第十四話
「おいしいものが食べたい!」
どこかの姫様のようなことを言い出した私のかわいいイクサ様は、寮での夕飯を食べ終わった後にそんなことを言い出した。
「急にどうしたの? 私たち、さっきご飯食べたばっかりだよ?」
太っちゃうよ?
そう私が言うと、イクサはどことなく拗ねた顔をして。
「違う。ヤシロの作ったご飯が食べたい。学徒寮のご飯あんまりおいしくないんだもん」
「えっと・・・・・・まあ、ねえ。大量生産だし」
イクサの言い分に、私も思い当たるところはある。
だからといって、別に食べられないわけじゃないし、不満があるほどでもない。
それでもおいしいかといわれるとあんまり・・・・・・。
「寮の規則を見たけど絶対に寮でご飯を食べなきゃいけないわけじゃないみたいだから、前みたいに大森林に行ってお肉とって来ようよ。それで、ヤシロがお肉を塩コショウで焼いてくれるの!」
「じゃあ明日は学園もお休みだし行こうか。転移魔方陣も王都の門のすぐ近くにあるもんね」
「そうだ! どうせならピクニックにしよう! ヴィヴィとアエリグも誘ってみんなで行こうよ」
「? ヴィヴィって?」
「ヴィヴィリオさんのことだよー」
あれ? イクサはいつの間にあの二人と仲良くなったんだろう?
「きょうヤシロがトイレに行っている間にね、アエリグが話しかけてくれたの。でね、『さん』もつけなくていいって。それでね、友達になろうって」
いつの間に・・・・・・一人置いてけぼりの私はさびしいよ。
「よかったね。二人とも友達になってくれたんだ。じゃあ今度ロヴィアさんにお手紙ださないとね 」
「うん!」
私は・・・・・・なぁ。あのメイド騒動から二日たつけどまだヴィヴィリオさんとまともに話をしていないからなぁ。
正直なところ、顔を正面から見るのはちょっとだけ気まずい。
「ヤシロもこのピクニックで二人と仲良くなろうよ」
やっとイクサにも私以外の友達ができたんだ。私だって仲良くなりたい。
「そうだね。あ、でもその前に二人に予定を聞かないとね。明日、あいてるかな?」
「うん! 聞いてくる!」
そういうとイクサは部屋から飛び出して、けれどすぐにしょんぼりとした表情で帰ってきた。
「二人ともまだ食堂から帰ってきてないみたい」
「そっか、じゃあ後で一緒に聞きに行こうね」
「うん! ・・・・・・・・・・・・あっ!」
「どうしたの? 教室に何か忘れ物でもした?」
私がそう言うと、イクサは首を横に振り。
「ちょっと違う。言い忘れたの」
「何を?」
「何人友達ができても、あたしの一番はヤシロだよ!」
元気いっぱいに抱きついてくるイクサ。
可愛すぎだよぉ。
私はイクサの頭を撫でながら、でもちょっとだけ諭してあげる。
「友達に一番も二番もないんだよ。みんなイクサの友達なんだから」
「う~んとね、ヤシロは特別」
「何で?」
「友達は一緒にいて楽しいと思う。けど、ヤシロはぎゅうぅ~ってしたいの、好き!」
ああ、だめだ。私はイクサが。異世界に一人放り出された私を見つけてくれたイクサが大好きだ。
このとき、幼女になって、異世界に来て。私は始めて自覚を持った。
前世では恋をしなかった。好きな人もできたことがない。
それがどうしてか、気付きもしなかったけど。
私は、女の子が好きみたいだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日。昨日の夜急に頼んだにもかかわらず、隣部屋の二人はピクニックに一緒に行ってくれることになった。お弁当(食材)は現地調達だ。
事前にそのことを伝えてあったにもかかわらず、二人には驚かれた。
私と話すとき、ヴィヴィリオさんはちょっと気まずそうだったけど、私も気まずい。でも、ちょっと話しかけるとすぐに
「もう、先日のことは忘れて私と友達になりましょう。私も、せっかく貴女方と仲良くなれたのです。私のことは気軽にヴィヴィとお呼びくださいな」
「ボクのことはアエリグでいいよ~」
うん。よかった。
せっかくイクサが友達になれたのに、私だけ嫌われていたらどうしようかと思ったよ。
「ありがとうございます。あ、ヴィヴィさん。私のことはヤシロって呼んでください」
「もう、もっと気楽に話してもいいのに。貴女がイクサに使うみたいな言葉遣いでいいですのよ」
「じゃあ・・・・・・ヴィヴィ」
「はい、よろしいですわ」
なんというか、不思議な子だ。
「ねぇねぇヤシロ~、ボクとも仲良くしてね~」
アエリグが狐耳をぱたぱたと動かしながら私の腕を組む。
アエリグのぬくもりが伝わってきて、ちょっとうれしい。
昨日、私自身が女の子を好きだという自覚をもったせいか、ベッドに入ってからも一晩葛藤した。
自分が女なのに、女の子が好きだなんて。
イクサに知られたら引かれないだろうか、すごい不安にもなった。
一晩悶々と考えに考えて。
考えても無駄って諦めました。
だって好きなものは好きなんだもん。しょうがないじゃん。
イクサに知られたときは知られたときでまた考えればいい。
そのときはそのとき。今は今。
というわけで今は素直に腕に絡みつくアエリグの感触を楽しんでます。
獣っ娘、かわええ。
「私もヤシロにくっつく」
アエリグに負けじとイクサもあいているほうの腕にしがみついて来た。
なんだろうこれ? 両手に花じゃない。
「もう、そんなことをしていないでピクニックに行きましょう。日が暮れるまでには寮に帰らないといけないんだから時間がもったいないでしょう?」
ヴィヴィが私からアエリグを引き離す。
そこでふと、私を見て何か気がついたように。
「あら、ヤシロはその服装で大丈夫ですの? 結構歩くのでしょう?」
「うん。普段からこの服装だから大丈夫だよ。慣れてるもん。それより大丈夫? ヴィヴィの服も結構ひらひらしていない?」
「私はいいんです。それに、今日はヤシロがおいしいものをたくさん食べさせてくれるのでしょう? 歩くくらいどうってことありませんわ」
「・・・・・・私そんな事言ったっけ?」
「イクサが私たちを誘うときに言っていましたわ」
ちょっとイクサ、ハードルあげないでよ。
もし不味いとか、ちょっと濁した感じに「個性的な料理だね」とか言われたらどうしよう。なんだか不安になってきた。
「寮のご飯あんまりおいしくないもんね~」
アエリグも笑顔で私に言う。
その笑顔は何?
狐っ娘の笑顔は可愛いけど、今の私にはなんだか「てめぇ不味いもん食わしたらただじゃおかねえからな」くらいには見えてくる。
「ヤシロのご飯はすっごくおいしいよ。あ、でも今日は何が獲れるか分からないからお楽しみだね」
なんだろう。すごくきらきらした目で三人が見ているのですが。
「じゃあ早速行きましょう!」
ヴィヴィがイクサとアエリグの手を引っ張って、私たちの部屋を出て行った。
私は諦めて、まだ眠そうなヒヨをカゴから出して頭の上に乗せる。
・・・・・・もう今日は料理のできる私を見せて女子力の高さをアピールしちゃうぞ! ←やけくそ。