?
いやあんなん要らないですよ、置いていきましょう。
ま、無いもんは無い。しゃーなしですね。
病室を出ると長い通路。音が全く無いですね。他に患者はいないのでしょうか。
えっと、今しがた出てきた病室は312号室、と。
階段はどこかなー、とりあえず歩いてればありますかね。
部屋を出て右へと歩きます。他の病室の戸は閉まっていて中が見えません。特に興味もありませんが。おお、階段発見しました。
「先生、早く」
「あまり急かさないでくれよ」
おっと階下からみずきさんの声。僕の部屋に行くつもりでしょう。素早く階段を登り身を隠しました。
「ほら、先生」
「大丈夫、卓弥くんは逃げないから」
相手はさっきのくすもと先生とやらでしょうか。
先生、そいつ逃げてますよ。
足音が遠ざかって行きました。
足音を立てぬよう階段を降り1階へ。まだ階段があるので地下もあるみたいですね。特に用はないので今は行きませんが。
階段からまっすぐ通路を歩くとロビーに出ました。
ふむ、ここにも人はいませんね。
ま、そのほうが好都合ですし良いですが。なにか不気味ですね。
広い上に受付のカウンターがあるのでロビーかと思いましたが、何故でしょうか受付待ちや診察待ち用の椅子がありませんね。誰が座っていいと言った?という感じの病院なのでしょうか。
と、見ると玄関前に積んでありますね。
正面玄関の前に机や椅子や患者を乗せる台やらが山積みされています。なんでしょうかこれは。侵入者を防ぐバリケードみたいな置き方していますね。なんかこういう光景をゾンビ映画やらゾンビドラマやらで見たことありますよ。
耳を澄ませ外の音を聞いてみます。
…。
……。
…………。
風の音、虫の声、特にこれと言って怪しい音はない。
それよりもここからは出られませんね。他の道を探しましょう。
隣の部屋の窓から出られませんかね。隣の部屋の入り口はー、と。
バタン。
ドアが閉まるような音がした。音のした方を見るとなにやらドアが揺れている。
受付から二つ手前の。こちらから見て右側の壁沿いのドアですね。
えー、なにこれめんどくさいですね。さっきからホラー臭しか無いじゃないすか。やだー。
遠慮したいですが気になるのも事実なので行ってみましょう。
足音をひそめながらいまだ揺れるドアに近付き様子をうかがいつつゆっくりと開けました。




