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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
6 真の勇者
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足りないもの

 宴も終わり、皆が寝静まった頃。ニックがアキトのテントを訪れた。

「ロウが取引する気になってくれたぜ。もっとも工場を見学するなんて言い訳で、ロウはそういうの微塵も考えていないだろうがな」


「それはこちらも同じこと。その先の策が肝心だ。ロウは典型的なガンマンだから遠く離れていても油断は禁物だぞ」


 ニックは黒豹レグスを撫でながら、微笑む。

「洞窟の暗闇、工場の障害物、岩だらけの広間で敵は一人。どこをとってもレグスには良い環境だ。接近戦になれば二対一、これなら勝機がある」


「しっかり準備しておけ」

「もちろんさ。しっかり鎧を着ておくよ。それにとっておきもあるんだ」

 ニックは魔力の込められた球を見せた。金色の装飾が付いているのはエルフの技術力だ。


「大樹の幻影っていうんだ。友達からもらったんだ」

「友達というと、ハルトか?」

「違う。エルフの友達」


 ニックは気まずそうに視線を避けた。

「ハルトとはエルフの村で別れたっきりだ」

「まだ会っていないのか! 呼んでこようか?」


「ダメだ。どんな顔して会えばいいか、分からない」

 アキトは頭を掻いた。

「しかし、いつまでも喧嘩したままというのは良くない。私からそれとなく言っておこう」


「やめてくれ。あれだけの魔力持ちなんだから、俺の存在に気付いていないはずないじゃないか。それでも会いにこないということは、会いたくないんだ。


 やっぱりハルトは変わってない。相変わらず傲慢で、俺たちのこと無能だって見下しているんだ。わざわざ教えなくていいよ、俺が会いたいみたいじゃん……」

 ニックは尻すぼみで、逃げるようにテントを出ていった。



 ※    ※    ※


 料理の片づけをしているとアキトに呼び出され、テントに入った。

「何か足りないものでもあった?」


 小さなランプの光に照らされて、じっと見据えるアキトは迫力満点だ。獅子に狙われているような圧迫感がある。

「どうしたの?」


「――いや。その、なんだな」

 アキトは打って変わったように、目を泳がせている。アキトが見るかぎり、性格も姿もハルトは一年前から何も変わっていない気がする。

「エルフの村に行ったそうだな」


「うん。手紙で書いたけど、トキワタリのヒントが欲しくて。何かいい情報でもあった?」

 ここまで喋ったが、ニックのことをどこまで出して良いのだろうか。これ以上二人の関係に踏み込むのもいけない気がする。


「いや、それは無い。そうだ。大樹の幻影とはどういう物なんだ?」

 ハルトは目を丸くして、笑顔が消えた。

「魔王レンと戦うのに、そんなものが必要?」


「いや、知り合いからちょっと耳にして、どんなものだろうかと思ったのだ」


「世界樹が見せる幻術だよ。魔法をかけても、実際には魔法をかけたつもりで勘違いさせる効果。義足が超硬質化しているものだと騙されて一歩踏み込んで、一年無駄にした」


「大変だったな」

 それはご愁傷さまとしか言いようが無い。それを所持しているニックにも、当然良い印象は生まれない。


「まぁそのおかげで世界中を旅したけどさ。悪いことばかりじゃなかったし、いろいろと反省もした。秀でて強すぎる力というのは、弱点にも成り得るってこと。少しくらい足りないくらいのほうが、発展する可能性があって良いんだ」


 アキトは頷く。

「だが、私たちに足りないのは君だ。今回の作戦、いつものように頼むぞ」


 ハルトはそそくさと両腕を組み、仁王立ちした。

「俺は山を下りる」


 あっさり断ってやった。アキトは勢いよく立ち上がる。体格差が二回りも大きく、覆いかぶさるように迫る。

「何故だ!」


「俺はもう勇者じゃ――」

 そのまま胸倉を掴まれ、地面に押し付けられた。ちょっとどころではない。弱い魔王なら、とっくに圧し潰されている。

「くっ」

 ――バカ力すぎる!


