アルテミス
仕事関係と同人活動により前回から間が開いてしまいすみませんです……
絶世の美少年達が私に微笑みかけている。
そのうちの一人が歩み寄り、シルクの手袋越しにキスをする。
――王女殿下、どうか僕を選んでください。
昔、幼少期にパーティーで知り合った貴族の青年が手を差し伸べている。
男にしては繊細で長細い綺麗な指。
無駄の無い動作。
その甘いマスクで何人もの女性を虜にしてきたのだろうか。
画面越しに移る彼等は、笑顔を振り撒き貴族の令嬢達のハートを鷲掴む。
美味に甘く、囁く言葉を惜しげもなく晒す。
それが非現実ならニヤニヤしていられたが、現実となると話は別だ。
◇◇◇
攻略対象の一人が、目の前で優雅に紅茶を啜っている件について。
「アルテミス殿は、ずいぶんとお暇なのですね」
「未来の婚約者として親睦を深めようと思いまして」
「……婚約者ではありませんわ」
「いずれそうなります。王女殿下」
「はぁ……」
目の前の少年アルテミス・シフォン・ファブレは、私の三歳の誕生日パーティーで知り合った。
十歳年上の十三歳である。
ファブレ侯爵家は代々、サウガ王国に仕えた家臣を多く輩出する由緒正しき上流貴族の一角。
過去、王家に令息や令嬢が嫁ぐことも屡々あったという。
ある意味、親戚といえようか。
パーティー以降こうして、ほぼ毎日お茶会を開いているのだが。
この少年は、きっと親に言われて気に入られる為に来ているんだろう。
全くご苦労なことで。
作中、攻略対象の親族に関する描写やイベントなど少なかった気がするが、如何せん記憶が曖昧だ。
不安になるが、全ては物語の始まる前に継承権を破棄すれば万事解決だ。
焦ったって意味はないのだから。
さて、そろそろお開きかと扉の前に立つ侍女見習いに目配せをする。彼女はすでに私の配下であるのは極秘だ。
「王女様、そろそろお稽古の時間になります」
「わかったわ、ありがとう……ヒルダ」
そう言うとヒルダは嬉しそうに、しかし表情に出さずに扉を開けた。客の前ゆえに、内心ニッコニコなんだろうなぁ。
どうして懐いてしまったんだろうか?
「では、アルテミス殿。申し訳ありませんが失礼いたします」
ジャスト五分。これ以上は時間を割けない。最初の頃は色々と文句を言っていたけれど、ファブレ侯爵に言われたのだろう。
本当に最初は酷かったと思う。一人っ子ゆえか我儘だったんだけれども。
会話も、そこそこにさっさと退室する。将来関わらない人間と話していたって無意味だ。冷めていると思うかも知れないが、そうする他はない。
この国を出たら二度と関わることはないだろう。