第十一話
ディアロブ学園。ここはディアロブ王国建国当初に初代国王によって立てられた学び舎で、三千年の歴史を誇っている。外周を歩けば半日かかるほどの巨大な敷地内に、本校舎、学徒自治寮、が存在し、学徒の数は総計一万に達する。
学徒たちは七歳から十四歳までの八年間、親元を離れ勉学に励むこととなる。一般から入学するものはあまり多くないものの、学徒の八割を占める商人や貴族の跡継ぎにとっては将来へ向けコネを作る重要な場所ともなる。
本校舎は当初、飾り気のないシンプルな構造の十二階建てだったらしいのだが、増改築を繰り返し現在ではところどころが歪んでいる。かなり昔の建物だが、当時の最高峰の付与魔術師による建物全体への自動修復のエンチャントにより現在までその存在は保たれている。。学徒自治寮も同様だが、こちらは大幅な学徒の人数の変化がなかったためか形は当初のままらしい。
そんな学園の講堂で行われた入学式。
「諸君らはこのディアロブ学園の学徒として、常に高みを目指し続けて欲しい」
長い髭を生やした学園長の言葉が東京ドームのように巨大な建物の中に響き渡った。
そして一拍間をおいたかと思うと、すたすたと壇上から降りていく。
(え! それだけ?)
今年の新入学とは例年より少し多く1500名。加えてその引率や保護者、教師陣や来賓まで含めると五千人に近づく。それだけの人数をそろえて行われた入学式。
たった一言で始まり、そして終わってしまった。
誰も驚かないところから察するに、この世界ではこういうものなのだろうか。
イクサはこういうこと分からなさそうなので、こっそりとレグルスさんの顔色を伺ってみる。
視線に気付いたレグルスさんは私が何を言いたいのか感じ取ったのか、私の頭にぽんと手を置いて言った。
「今の学園長は煩わしいことが嫌いでね。こういう式典は国の祭事にかかわること以外をすべて省略して行うそうだよ。この学園にくるために長旅で疲れている人もいるから、早く終わることで助かる人だっているんだ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだよ」
私はその言葉に納得する。長ったらしいより幾分ましだ。
それよりも、あまりの人の多さにびびって、私の背中に抱きついているイクサがさっきからぷるぷる震えているのが不憫で、可愛い――――じゃない。さすがにかわいそうだ。
「さあ、私の役目はここまでだ。これからは各々の教室へと向かうことになる。君とイクサはほとんど滑り込みでの入学だったためにクラスわけでの調整が聞かずに二人一緒に1―Oだ。Oクラスはいろいろと特殊なクラスだが、君たちなら問題ないだろう」
「引率ありがとうございます。じゃあ私、イクサと一緒に行きますね」
「ヤシロと一緒・・・・・・よかったぁ」
「何か困ったことがあったら私に連絡するといい」
「はい。そのときはまたお世話になります」
「ああ。がんばってくるといい」
「・・・・・・・・・・・・はい」
私がイクサの背をぽんと叩くと、イクサもレグルスさんに言葉を返した。
目こそあわせていないし、私の後ろに隠れているけれど、昨日よりは少しだけマシになった。少なくとも、警戒心がでていない。イクサだって、日々ちょっとずつ成長している。
まあ叔父さんといってもあんまり実感沸いていないみたいだけど・・・・・・。
イクサがちゃんと返事を返せた後、私たちはレグルスさんと別れて1-Oと書かれたプラカードに向かって歩いていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私とイクサが指定された席につく。一番後ろの席、隣同士だ。
遠巻きに私たちを見ていたほかの八人いる1-Oの生徒たちもそれぞれが各々の席についた。
教卓にたった担任が全員席に着いたのを見届けるとバシバシと木製の教卓を叩き、自身に注目を集めさせ、言う。
「私はこのクラスの担任になった魔法実習担当のザカリアだ。これからよろしくな」
ザカリア先生は二十代前半くらいの女性でありながら真っ赤な髪を短く刈りそろえていて、また服装もあまり気にしていないみたいでインナーの上によれよれのワイシャツを羽織り、下はジーンズというなんとも適当な服装をしていた。ザカリア先生にはお洒落という概念はないみたい。
髪型の印象が強いせいか、その姿は教師というよりも野生の獣を彷彿とさせる。
横に座るイクサは珍しく、興味深そうにザカリア先生を見つめていた。
「よし。十人全員いるな」
ザカリア先生はうんうんと頷くと、私たち全員を見渡して言った。
「お前ら適当に自己紹介してろ」
その言葉に、教室中が呆然とする。
もちろん私もイクサも例外じゃない。
「ちょ、そういうのって先生が順番とか決めるんじゃないんですか?」
一番前の席に座る、深い青い髪を頭の後ろで縛った気の強そうな少女が手を上げてザカリア先生に抗議する。
「アタシがやるより個々にやったほうが絶対仲良くなるだろ」
「そうですけど・・・・・・」
「じゃあお前が一番初めにやれ」
えー!
私には直接関係のないやり取りだったけど、それはないでしょ。いくらなんでも無茶振り過ぎない?
「いいわ! やってやるわよ」
あんたもやるんかい!
「私はヴィヴィリオ・フリーネ。王族に代々仕えるヴィヴィリオ家の末娘よ!」
堂々と自己紹介を始める少女。もともと目立つのが好きなのか、ご機嫌な表情だ。
自己紹介が終わると、先生が次の生徒を指名する。
「僕は、ロカといいます。こんな見た目なのでよく女の子と間違われるのですが、男です。趣味は洋服のデザインです」
次に自己紹介をやったのはロカという少年? だった。服装こそ男物だったけど、顔や体つきはは完全に女の子のそれだ。むしろ男物の服を着ているほうが違和感がある。そんな少年。
自己紹介はどうにも前から順番に当てられているみたいで、私とイクサの順番は最後に回ってきた。
「・・・・・・・・・・・・イクサです」
「八代です。イクサのメイドをしてます。よろしくお願いしますね」
自己紹介の順番になるとイクサが真っ赤になって俯いてしまったので、私があわててフォローに入る。先生に当てられる前に自己紹介を終わらせちゃったけど、それくらい大丈夫だよね?
でもイクサはちゃんと自分の名前を言えた。偉い!
「よし、全員自己紹介終わったな。今日はおしまい。明日から本格的に授業に入るから今日の残りの時間は各自交流を深めておけよ」
そう言うとザカリア先生はあくびをしながら教室から出て行った。
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