 アキトがさらに力が籠め、瞳が狂喜に輝いた。その瞬間に弾かれ、アキトは三歩後退した。どうやって、何をしたのか分からないほど速い。魔王を倒す実力を得たというのに、それでもハルトに追いつくことができないのか。


 ハルトは身なりを整えているだけだが、二度目につけ入る隙はどこにもない。

「実力は落ちていないようだ。その調子なら魔王も倒せるな。ファーストアタックはキムラをふくめて十四人全員で挑むぞ」


「ダンジョンの盗掘を防ぐために、通例では騎士団以外の立入禁止だろ。俺はチームのポーターとして来ているんだ。ダンジョンに入る理由が無い」


「団長の私が許可している。残りの勇者たちも回復が済み次第、ダンジョンに潜らせる」


「無駄死させる気か!」

 ハルトは怒ったが、アキトは堪えた。

「私の領分だ。宿屋気取りが意見を言っても無駄。私に意見を言いたければ、部下として行動しろ。まずはダンジョンに行くことだ」


「それは……」

「もう一度、押し倒されたいか? 次は手を抜かんぞ」


 アキトは本気だ。でも俺はもう宿屋だから、それらしく襟を正し、宿屋の主としての品格と態度で臨もう。

「俺は朝飯を作るので帰ります」


「はぁ? バケットでも齧らせておけ!」


「とても地位とお金があって恩人なのです。その方に借金が三億あります」

「借金苦だと!?」


「いやぁ。それほどでも。だってご飯作って掃除すると免除なので、絶対に留守できません」

「金の問題なら報酬は弾もう。魔王一人ぐらい倒せば、その程度の金額は稼げるだろう。良い機会ではないか、レンを倒せ」


 昔からそうだが、アキトとはあまり意見が合わない。

「山を下ります。待ってくれている人がいます」

「待ってくれている人だと?」

「スバル・ローデハイム。俺の義足を作ってくれた大恩人です」


「逃げるな。戦況はわかっているはずだ。キムラたちを見捨てる気か! 見習いとはいえ勇者だろう! 本気を出せば、死傷者は一人も出ない! 全員見捨てて殺すと言っているのと同じだぞ!」


「この脚では自信ありません。第一に魔王レンは魔法使いです。戦闘系なら力でねじ伏せることもできますが、魔法使いは頭が良い。俺の能力が通用するかどうか……」


「何人も一人で魔王を倒した奴が何をいう。そのように魔力を抑えて、一般人のフリをしても無駄だ!」

「抑えていません。ほぼゼロです」


 アキトは声も出ない。

「前、6桁レベルだと自慢していただろう!」

「昼間にドデカイ花火あげたでしょう。あれ、使うと必ず一旦ゼロに戻ります」

「回復しろ! 今すぐ!!」


「宿屋はお客様がいる時は眠りません」

「宿屋気取りするな! 今すぐ寝て回復しろ」

「俺は今、宿屋です!」


 アキトは皮肉めいた笑いをした。宿屋になる以前に大きな問題を抱えているくせに、よく断言したものだ。

「仕方ない。一つ教えてやろう。アキーム盗賊団とアブソルティスは繋がっている。そして、このダンジョン内部に忍び込んでいるようだ」


「!」

 罠や嘘かもしれない。アキトはどうしてもダンジョンに連れて行く気だ。睨み合いが続く。するとテントの外が騒がしい。


「流れ星?」

「敵襲か!?」

「いや、宇宙船だ!」


 二人、我さきにと飛び出した。テントの山々の中に人が集まっている。


 楕円形の鉄の塊が見えた。翼が収納され、扉が開く。最初に見えたのは白旗、その次に銀色の髪だ。


「フロートエッグ!」

「カール! 遅いぞ、飯!!」


 アキトはニヤニヤと含み笑いだ。

「これで帰る理由がなくなったな!!」


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