八拾弐 おれは愚か者
「ゴメン」
と、直ぐに謝る。
「米さんや美登里さんのことは、全く頭になかったんだ。つい勢いで、つまらないことを言ってしまった」
「いや、別に怒っちゃいない。ただ、友達だから言うんだが、お前はインテリの癖に、後先も考えずにパーッと言い放ってしまう所がある。少し意識して、そういう所は改めたほうがいいんじゃないのか?」
この男は一見乱暴そうに見えるが、おれよりも余程思慮深く、思い遣りもある。友達と言われて、思わずじーんとなった。
「そうなんだ。自分でも分かっているんだが、なかなか直らない。でも、有難う。気を付けるよ」
こういうことを素直に言える友達が、この田舎でできたことが、おれは本当に嬉しかった。
すると、キンケツが、
「おい、落目」
と声を掛けてきた。
こいつからそう呼ばれる度に、横っ面を張り飛ばしたくなる。
「何だ?」
辛うじて自分を抑えながら、返事をした。
「その閑人がやるという俳句で、彼らはちゃんと金を稼いでいるが、そういう君はどうなんだい? 見たところ、大いに閑そうに見えるが、一文でも自分で稼いでいるのか?」
まさに、痛い所を突かれてしまった。
おれは散文的人間であるが、元々目標にしていた小説を今は書くでもなく、日々自堕落に生きているだけだ。詰まる所、三文文士以下の人間なのだ。
「いいじゃねえか。人の金で生きてるわけでなし」
寅さんが助太刀をしてくれる。
「そうだよ。余計なお世話ってもんだ」
ヤンマーも加勢してくれる。
「然しそれじゃあ、親の財産をただ食い潰しているだけじゃないですかねえ」
「あははは。そりゃ、そうかもしれねえな。俺たちだって、最初はこの先生のことを、穀潰しだなんて呼んでたもんなあ」
「その前は、物好きだとか、変わりもんだとか呼んでた」
ヤンマーも笑う。
二人とも何だよ、その見事な手のひら返しは……。
「それに……ヒック、愚かもんですね」
と、キンケツ。
段々雲行きが怪しくなってきた。
こいつは普段から嫌味なことばかり言うが、酒を飲むと更にそれがパワーアップして、どんどん人の悪口を言うようになる。そうやって、無闇に人に絡み出す。良くない酒だ。
「愚かもんは、一文の金を地面に埋めて、何もしないまま、あとでまた掘り返す。当然、地面に埋めておいただけの金が、ひとりでに増えるわけがない。
然し、我々商社の人間は違う。知恵を使って、それを数千倍、数万倍にも増やすんです」
「知恵は知恵でも、悪知恵を使うんだろう」
「悪知恵……? 大いに結構じゃないですか。悪知恵プラス三角術も使えば、天下無敵れす。ヒック」
「あほらし……」