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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
6 真の勇者
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 空が暗くなる前に騎士団はテントを張った。まる一日、登り続けると中間地点でキャンプをする。これから何日もモグラのように地面の中で過ごすので、大空の下、見晴らしの良い草原で過ごす最後の夜になる。


 とはいえダンジョンが目の前でもある。いつもならば時おりモンスターが襲ってくるので、武装した警備班が巡回し、緊張が解けないものだ。ところが、今回はハルトが宿屋で、大丈夫だからと主張するので全員が休憩することになった。


 アキトはハルトを信用しているが、やはり不安だ。いくらハルトが魔王を倒せるとしても、今までは一対一の戦いがほとんどだった。多勢に無勢という言葉もあることだし、宿屋だから大丈夫という理由だけでは納得ができない。


 そこでハルトをテントに呼んだ。ハルトは今夜もてなす料理のことで頭がいっぱいで、警備のことなど頭にない。

「本当に警備しなくても大丈夫なのか?」


「宿屋は魔王の領域に自然に溶け込める、すごく良いスキルだよ。異空間みたいなもので、敵が俺を倒さない限り、ここの安全は保障される。それに俺、テイマーだろ? 従わないモンスターなんて、そうそういないよ」


「その方が納得いくな。でもレンの側近幹部とか出てくればさすがに言うことはきかないだろ?」


「心配しすぎだよ。まだ中間地点だし、ダンジョンの入り口まで遠い。それにこの近辺、モンスターの数が少なくなっているだろ。知ってた?」


「確かに進軍が早かった。怪我人も少ないようだ」

「レンに何か起こっているみたいだけど、何か知ってる?」


 アキトは目を泳がせた。

「確実でないことは言えん」

「ふうん。そうなんだ、話せないなんて、俺たちの仲も褪めたもんだよな」


「よく言ったものだ。私を捨て置いて、さっさと宿屋になったくせに」


「そりゃ一緒に動けたらいいなって思ったよ。でも、アキトを連れていったら、世界中が敵だらけになるだろ。俺は英雄を堕落させた悪人呼ばわりされたくない。そうなったら、お客さんなんて一人も来ないよ。

 だから、もう少し我慢してくれ。近い将来、娘さんを保護して、一緒に暮らせるようにするからさ」


 アキトは皮肉っぽく笑う。

「たくさん話す時は何か企んでいる時だったな。取引か? どうせ過去のことは水に流してくれとか、そういう話だろう?」


「そうしてくれるとありがたい。もう宿屋なんで」

 ハルトは満足そうに微笑む。


「勇者は転職できん。そして勇者見習いも転職できん。宿屋の心得で宿屋を営業しても勇者だ」

「もしかして、まだ怒ってる?」


「君は逃げた。どのような理由があったとしてもそれは事実だ。私がどれだけ苦労したか、よく考えろ。私の戦績が大幅に下がれば、今までの協力関係が露呈してしまうところだったんだぞ。私がどれだけ必死で魔王を倒したことか。


 今ではバーサクハルトの活躍などなかったように、皆が強くなった。だから君の存在など、上の者は忘れてしまっただろう」

「それは良かった!!」


「良かったではない。感謝しろ。そして安心するな! 私はいつでも報告し、君を拘束できる立場にある。私が報告しないのは、上の意思に関係なく駒として利用するためだ。勇者見習いであることを忘れるなよ?」


「はっきり言ってくれて助かるよ。俺、アキトのそういうところが好きだ。それで相談なんだけど」

「なんだ、今の話ではないのか?」


「ディナーで食べたいものがあったら教えてほしいと思って」

「すっかり宿屋気取りだな。いつものアレでいい」


 ※    ※    ※


 王宮騎士団から食材を貰ったので、材料はふんだんにあった。久しぶりに腕が鳴る。興奮しながら、調味料と素材を吟味した。今夜、テーブルに並ぶのはアキトのための特別なメニューだ。

「和風フレンチ!」


 フランス料理がベースとなっているが、箸で食べて、和風に寄せた味付けだ。アキトがよく食べた絶対的なメニューで、百戦百勝の味。これで心をグッと掴んで、機嫌よくさせておこう!


 料理は楽しみ、喜んでもらうための闘争だ! 


