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アップルパイと王さま

笑顔の秘書「おはようございます、王さま。誕生日おめでとうございます」

嬉しそうな王「ありがとう。今年も覚えていてくれて嬉しいのー」


慌てるSP「あっ!おめでとうございます、王さま。

もちろん俺も覚えていましたよ、秘書に先を越されただけで」

やっぱり嬉しそうな王「ほっほっほ!ありがとう」


 今日は王さまの誕生日です。お城で顔を合わせた人達はみんな、

王さまに「おめでとうございます!」とお祝いの言葉をプレゼントします。


 王さまはまるでサンタクロースのようにフワフワな髭を撫でながら、

笑顔で「ありがとう」とお礼の言葉を返します。


 そして一番お気に入りの衣装に着替え、特別な日にだけ身に付ける

豪華な王冠をかぶると、王さまはお城のバルコニーへと出ます。


 この日の空は見事な秋晴れで、お城の中庭には、多くの国民達が

王さまを待っていました。


「「「誕生日おめでとうございます!!!」」」


 たくさんの歓声が、王さまを包みます。それはまるで

偉大なオーケストラのように響き渡り、王さまの体を、心までも震わせます。

 王さまはにこりと微笑むと、マイクを手にし、中庭に集まった人々だけでなく、

カメラの向こうにいる全ての国民達にも、感謝の気持ちを伝えました。


 その挨拶が終わると、花火が打ちあがり、それが合図となって

素敵な祝日が始まります。国民達は盛大に今日という日を楽しみ、

王さまがこの世に産まれたことを、国中でお祝いします。


秘書「王さま、お疲れ様でした。さぁ、私達もパーティをしましょう!」

SP「コック長が朝から張り切って、ステーキタワーのギネスを狙ってたけど、

たった1mで崩壊してました」

王「ほっほっ!去年と一緒。コック長はギネス記録2つ持ってるし、

もっと増やしたいんじゃのー」

秘書「どちらの記録も、全く料理は関係していない内容ですけどね」


 そうして王さま達はみんなが待つ食堂へと向かいました。

それぞれが席に着くと、テーブルの上にはご馳走が目いっぱい並んでいます。


テンションの高いコック長「王さまオメデトウ!

でも残念ネ、ステーキタワーはギネスダメだった!

でも美味しいヨ!食べ過ぎると太っちゃうから注意ネ!」

王「ありがとう、黒ウーロン茶も飲むからきっと大丈夫なはず」


 コック長が腕によりをかけたスペシャルなメニューの中に紛れて、

少し焦げたアップルパイがテーブルの隅にこっそりと置かれています。


気づいたSP「あれ?秘書が作ったアップルパイ、中央に置かないの?」

ムスッとした秘書「いいんです。ちょっと失敗してしまって、この場に

相応しくありませんので」

気に食わないSP「なんだよ、せっかく俺が早起きして、庭園から

収穫してきたリンゴなのに…」

王「じゃあそのアップルパイからいただこうかのー」


 そう言って王さまは、アップルパイに手を伸ばしました。

秘書は一瞬、それを止めようとしましたが、アップルパイは

王さまの大好物だと知っていたので、ぐっと口を結び、何も言わずに

それを見つめました。

 王さまはアップルパイを頬張ると、穏やかに微笑みました。


王「文句なしで美味い。シナモンがたっぷり入っていて、

わしのためを想って作ってくれたことが伝わってくるのー。

これほど誕生日に相応しいケーキ、他にはないのー」


 王さまの言葉に、秘書はようやく表情を緩めました。

和やかな雰囲気に満ちた食卓で、王さまはゆっくりと、話を始めます。


王「この庭園のリンゴの木は、わしの大事な友人と植えた記念樹なんじゃ。

彼は、日本の象徴としての役割を担っていて、わし達は年も近かったので、

色々なことを話し合ったものじゃ。

 これは誰にも話したことはなかったが、当時、まだ若かったわしは、

彼にある悩みを打ち明けたことがある。それは、秘書と初めて会った時の

ことがきっかけじゃった」


驚くSP「えっ、秘書って王様の悩みだったの?」

誰よりも驚く秘書「初耳です!」

王「もう20年も昔のことだし、秘書が悩みではないから落ち着いてね?」

SP・秘書「「はーい」」


王「わしが王位を継承してすぐに、国民達との交流会が開かれた。

そこで初めて秘書と、当時5歳くらいの小さな女の子と会ったんじゃ」


悔しそうな秘書「面と向かってお会いしたのは、就職活動の最終面接、

もとい、秘書のオーディションが初めてだと思っていました。

完全に覚えていない!なんたる失態!!!」

爆笑するSP「面接官の方が覚えているパターン、草生える」


王「その小さな女の子は、わしと目が合うと、深くお辞儀をして

『おめでとうございます』と言ってくれたんじゃ。

わしはその瞬間、『王』としての重みを、改めて実感した。


 まだ物心ついたばかりの子どもですら、わしを敬うことを、当然のこと

として考えている。それはまるで宗教神のように、道徳心のように、

わしは国民達の心の中に存在し、根づいているのだと気づかされたんじゃ。


…今思えば情けないが、当時のわしは、次期国王としての自覚を胸に、

35年間を生きていたのに、ずっと理解していたはずなのに、

急に恐ろしくなってしまったんじゃ。

 手放しの賛美が、期待が、いつ形を変えてしまうだろうかと、

目には見えない国民達の心が、恐ろしかったんじゃ」


 王さまはそう言って、アップルパイを見つめました。


王「そんな悩みを、彼はこの国を訪れた際、わしと近い立場から

深い理解を示してくれた。彼との出会いでわしは、多くのことを学んだ。


 平和を望む気持ち、国民を想う気持ちが、自分を、王を、そして国を、

いつだって正しい道へと導いてくれるのだと知ることができたんじゃ。


 そして、この気持ちをお互いに忘れないためにと、庭園にリンゴの木を植えた。

それ以来、このリンゴが実ると、毎年日本に送っているんじゃ」


 王さまはそこまで話すと、テーブルを囲んだ全員の顔を見渡します。


晴れやかな表情の王「わしの誕生日を、『おめでとう』と祝ってもらえる

ということは、わしを王として認めてくれているということに等しく、

わしは心から、『ありがとう』と伝えたいんじゃ」


いつになく真面目な表情のSP「王さまに一点だけお伝えしたいことがあります」

王「なんじゃ?」


SP「我々は、王さまが、『王』だから仕えているのではありません。

あなたがいつだって真摯で、陰で努力し、そして我々国民のことを

深く愛してくださる王さまこそが、『王』に相応しいと信じているから、

我々は支えたいと思うのです」


 SPの言葉に、テーブルを囲んでいたみんなが頷きます。


頷き、泣いている秘書「幼い私は、子どもながらに『王』という存在を

眩しく見つめていました。思想が自由な時代だからこそ、

国民一人一人が、真っ直ぐな気持ちで、王さまの光を

見つめることができるよう、我々も尽力させていただきます」


 秘書の言葉に、再び、みんなが強く頷きます。


涙が零れる王「なにこれ、泣いちゃう」

号泣しているコック長「これ以上泣くと料理がしょっぱくなるヨ!

泣いてないでステーキ食べてヨ!冷めちゃうヨ!」


 笑顔に満ちた食事が終わると、今年も、日本の大切な友人からプレゼントが

届いていました。

 贈られたのは、美しい竹細工のかご。それは可愛らしいリンゴの形をしていて、

王さまお気に入りのお菓子入れとなりました。



やっぱり王さまって最高だわ

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