第十二話
「あの・・・・・・」
ザカリア先生が出て行った後、教室に残された私たち。
しんと静まり返った教室だったけれど、唐突に一番前の席の子が立ち上がって私たちのほうへ近づいてきた。
「僕、ロカっていいます。趣味は裁縫です」
女の子にしか見えない男の子、ロカ君。
その子がわざわざ一番後ろの席の私のところまで来て挨拶をした。
イクサはロカ君が近づいてきたことで私から席一つ分よりももう少し位の距離をとっていた。
私は急に近づいてきたロカ君に戸惑いながらも挨拶を返す。
「私は八代。これからは同じクラスメートとしてよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。早速ですけど、そのメイド服見せてもらってもいいですか?」
・・・・・・へ?
前半部分がなければ告白としかとれないような台詞。
しかも可愛い男の子から。
「そのメイド服の生地に僕の見たことのない素材が使われているみたいで、一目見たときから気になってたんです」
「ああ、そういうことね」
ちょっとだけ残念。
チラッとイクサの方を見ると、唇を尖らせてこっちを見ている。
ああ、その表情も可愛いなぁ。
「このメイド服、私が作ったわけじゃないから詳しいことは分からないけど、それでもいい?」
「はい。構造は普通のメイド服と大差なさそうなので、生地をぜひ見せてください」
許可を出すと、ロカ君はすぐメイド服の袖を触り始めた。
この生地は何に似ているとか、見たことのないエンチャントがかかっているとか、触りながらロカ君はいろいろと呟いていた。
なんだか私自身が査定されているようで恥ずかしい。
「あの、ロカ君」
「はい。なんでしょう?」
「そろそろやめてもらっていいかな。みんなの視線も気になるし」
「あわわ、ごめんなさい。気になるものがあるとどうしても夢中になっちゃって」
うん。分かるよその気持ち。
私もイクサが可愛い仕草をしているとどうしてもそっちに気が向いちゃうもん。
・・・・・・あれ? ちょっと違うかな?
「触らせていただいてありがとうございました。参考にさせていただきますね」
ロカ君がぺこりと頭を下げる。
それをきっかけに、クラスのほかの人たちも席を立ち上がってお互いに会話を始めだした。
私もイクサを連れていろいろな人と話をした。とりあえず、クラスの人の名前は全部覚えたかな。
イクサは終始私の服のすそを掴んで俯いていたけど、誰と話すときも自分の名前だけは言えていた。これを機に、クラスの人にも少しずつ慣れていって欲しい。
そのために、私もがんばらないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
寮は私とイクサの二人部屋だった。八階建ての建物の八階の一番奥の部屋。
どうもこの寮は学年が上がるほど下の階に部屋の位置が下がっていくようで、一年生である私たちは一番学校から遠いところのようだ。
隣の部屋には、同じクラスのヴィヴィリオさんと、もう一人同じクラスの女の子、アエリグさんがすむことになった。部屋の配置も、クラスごとに大体決まっているみたいだ。
棚あり、火を灯すタイプのランプあり、ベッドあり、机ありと、学業に必要なものは大体そろっている。部屋の大きさは、見たところ大体十二畳といったところ。他に必要なものは自分でそろえていいのだろうか? あとで確認してみないといけない。
とりあえずますは部屋の一角にヒヨの為にのスペースを作る。
「思ってたよりも広いね」
私が言うと、イクサはよく分からないといった顔をした。まあ、ずっと研究所暮らしだったからこういうのはよく分からないか。私も実際にこういう部屋に住んだことはないけれど、生前よくお世話になった病院の個室よりはかなり広い。
「ヤシロ、このベッド硬い」
「え? そう?」
イクサにいわれて触ってみると、確かに研究所で使っていたものよりもかなり質が劣るものだった。一年以上も研究所で質のいいものを使っていると、こういうところで我慢をするのが結構出来なくなるものだ。
「こういう備品も後で取り替えていいか寮母さんに聞いてみるね。イクサは何か他に気になるところある?」
「体を動かすにはちょっと狭いかなぁ」
「それはしょうがないよ。外でやろ」
「でも、さっきもらった資料を見てみると、暗くなってからは夜外にでちゃ駄目みたいなんだよね」
「じゃあ朝やる?」
「そうしようかな・・・・・・でもあたし朝はちょっと弱いから、できれば夕方とかやりたいなぁ」
「夕方だったら大丈夫じゃないかな? 私にも何かできることがあれば言ってね。イクサのためなら私、いくらでも頑張っちゃうから」
「ありがと。ヤシロ」
微笑むイクサ。
もうこの笑顔だけで私は満足。
イクサと二人で部屋の中を整えていたら、いつの間にか日が暮れていた。
「ねえヤシロ、そろそろ夕食の時間じゃない? ご飯は確か食堂で全員が一緒に食べるんだよね」
「うん。行こっか」
部屋を出て、ヤシロと二人で寮の食堂へ。
夕飯は食堂のいたるところから新入生のおいしいという声が聞こえてきたのだけれど、私とイクサにはその味付けがあんまり合わなかった。
驕りかもしれないけど、私が作ったほうがおいしいと思った。これでもロヴィアさんのところではメイドとして毎日料理をしていたから、腕に自身はある。
う~ん。今度何か作ろうかなぁ。
10月の頭ごろまで忙しくなりそうなのでしばらく更新ペースがゆっくりになるかもしれません。
ごめんなさい。