 大量、かつ短時間で、全部を一人でこなす。かなりのハードワークとなるが、料理人として勝負どころだ。


「温製オードブル、海老と色どり冬野菜の大根ケース詰め焼きでございます。

 チコリと塩昆布で和風っぽいフレンチサラダ。

 スープはえんどう豆のポタージュでございます」


 全部通常よりも量が多めだ。それでも食べるのは一瞬。


 ――負けていられるか! 調理時間の助けになるのがコレだ!


「洗練された秋香るラタトゥイユでございます」


 バゲットを中央に置いて、時間と小腹を稼ぐ。ラタトゥイユは煮物とスープの中間あたりの存在で、バゲットに汁を吸わせて食べても美味い。

 軍隊や囚人たちの定番飯で、時に臭い飯仲間の表現に使われたりする。高級感は無いが、大胆に鍋で取り放題だ。

「懐かしい味、だが具材で季節を感じるな!」


 アキトの喜ぶ顔を見る間もなく、再び調理場へダッシュだ。


「お魚料理 白身魚のムニエルをショウガソースで」

「お肉料理 柔らか鴨肉のロースト。ミックスキノコ添え 赤ワイン醤油仕立」

「デザート 桃と柿の二種のムースとミニケーキ。いろいろフルーツ盛り合わせ……です」


 最後のほうは全力を使い果たして、気力勝負だ。フルーツ盛り合わせ=綺麗に切っただけ、という罪悪感がある。フルーツソースまで心を込めることができない。最後が大事なのに、いつも体力がもたない。作る側は地獄、食べる側は天国のメニューだった。


「ハルトの飯はいつも美味い!」

「まさかハルトさまがこのようにお料理上手だったとは意外ですな」

 アキトは声が大きい。キムラと話が合うようでとても賑やかだ。

「お願いですから、お二人ともその名前で呼ぶのやめてくれませんか?」


 アキトはこっそり耳打ちする。

(ずっと私の保護下にいろ。宿屋でも何でも好きにするがいい。聖女にも渡さん。だからまた逃げたりするなよ?)


 逆にハルトも耳打ちする。

(また後始末させる気か? 捨てた過去を拾うような真似はやめてくれ)


 アキトは含み笑いだ。

「そんなに上の者に報告してもらいたいか? 長い休暇を前に、働くのはうんざりか。私が任せた極秘任務が長かったせいで疲れたか?」

 その長い休暇とは牢獄行きのことか? もちろん極秘任務など受けていない。


 アキトはキムラをも巻き込む。

「聞いてくれ。彼はずっと私の裏方として働いていたのだよ。誰も知ることもなく、コツコツと結果を出してきた」

「おお! そうだったのですか。死亡説で持ちきりでしたね」


「死んだままということにしておいてくれ。次の任務も内密なのでね。これは君と私だけの秘密だよ?」

「はい! では宿屋をしているのも任務の一環なのですね!」


「まぁ……そういうことだ。ところが今回の任務、最終段階になって、ダンジョンに潜りたくないという。どう思うかね?」

「そこは一番結果を出さなくてはいけないところではないですか!」


「君もそう思うだろう? 少し激励してくれんかね。彼は潜入しすぎで、ここの魔物たちと仲良くなりすぎてしまった。情が湧いたのだろう」


「魔物たちに情は禁物です!! 奴らは敵なのですから」

 キムラは勇んで立ち上がる。そして後方で紅茶を持つハルトを襲う。

「いかあぁん!! 魔物に心を許すなど!!」


「お! お茶がこぼれます!! 何の話でしょうか」

「ハルトくん、君は絶対にダンジョンに入るべきだ。そしてブレイブハートを取り戻すのだぁ!! RBC! 校歌斉唱!!」


 キムラが何回も歌いだした。

「ほら、ハルトくんも歌いなさい!!」


 Be Braver♪ Be Braver♪ 我らは聖女と共に有り~♪

 邪悪は許すな♪ 平和を守る運命を誇れ~♪ 

 紋章のごとく♪ 燦然と輝け~ Be Braver!(勇者になる)


「もう一回!!」

 次第に歌う人数が増え、200人が大合唱だ。アキトが笑いつつ、ゴブレットを夜空に捧げた。

「再会を祝し、作戦の成功を願って、乾杯!!」


 楽しいキャンプな夜が更けていく。

 利用されてしまう不安を抱えつつ、ハルトは苦笑いをした。


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