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第59話 リアナの隠された想い

 見つめ合う二人。これはまるであの時と同じだ。屋根裏から不審な声がしたからと調査に入れば姉に見つかり、今度はミサラにまで──。まさか同じ轍を踏むことになるとは。リアナの胸中は驚きと落胆が入り混じっていた。 


 「あ、いえっ、別に……」


 そんな彼女の口を突いて出たのは、何ら解決の糸口にもならない誤魔化しの言葉だった。ミサラは顔を不思議そうにコクリ。ゆっくりと部屋の中へと入ると、リアナの前で膝をついた。


 「顔色が優れないようです。何か心配事でもおありですか?」


 「だから、何も……」


 「さようでございますか。リアナ様、もしよろしければ、私に何なりとお話しください。もちろん、伺ったお話しはここだけの秘密にございます。使用人にも守秘義務というものがあるのですから」


 ミサラは彼女のことを咎めたりなどせず、逆に気遣った。無断で姉の部屋に入り、何をしていたのかすらも恍けているというのに。


 この声にリアナはどこかほっとしてしまった。とても安堵できるような状況ではないにもかかわらず、張り詰めていた肩の力が抜けていくのを感じた。それでも、やっぱり言えない。姉の身を案じ、すぐにでも王都に行かなければと思っていただなんて──。


 (でも何で、私はお姉さまのことを想ってはダメなんだろう?)


 リアナが物心ついた頃から姉とは離されていた。口を開けば父も母も『この世界では魔力が全てだ』と、姉に近づいてはいけない理由はその一言のみで片づけられた。


 同じ屋根の下で暮らしている家族だというのに、まるで赤の他人だ。いえ、まだ赤の他人のほうがましなのかもしれない。リアナにとってはアーリナだけが家の外に鎖で繋がれた家畜のように感じられていた。


 初めのうちは『魔力がなくても私のお姉さまでしょ? どうしてなの?』と、何度も外交の行く先々で尋ねていた。けれど、返ってくる答えはいつだって同じ。それどころか両親の機嫌を損ね、馬車での行き来はいつも居心地の悪い空気に包まれていた。幼いリアナにとって、その時間はただただ耐え難かった。


 いつからだろう、次第に姉の話をしなくなったのは。子供の私がいくら訴えたところで、両親は話をまともには訊いてくれない。だったらお父様たちを超える魔力を身につけて、一日でも早く跡を継げばいい。そうすればお姉さまに対する仕打ちだって、自分の意志で止めることができるって信じていたから──。


 (仕打ちを止める? そう、私はお姉さまを初めから嫌ってなんかいない……)


 彼女はいつしか自らの魔力ばかりに囚われ、姉への想いに蓋をして突っぱねていた。姉とは口も利かない、目も合わせたくない、近づきたくもない──でもそれらは全て、その逆を成し遂げるための偽りの壁でしかなかった。姉を救いたいからこそのひたむきな想いだったのだ。


 リアナは心の奥底に閉じ込めていた想いを辿り、そして向き合い、自らが何のために頑張ってきたのかを今改めて理解した。


 「リアナ、様……?」


 そっと気がかりな目を向けたミサラ。リアナは彼女に対し「私はお姉さまが好きなのです!」と全く会話にならない返事をした。


 「あっ、ええと……も、もちろんですよね。姉妹でいらっしゃるのですから、誰よりも強い絆で結ばれているはずです」


 あまりにも急な告白に、ミサラは一瞬言葉がおぼつかなくなったが、彼女なりの優しさで答えを締めた。それと同時に「でしたら王都の件を言っても?」と一抹の不安までもが軽やかに頭を流れた。


 「リアナ様、実はですね……」「ミサラ、今王都が──」


 ミサラが打ち明けようとしたそのとき、リアナの口からも同じ「王都」という言葉が零れた。再び見つめ合う二人。ミサラはばつが悪い顔で「お先にどうぞ」と告げ、リアナもリアナで「そちらからどうぞ」と譲る。


 ここにきて無言の間。だが先に口火を切ったのは、従者であるミサラの方だった。


 「も、申し訳ございません……。私はリアナ様に嘘をついておりました。アーリナ様は今、実のところ王都に行っておられます。それで、理由のほうが……」


 「苺たっぷりのパルフェ、でしょうか?」


 「えっ?! どうしてそのことを──」


 姉が王都に行った理由を、リアナは訊くよりも前に答えてみせた。ミサラの頬は、戸惑いでヒクヒクと引き攣っている。


 「ここに、懇切丁寧に気持ちを綴ってあったのです。まったくおバカすぎるお姉さまだこと。ミサラ(あなた)の気苦労のほうが心配になってきますわ」


 そう言って手渡された一枚の紙には、小さな文字でびっしりと王都に立つまでの数日間の熱が刻み込まれていた。これを見れば、呆れてしまう妹の気持ちも十二分に理解できる──ミサラもまた苦笑いを浮かべていた。


 「それよりもです、ミサラ。今は急がねばなりません」





 暫しの時が流れた。リアナからこれまでの経緯を訊き、ミサラは眉間を険しく俯いていた。


 王都で何か不穏なことが起ころうとしている。王国騎士団長レイハルクが他領に赴いて協力を求めるとは。未だかつてない前代未聞の出来事であると、ミサラもすぐに悟った。


 リアナは急ぎ王都へ向かうことを願い出るが、ミサラはすぐに応じることができなかった。領主であるダルヴァンテが不在の今、彼女こそがこのフィットリアの守護者なのだから。


 「お父様からの言いつけが、やはり気掛かりといったところでしょうか?」


 このミサラの迷いすらも、リアナはお見通しだった。アーリナを連れ戻すにも、早馬を飛ばして二日はかかる。その間、フィットリアは他領に対する牽制力を失ってしまう。


 リアナに訊かれてもなお、頭の中の考えを走らせ言葉に詰まっていると、


 「私にいい考えがあるんだけど、訊く?」


 そう言った彼女の表情は、子供らしく分かりやすい悪巧みの顔をしていた。


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